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折衷世界4 弟兄折衷 ミカ   作者: 西江くら
弟兄折衷 ミカ
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プロローグ

 たとえそれが人間の死につながる悪しき感情だとしても、持たなくてはならない状況はある──と。いつものように物語を始めることは、しかし、もう飽きられたかもしれない。もう何度も同じように話を始めているから、またこのパターンかと、そう思う向きもあるかもしれない。

 けれど、感情は人間だ。

 飽きるだって、人間である証左だ。

 だから、聞いて欲しいのだ──聞くべきなのだ。人間であるなら、この、感情についての話を聞くべきなのだ。

 だから。

 もう、本当に聞いているかの確認はこれからはとらないけれど──でも、聞いてくれていると信じて、話す。

 始める。聞き逃さないで、くれ。

 いくぞ?

 たとえそれが人間の死につながる悪しき感情だとしても、持たなくてはならない状況はある。 

 プロローグを、始めよう。

 たとえそれが人間の死につながる悪しき感情だとしても、持たなくてはならない状況はある──だ。

 それはたとえば、憤怒だろうし傲慢だろうし色欲だろうし嫉妬だろうし暴食だろうし怠惰だろうし強欲なのだ。

 ただ、これらを思い描いてみても、一つ、ずば抜けて悪しき感情がある。

 怠惰だ。

 怠惰だけは、他のものと比べて明らかにその出現頻度が違う。

 その凶悪さも。

 この感情だけは、ずば抜けて獰悪だ。

 獰猛で、獰悪だ。

 考えてみたのだ。これらの感情の動きについて。

 全部で七つ。

 憤怒。意外と、人は怒らないものだ。というか、怒ることが疲労に繋がるのを嫌い、大抵の人は怒ることをしない。

 傲慢。意外と、謙虚な人は多い。それに傲慢だったとしても、それが根拠のない自身に繋がるのであれば悪いことばかりではないだろう。

 色欲。意外と、これが悪い方向に繋がることは少ない。そもそも、人間という種族の繁栄は色欲がなければ成り立たないのだから、これを持つこと自体は当たり前だ。

 嫉妬。意外と、負の感情は成長に不可欠であることが多い。やりすぎは注意だけれど、自分よりなにがしかの世界で優れている人間がいれば、嫉妬することで自身の人生の目標に捉えることが出来る。

 暴食。意外と、どころか、食べるというのは生きていくなら不可欠だ。考えようによっては、それほどに食べ物を身体に蓄えられると考えることも出来るだろう。人間、食べなければ動けない。

 強欲。意外と、どころかこれも、そこまで矢面に立たされるべき概念ではない。人間、欲があるのだからエネルギーを発揮できる、欲がなければただ生きているだけだ。

 では。

 では、怠惰は?

 怠惰は、どうなる?

 結論から言おう。

 怠惰だけは、擁護のしようがない。 

 これを持った人間だけは、何の役にも立たない。

 死ぬべき人間がもしいるのなら、間違いなく、この属性を持った人間だ。

 ふと、振り返るのだ。

 人間、生きていくだけでもなにかと面倒の多いもので。

 だから、生まれた時点で、自分に枷がはめられる。

 人生という名の。

 その枷はずっと、自分の頭でも首でも腕でも足でも、ずっと、生きている限りはついている。 

 だが、怠惰はそれに、真っ向から対立する。

 枷が進む道を決めるというのに、怠惰だけはこれに反抗する。

 ともすれば、自己の矛盾すら吞み込んで。

 他人への愛すら、仕舞い込んで。

 怠惰だけは、それに真っ向から。

 そうすると、どうなる?

 怠惰を持った人間は、どうなる?

 その枷に刻まれた、果たすべき事柄を達成しなかったら?

 その人間はどうなる?

 これも、結論から言おう。

 自身の人生に、何倍もの物量になって、しっぺ返しが帰ってくることになる。

 それは多分、不可避。

 絶対的な存在感を持って、その人の人生に立ち塞がることになる。

 それは、他の感情にはない負債。

 他の感情に比べて、怠惰だけが持つ負債。

 他の感情はもしかすると、生きていくことに追い風として、プラスになってくれるものだってあるが。

 怠惰だけは違うのだ。

 これだけは、度し難い。  

 これだけは、凄惨だ。

 これを持った人間は、もはや人間ではないと言ってもいい。

 それに、怠惰の出現頻度は、他のものと比べて格段に多い。 

 その深さも、分布も。

 人間の社会に、酷く蔓延し、汚染している。

 では。

 では。

 俺の場合は。

 俺の場合は、どうなのだろうか。

 やり忘れたことは、ないだろうか。

 やり忘れ、目の前にあるのに、見ないふりをし。

 置いてきたふりをしていないか。

 だから、この物語は、それを拾っていく物語でもあるのだろう。

 俺が。

 もしくは、おれが。

 俺が、俺として、やったこと。

 おれが、おれとして、やったこと。

 そして、やらなかったこと。

 そのどちらもを。

 これは、追っていく物語なのだ。

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