第3話:四聖獣の覚醒と、規格外の魔導師
1. 東方大陸への漂流
王都を離れ、広大な世界を旅することにしたリリアンは、己の魔術の真価を試すべく、最も危険な地域として知られる東方大陸を目指していた。彼女は『次元収納』に収めた古代魔導師の魔導船を、短期間だけ稼働させ、外海を渡っていた。
「地図によると、この先は古代文明が栄えた大陸のはず。魔物の生態も、王都周辺とは全く違う」
リリアンは、船上で静かに自身の魔力を調整していた。一年の修行で、彼女の魔力は、もはや制御を必要としないほど体の一部となっていた。
その時、船体全体が激しい振動に襲われた。
「何事!?」
甲板に飛び出すと、海面から巨大な水柱が上がっていた。その水柱の奥に、巨大な影がうごめいている。
『鑑定』を発動させる。
名称:玄武 種別:四聖獣(東方) 特性:水属性魔術の支配者、絶対防御 状態:覚醒途上、魔力暴走
「四聖獣……!? しかも、覚醒途上だと!?」
玄武は伝説上の存在であり、世界バランスを保つための強大な守護者だ。それが暴走しているということは、世界のどこかに異変が起きている証拠だった。
玄武は巨大な頭部を上げ、リリアンの船目掛けて、圧縮された水塊を放ってきた。現代の魔導師では、一斉にかかっても防げないほどの威力。
2. 極光雷炎の試運転
リリアンは動じなかった。彼女の顔に浮かぶのは、恐怖ではなく、自らの魔術を試せることへの興奮だった。
(古代魔術の応用編。防御と攻撃を同時に行う。魔力消費は大きいけれど、これは絶好の機会だわ)
リリアンは、無詠唱で二つの魔法陣を起動した。
一つは、玄武の攻撃範囲外に瞬時に展開する『空間障壁』。玄武が放った水塊は、空間障壁にぶつかり、まるで別の次元に吸い込まれるように消滅した。
そして、もう一つが、修行の集大成である複合魔術。
「古代魔術、極光雷炎!」
リリアンは、先ほど岩壁を蒸発させた威力の三倍に増幅した極光雷炎を、暴走する玄武の急所である首元目掛けて放った。
青いオーロラを纏った炎の槍が、凄まじい速度で玄武に迫る。玄武は即座に『絶対防御』を発動し、周囲に濃密な水のバリアを展開した。
ガアアアアアア!
防御バリアと極光雷炎が衝突し、海全体が白い蒸気で覆い尽くされた。その衝撃は、まるで隕石が海に着弾したかのようだった。
3. 一撃の代償
蒸気が晴れると、玄武の巨体は海面に沈みかけていた。絶対防御は破壊され、首元には大きな損傷が生じている。四聖獣が、たった一人の魔導師の一撃で倒されるなど、世界の歴史上ありえないことだ。
リリアンも、その反動で船の舵にしがみついた。
「すごい威力……でも、やはり魔力消費が激しい。連発はできない」
玄武は、弱々しい唸り声を上げながら、リリアンを見つめた。その眼差しは、怒りではなく、驚きと問いかけを含んでいた。
玄武の意識が安定したことを確認したリリアンは、固有スキル『古代語翻訳』で玄武の思念を読み取る。
玄武の思念:「我を傷つける人間など、数千年の時で初めて。お前は、この世界のバランスを崩す者か、それとも……」
リリアンは答える。
「私は、ただ世界を知りたいだけの旅人よ。そして、あなたを暴走させている原因を探っている」
玄武の思念:「我の暴走は、北の領域で『白虎』が力を使いすぎたため。四聖獣のバランスが崩壊している。そして、その白虎を呼び覚ました者がいる……偽りの聖女だ」
リリアンの表情が凍り付いた。
4. 偽りの聖女と破滅の足音
玄武が示した情報によると、北方の領域で、王国の聖女イザベラが白虎を「召喚」しようとする儀式を強行したという。
白虎は、強大な攻撃力を象徴する聖獣だが、その力は制御が難しく、本来は四聖獣の長老である青龍の許しがなければ呼び出せない。イザベラがそれを試みたのは、王都周辺の魔物被害に対処するため、アルベルト王子にそそのかされたからに違いなかった。
「あの傲慢な王子と、自己顕示欲の塊の偽聖女が、世界のバランスまで壊し始めた……!?」
玄武は力を振り絞り、最後の警告を発した。
玄武の思念:「北方の領域は既に荒廃し始めている。白虎の力は制御不能。お前の力は、この世界の魔術師とは異質なもの。もし、この世界の均衡を取り戻したいのなら、白虎を止めろ。さもなければ、東方大陸は滅びる」
リリアンは、玄武の言葉に迷いはなかった。王都への復讐心はあったが、世界が滅びてしまっては、元も子もない。
「分かったわ。私は北に向かう。白虎を止める」
玄武は、リリアンの決意に満足したように、静かに海中に沈んでいった。
リリアンは魔導船を北へ急旋回させた。
(アルベルト王子、イザベラ。あなたたちが私を追放した判断が、いかに軽率で傲慢なものだったか。その尻拭いを、今度は私がしてあげるわ)
復讐の矛先は、王都ではなく、世界を崩壊させようとしている元婚約者たちに向けられた。リリアンの次の目的地は、白虎が暴れる北方の荒廃地帯。それは、リリアンが追放された王国のすぐ北に位置していた。
第3話、いかがでしたか!
ついに来ました、四聖獣! しかもいきなり東の守護者「玄武」が暴走して登場です。
玄武の超強力な水塊攻撃を、リリアンちゃんは『空間障壁』で一瞬で無効化! そして、修行の成果である『極光雷炎』で、四聖獣すら一撃でノックアウト! 強すぎますね、規格外の魔導師リリアン!
そして判明した、王都の最悪な失策。なんと、偽聖女イザベラと傲慢王子アルベルトが、魔物に対処するために四聖獣の白虎を無理やり呼び出すという、世界破滅級のやらかしをしていたことが判明しました。やっぱ、あの二人碌なことしない!
リリアンの復讐の舞台は、世界を救う戦いへと昇華されました。北方の白虎を止めるために、彼女は元婚約者たちがいる王国の近くへ戻ることになります。
次話は、リリアンVS暴走する白虎、そして、白虎の力に溺れる偽聖女イザベラとの対峙が待っているかもしれませんね! ざまぁまでカウントダウン開始です!




