序章:無能の烙印と追放
「お前は聖女じゃない。ただの役立たずだ。今すぐこの王宮から出て行け」
威厳に満ちた王の声が、大広間に響き渡った。
私の名前はリリアン。前世でブラック企業に勤め、過労死した後に、この剣と魔法の異世界『アウロラ』に、伝説の『光の聖女』として転生したはずの少女。
しかし、現実はあまりにも残酷だった。
転生直後、私は生まれ持った特殊能力を鑑定された。王国の魔導具が示した結果は、周囲の期待を嘲笑うかのようなものだった。
聖なる力(ヒール、浄化):【E-】(ほぼゼロ。一般人以下)
魔力総量:【C】(平凡)
固有スキル:『鑑定』、『古代語翻訳』
光の聖女として期待されていたにもかかわらず、リリアンには治癒はおろか、簡単な光の魔法すら満足に使えなかった。王族も、婚約者であるはずの傲慢な第一王子アルベルトも、手のひらを返したように私を蔑んだ。
そして、ついに今日、真の聖女が現れた。
それは、公爵令嬢のイザベラ。彼女の魔力鑑定結果は、誰もが息をのむものだった。
聖なる力(ヒール、浄化):【S+】
魔力総量:【A】
固有スキル:『聖域展開』、『奇跡の光』
「イザベラこそが、真の光の聖女だ。リリアン、お前のような偽物は、もはや王国の疫病神でしかない」
アルベルト王子は、イザベラを抱き寄せながら、私に冷たい視線を投げつけた。
「お前の存在は、我々の偉大な計画を汚す。慰謝料として金貨一枚くれてやる。二度と王都に足を踏み入れるな」
屈辱だった。しかし、私は反論しなかった。前世で培った諦めと、この世界の理不尽さへの理解が、私を黙らせた。
「……かしこまりました」
私は、わずかな荷物と、王族から押し付けられたたった一枚の金貨を手に、王宮の裏門から追放された。
雪が降り始めたばかりの夜の王都は、私には冷たすぎる。
「聖女? クソくらえだ」
誰も見ていないことを確認し、私は小さく呟いた。
「どうせ、前世の知識と『鑑定』スキルがあれば、生きていける。それに……」
私は、誰にも明かしていない、もう一つの秘密を思い出していた。それは、『古代語翻訳』スキルによって読み解いた、この世界に伝わる失われた古代魔導書に記された、強大な力の源。
――ざまぁは、ここから始まる。
私は王都を背に、古代魔導書が示す『辺境の廃墟』へと向かって、雪の中を歩き始めた。
(待ってろ、アルベルト王子。そして、王国。あなたたちが私を追放したことを、死ぬほど後悔させてあげるわ)




