1.1 重くなるベンチ
土曜日の早朝。大山は、誰にも見られたくない気持ちで、ひっそりとした公園のベンチに座っていた。昨日、おもちゃ会社からの退職を告げられたばかりだ。彼の心は、70キロを超える身体の重み以上に、未来への不安という名の**『社会的重圧』**で沈んでいた。
「人生とは、**『予測された重力』**から逸脱するものなのよ」
突然、隣から声がした。大山はビクッと体を震わせ、声の主を見た。
分厚い眼鏡をかけ、クリップボードを持った、見慣れない少女――アカリが、ベンチの端にピシッと座っている。
「何をブツブツ言ってるんだ、お嬢ちゃん」
アカリは、大山の全身を上から下まで念入りに観察し、クリップボードの数字を何度も確認した。そして、きわめて真剣な表情で、静かに告げた。
「大山さん。あなた、実は5グラムでしょ!!!」
大山は思わず、持っていた空き缶を落としそうになった。
「は? いきなり何を。失礼だぞ、私は70キロ
以上ある、ごく普通のおじさんだ」
「私が言っているのは、あなたの**『見かけ上の質量』のことではありません」アカリは冷静に言った。
「私たちが生活しているこの世界は、『非真実の重力場』に覆われています。あなたの身体の原子核、電子、クォーク…それら全ての真の重さを計算した結果、導き出されたのが5グラム**という数値よ」
「原子核だのクォークだの…」大山は呆れた。「私が5グラムなら、今頃、風でどこかへ飛んでいっているはずだろ?」




