序章~エルフの森の守護者~
精霊歴 5990年
精霊の加護を受けし大陸
【精霊大陸 アーダ大陸】
5つの国で構成されていおり、太古の昔に月の神セレナと太陽の神マテラスが作った大陸だという神話が残っている。
それぞれ精霊の加護を受けている国は特有の力を持ち、全ての大陸を手に入れた国は願いを叶えられると言われてる
各国が均衡を保つ中、闇の国【アビス】はそれを無視して各国に間の手を伸ばした。
各国は一致団結し、アビスを討伐しようとするが強大な力により滅ぼすことは出来なかった。
各国は大人しく奴隷に成り下がるしかない。
そう思った時だった。
大陸の1つの雨の精霊の加護を受けた国
【ハイドレンジア国】
そこには大陸最強と歌われる黒騎士が現れたのだ。
太陽のように美しく輝く金の髪にアクアマリンを彷彿とさせる青い瞳。
誰よりも剣が強く、誰よりも気高い。
しかし彼の本当の正体を誰も知らなかった。
それは1度は忠誠を誓った相手さえも...
彼が居れば安心だ。
各国はそう思った。
しかしこれが間違いだった。
強大な力はその身を滅ぼすことがあると言うようにレオンは魔族から狙われるようになった。
強大な力を持っていても所詮人間。
「レオン!! 」
長年続いた魔族との大戦で帰ってきたレオンは物も喋らぬ肉塊へと変わってしまった。
レオンが死んだことは国を関係なしにすぐに広まった。
「レオンが死んだらしいわよ。」
「戦争はどうなるんだよ!また魔族が攻め込んできたら...」
「こうなった以上同盟を組むしかない!」
彼の死をきっかけに各国は疲弊していたアビスと契約を交わした。
奇しくも彼の死がきっかけで戦争は終わりを迎える"はず"だった。
この時までは────
*****
あれから10年後
────精霊歴6000年 ミルクヴィスの森
(そういえば今日か。今日でもう10年も経つのか。)
無数の火の灯った空を飛ぶ灯篭を横目に腰に剣を刺し、濃い霧の中、レイラ・ヴィザードリィは一人森を歩いて行く。
絹のような白銀の髪にアメジストのような美しい瞳。
長い耳に、色白の肌、細身で美しい顔立ちは彼女がエルフだということを意味していた。
ここは魔力が持たない人間が近寄ると即座に迷い、一生出られないと有名なミュルクヴィズの森。
精霊使い、通称『エルフ』の血族たちと魔法使いの血族たちが住む、神聖な森だ。
彼女はエルフの中でも別格の力を持ち、わずか200歳エルフからすると20歳という、エルフの中ではまだ赤子でありながら、この森の守護者を任されるほどの実力を持ち、エルフの中では異例の剣の魔道具を持った変わり者のエルフである。
剣術も出来れば魔法も使えるという、魔法だけしかできない他のエルフたちから見たら異様なエルフだった。
しかし彼女は冷遇されることがなく、むしろ彼女をミュルクヴィズの守護者だと祭り上げる者たちばかりだ。
(それにしても時の流れは早いな。)
大抵のエルフはその寿命からか時の流れをあまり気にしない。むしろ遅いすら感じるであろう。100年が1年に感じるとかね。だからエルフにとっては人間の一生など短く、人生の一節にも満たない。それ故に自分たちより寿命が短い人間とは関わることをよしとせず、どの国にも属さず、どの国にも手を貸さない。それがミュルクウィズの民の掟であり、森を出ることはあまりなく、大半がこの森で一生を過ごす。
しかしレイラは違った。彼女はとある理由から、幼い頃人間の国で育っていた。
物心着いたことから人間として生としてき、200年のうち身分を変え、国々を点々とし、大半を人間生きて、そして人間と関わってきた。
だからこそ彼女は人生は長いと感じていた。
「姉ちゃん!」
「どうした?テオ」
テオと呼ばれた少年は弓と矢を持ち、片手には彼が仕留めたであろう、鴨が握られていた。
彼の容姿はハイドレンジア国最強と歌われたレオンの色そのものだった。
しかしその顔立ちはとてもレオン本人だとは言えないほど顔が違っていた。
それに対し、レイラは耳は長く、色は違えどかの有名なレオンそのもの言えるほどに顔がそっくりだった。
「もう夕暮れだよ。そろそろ家に帰ろう。お母さんが待ってる。」
「わかった。もうそんな時間か。迎えに来てくれてありがとう。ちょっと待ってね。『姿を表わせ。シルフ』」
ふわぁと風が靡き、両腕に鳥のような羽の生えた精霊が姿を現し、レイラの肩に止まる。
『ごきげんよう。何か御用かしら?レイラ』
『今日は少し霧が薄い。少し霧を濃くするのと、今日はもうゲートを閉じて。』
レイラは精霊語で精霊と話す。隣にいたテオは不思議そうに、精霊を見る。彼にとっては精霊は光の玉に見え、何を話しているか分からないだろう。理由はエルフはエルフでも加護を受けていないことが原因だ。エルフの中でも精霊女王の祝福を受けし者は精霊と対話でき、契約する権利を持っている。しかし精霊女王の加護を受けてないものはその姿を目に止めることも出来なければ話すことも出来ない。
『わかったわ。その代わり...』
『うん。はい。これ。』
レイラはポケットから小さな石を取り出すとシルフに渡す。
この石には魔力が織り込んであり、精霊が食べると通常よりも何倍の力で魔法を使うことが出来るのだ。
シルフは魔石を食べ終え、頷くと、歌を歌い出す。
すると霧がさらに濃くなっていき、霧の中から目の 前に大きなゲートが姿を現した。
『閉じろ。』
レイラの一言でギィー...錆び付いた音がなり、ゲートがゆっくりと閉ざされていく。
『霧の精霊よ。この地に加護を与えたまえ。加護を受けし我らに安息なる時を与え給え。【ネーベル・プリズン】』
バタンッ!と聞こえた頃にはゲートは閉じ、何十の鎖が扉を覆いガチャン!!と重い音と共に鍵がかかる。
この魔法はミュルクウィズの番人を任されたエルフしか使うことが出来ず、魔法をかけた、者が高位なほど強い結界が貼られる。
そしてレイラは村の中でも
有名であり、当代のエルフの中では彼女ほど番人に向いているエルフはいないだろう。扉は霧の中へと消えていって行くのを確認するとレイラは扉に背を向けた。
「お勤めも終わったことだし!帰ろ!帰ろ!今日は鴨の肉が入ったんだ!今日の夜ご飯は豪華だよ!」
「ぅ、うん。あ、ありがとう...テオ」
ずいっと近づけるテオに頼む。それ以上近づけないでくれ、可哀想で後で食べられなくなる。と内心抗議しながらも、うぅ...と眉をひそめながら、褒めて褒めて!と笑いかけるテオの頭を優しく撫で、お礼を言う。
「えへへ!明日は龍の国の街に行くんだよね?何か必要なものでもあるの?昨日も龍の国に出かけてたよね?」
帰路に着きながら、テオは不思議そうに問いかける。
「うん。おつかいでね。薬の調合に満月草と海竜の角を買いに行く。 新しく見つかった魔法妃アルティナの手記に石化魔法の解き方って言う文献を見つけた。」
「じゃあ!」
「ううん。まだ分からない。これは魔法じゃなくて病気だから。でも試してみる価値はあるかもしれないけど魔法においては右に出る者はいないとされるハイドレンジア国でさえ、未だに治す方法は見つかっていない。既にこの方法も試されてるはずだし...おそらくは...」
「そっか...」
テオは少し残念そうにすると、俯く。
その理由は明白だ。
レイラの左腕を見るとすぐにわかった。
長袖と手袋で隠されているが、隙間から垣間見える腕は虹色に輝いていた。
それはまるで宝石のようだった。
これはエルフと一部の魔法使いしか患うことがないと言われる不治の病、【魔力宝石病】にかかっている。
不治の病と言われてるだけのことはあり、今の所どんな魔法薬も魔法も効かない病気だ。
進行し続けると全身が宝石化し、最期には眠るように死んでいく病気だ。
進行はゆっくりだとはいえ、発病したら20年から30年の間に命を落とす恐ろしい病だと言われており、予防策は一切なく、突然発症し眠るように死ぬ。
「また拡がってきてるね。」
不安そうにするテオにレイラは優しく微笑みながら頭を撫でる。
「大丈夫だよ。テオ。いつか姉ちゃんか母さんが必ず病気を治してみせるから。」
「うん!」
「あら、レイラ様、テオ君。今帰りかい?」
「あ。八百屋のおばさん!はい!そうです。」
霧に覆われているからか、外の世界より断然暗くなり始めた帰路に着いていると、野菜売りのおばさんが声をかけてくる。
テオが元気に頷くと、おばさんはにっこりと微笑み、「ちょっと待っておくれ。」と言うと店のへ奥と消えていき、戻ってきた頃には大量の野菜を手に持っていた。
「これを持って帰りな。形が悪くて売れなくてねぇ。引き取ってくれるとありがたいんだが...」
「ありがとうございます。おばさん。あ、そうだ。これ、受けってください。」
ゴソゴソと袖の中を探ると、紫色の小瓶を取りだしておばさんに渡す。
「なんだいこれは?魔法薬?」
するとおばさんは不思議そうに小瓶を天にかざし、軽く振った。
チャポンチャポンと音が鳴り、小瓶の蓋を開けるとくんくんと匂いを嗅ぐ。
しかし何の匂いもしない。無臭だ。
「魔法妃アルティナの手記が手に入ってですね。解読していたら腰の痛みを治す魔法薬の作り方があって、おじさん最近腰が痛いんですよね?」
「あら、なんで知ってるんだい?」
「精霊たちが話していたんです。おじさん精霊たちにお菓子とかあげてましたから、心配していましたよ。良ければ使ってください。」
「まぁまぁ!さすが精霊使いだねぇ!ありがとうねぇ。わざわざこんな大層なもの作ってくれて。」
「今日は精霊たちが薬草集めを手伝ってくれたので、効き目はいいかと思います。」
「森の番人に精霊使いにお母さんの助手。大変だろ?最近はどうだい?イザベラさんは。」
「テオ、ちょっとおじさんの様子みて来てくれる?」
「?うん。」
テオはお邪魔します !と言って店の奥へと消えていく。彼の姿が見え 難しい表情で今の状況を打ち明けた。
「ここ数ヶ月はずっと研究室に篭もりっきりです。やはりまだ見つけられないみたいで...」
「はぁ...そうかい。アンタはどうなんだい?左腕の調子は?」
「正直病気の進行は止められていません。進行は遅いですが左腕は動かしにくくなっています。剣を握れるのもあとどれくらいか...どの魔法も魔法薬も全然効かない状況です。おそらくは後20年もないかと。」
「そうかい。やっぱり厄介なんだね。」
おばさんは暗い顔をする。
それはテオが不憫に思ったからだ。
「魔法妃アルティナの手記を解読してみましたが、石化魔法を解く魔法薬の調合以外有力な情報はありませんでした。」
「もう何冊目だい?現存する魔法妃アルティナの手記なんてほぼ偽物ばっかりじゃないか。わざわざ危険を犯してまで、他国や雨の国に手記を探しに行ってるんだ。なのに有力な手記は一切見つからないんじゃもう他の方法探すしかないんじゃないのかい?」
「...本はもう2000冊は超えました。でも魔法妃アルティナだけが魔力宝石病を治せたんです。だからその著書もあるはずなんです。正直他の方法も考えては見たんですが...やっぱり諦める訳には行かないのです。」
「テオ君のことかい?」
問いかけられたレイラは静かに頷いた。
「テオは父の顔を知りません。あの子が生まれたその日に魔物に襲われて死にましたから。母だってもうそう若くはありません。その上私まで居なくなったら...テオは確かにのエルフとしては弱く魔法も使えません。ですが、この先何もなければ2000年は生きます。今別れてしまえばテオは私の顔さえ忘れてしまうでしょう。それではあまりに彼が不憫ではありませんか。 」
「そうかい。アンタはやっぱり優しい子だね。いいお姉さんだ。私たちもできる限りのことはする。アンタこそ体壊したらダメだよ。まだテオ君も小さいんだから。」
「そうですね。ありがとうございます。」
野菜と果物を沢山貰い、テオが戻ってくると家へと帰る。
すると玄関の前に見慣れない甲冑を着た男が立っていた。顔は隠れていて見えない。一体この夜更けに誰なのだろう。いや、それ以前にこの村で甲冑を着た男なんて居なかったはずだ。
「よぉ!レイラ!テオ!」
「誰...」
レイラはテオを後ろに庇うと剣の柄に手をかけ、いつでも抜ける体制を取り、警戒するように殺気をぶつける。
「待て待て待て!」
「待たない。問答無用!」
「お願い待って!待ってください!俺だって!ギル!ギルだって!ギル・スレイシード!!」
「ギル? 」
慌てて甲冑を着ていた男は頭に着けていた兜を脱ぎ、顔を表す。
すると、その顔はミュルクウィズの森の村長【エルギウス・スレイシード】の息子【ギル・スレイシード】だった。要は顔なじみでもあれば、レイラの幼なじみである。
数年前に魔法使いでもエルフでもない魔法が使えない彼には武術を身につけるために雨の国【ハイドレンジア国】へと修行に出ていたのだ。
「なんだギルか。ハイドレンジア国の甲冑着てうろつかないでよね。びっくりしたじゃん。てっきり王家に居場所がバレたかと思った。」
「いきなり切りかかろうとしたのはそっちだろ!?」
「そんな格好で彷徨く方が悪い。」
「はいはい。わりぃわりぃ。全部俺のせいですよーだ。って時間潰してる暇なかった。急ぎの用があってな。甲冑脱ぎ忘れてたわ。」
「久しぶり!ギル兄!帰ってきてたんだね!」
「おお!テオ。元気にしていたか?見ない間にでっかくなったなぁ!」
「えへへ!これでももう100歳だからね!」
「まだまだ赤ちゃんだけどね。実質10歳だし。」
「もう!姉ちゃん!!」
「レイラ意地悪すんなよ。」
「ギル兄〜そう言ってくれるのはギル兄だけだよ〜!みーんな俺の事赤ちゃん扱いするんだよ?」
よしよしとテオの頭を撫で、じゃれ合うふたりを微笑ましく見ながら家の鍵を開け、ギルを招き入れる。
「あ、これ。お前に頼まれてた竜の遺体からできた木の幹。結構手に入れるの大変だったんだからな?せめて何に使うかくらいは教えろよ?」
「テオの弓だよ。今使ってるのもう古いし軋むんだ。それにそろそろテオにも使えるかなって思って。 」
「属性付与か?」
「うん。この竜は風属性。弓を打つのが早いテオにはうってつけだったんだよ。竜はこの地域には滅多に居ないから助かった。ありがとう。」
魔力の波長を感じる木の幹を受け取るとレイラはそれをテオに渡した。
「新しい弓を作っておいで。作り終わったら属性を付与するから持ってくるんだよ?」
「うん!」
「それで?ギル。急ぎの用って?」
テオが入れてくれた紅茶を飲みながら向かいにいるギルに問いかけた。
ギルはにこにこしていた顔をすぐに曇らせると、せっせと弓作りをしているテオに聞かれないように声のトーンを下げて話す。
「なんでも最近巷じゃあ死んだ"レオン"が生きているそういう奴が何人かいてな。もうハイドレンジア中に噂は拡がっていて、金髪に青い瞳の子供や男が誘拐されたりしてる...十中八九...」
「嘘だろうね。魔族が得意とする幻影魔法か。私の認識阻害魔法が効かない人達がいたんだろうね。やっぱりダメだったか...」
「だめだったか...じゃねぇよ!今ハイドレンジア国はマジでやべぇんだって!なんでもレオンになり得る存在を捕まえたやつは懸賞金が貰えるらしい。総額2億だ。王子直々のお達しだ。毎日のように子供が連れられてきては実験を受けて死にかけてるんだぜ!?特に金髪で青目の子供が!」
「テオのことを言いたいの?」
「他に誰だって言うんだよ!アイツ、もっぱらレオンじゃねぇか!」
「...(アレクシス殿下からの直々の命令か...今更私を甦らせて何をしたいんだか。)まぁ、テオのことは心配しなくていい。どちらにせよわざわざ用意したあのホムンクルスの死体は私の魔力源を分け与えてる。よっぽどの事がない限りバレることは無いよ。そもそも元から居もしない亡霊に2億も出すなんて馬鹿げているにも程があるでしょ。てかハイドレンジア国はなんでレオンを探してるの?ミュルクウィズの森の覇権は今冷戦状態だし、アビスと戦争するわけじゃないんでしょ?和平交渉だって結んでる。今更争う理由なんてないのに。」
流石ミュルクヴィズの森の番人と言えるだろう。他国のことをしっかりと理解している。現状をよく理解しているため呆れたように言葉を繋ぐ レイラに対しギルは苦い顔をして紅茶を飲み、一息つきながら重々しく口を開いた。
「それが...」
「ん?」
「アビスが和平交渉を一方的に破棄してきたんだよ。」
「はぁ!?」
「姉ちゃん?どうしたの?」
あまりの驚愕のことにガシャン!!とレイラの手からカップがこぼれ落ち、床へと中身を撒き散らしながら転がる。
それを聞き付けたテオは急いで作業室から顔を出すとタオルを取りに行くため奥の部屋へと消えて行った。
「アビスが和平交渉を破棄したってどういうこと!?完全に終戦してまだ10年だよ!?」
「あぁ。でも完全に終戦してもう10年"も"経ってるんだ。アイツらは最初から終戦するつもりなんてなかったんだ。欲を出したんだよ。レイラ。お前があの国にいた時、各国がアビスに対価として金と奴隷を輸出していたのは知っているよな?」
「うん。私が辞めさせようとした貿易だね。」
「アビスはその輸出量を2倍に増やせと命令してきたんだ。できなければレオンを差し出せと。」
「2倍って...各国はどうしたの?それになんでレオンを?」
「なんでアビスがレオンを欲したのかは分からない。でもアイツらははっきりこう言ったんだ。【レオンは生きている。】って。」
「...」
「もちろん抗議したんだぜ。そしたらアビスは各国の使者を全員殺して見せしめとして首を送り付けた。」
そういうと魔法で複写された写真をレイラに見せる。
どの首も目がくり抜かれ、舌を切り取られた挙句、その代わりに彼らが殺される一部始終が収められた魔法石が挟んであったという。なんともえげつなく、惨く、酷いことだろうか。やはりレイラは魔族とは一生分かり合えはずがない。アイツらは人の言葉を話すだけのただの化け物に過ぎないと思った。
「立派な宣戦布告だね。各国は戦争を始めるってこと?」
「ああ。太陽の国イラソル帝国を中心にアビス討伐作戦の話が広がっている。」
「......だから、どっちも"レオン"が必要なんだね。」
「今アビスは混乱の中にある。お前はその理由を知ってるか?」
問いかけられたレイラはゆっくりと首を横に振ると、地図を広げ、黒い霧のかかっている魔族領に視線を向け、その中で唯一建てられた立派な城へと指を指した。
「もう10年もアビスには行っていない。私が死んだ時に何かがアビスで起きたことは知ってるけどそれ以上は何も...」
「そうか。今魔族は────」
「レイラ!」
「ちょ、母さん!どうしたの?今日は大事な実験中じゃなったの!?」
部屋のドアが開き、血相を変えたイザベラが実験室から着の身着のままの姿でレイラの元へ転がり込んできた。
「霧の魔力探知に無数の人間たちを検知したんだよ!」
「また奴隷商人の団体ご一行様がエルフ目当てで迷い込んだんじゃないの?」
「違う...」
「え?」
「この反応はアクア騎士団だ!」
「!?」
まさか、ここミュルクヴィズの森が気取られたのか?いや、しかしミュルクウィズの森の結界は作られてから何世紀にも渡ってエルフと魔法使い、その血族たちを守り続けてきた。それが今になって破られるわけが無い。ということは...
まさかとレイラは急いでギルの首根っこを掴み、鎧の襟元を確認した。
するとハイドレンジア国の国旗のマークがありありと光っており、見ただけでこれが高位の追跡魔法だということかわかる。
つまりギルは最初から利用されていたのである。そしてミュルクウィズの森の出身者だと誰かに気づかれていたのだろう。
それとも兵士全員の甲冑にこの追跡魔法を仕込んでいたのか。
いや、その説を信じるならギルに出動命令が知らされていないのは不自然だ。やはりギルがミュルクヴィズの森の出身と気づかれていたのだろう。だからわざと泳がせた。
しかし、どちらにせよミュルクウィズの森の場所がバレてしまった。
きっとゲートの位置も把握しているだろう。
「わりぃ。レイラ。俺の失態だっ。もっと気をつけるべきだった。」
「...」
「レイラ。どこ行くんだい!?」
レイラは傍らに置いていた剣を腰に刺すと、緊張した趣で顔を上げる。
「私が何とかする。ギルはすぐに村長と村のみんなに報告。テオはお母さんと一緒に家の奥に隠れてて。」
「何言ってんだい!その腕じゃあ無理に決まってる!」
「鼻から交戦するわけじゃないよ。少しお話するだけ。」
「姉ちゃん...」
「テオ、心配しないで。ちょっと行ってくるだけだから。ギル。鎧は脱いで、それ私にちょうだい。」
「お、おう。 」
ギルは甲冑を脱ぐとレイラに甲冑を渡す。そしてそれを受け取るとレイラは家に飾ってあった銀製の仮面をつけて家を出ると、霧の森の中へと入っていく。
『サラマンダー。ウィンデーネ。シルフ。ノーム。姿を表わせ。』
レイラの頬を照らすようにボォッ!と火が灯り、赤い鱗に金の瞳を持った小さなドラゴンが姿を現す。
『こんな夜更けに何の用だ。レイラ。』
次に足元から水の音が鳴り、青い人魚が姿を現す。
『うーん?何、この波長〜?人間が沢山いるね!』
そしてさっき呼び出したシルフ
『さっきぶりじゃない?なんの御用かしら?』
最後に頭に鎧をかぶり、茶色の髭を生やした小さなおじさんが現れる。
『なんじゃこの圧迫感は。』
呼び出された四大精霊はレイラを囲むと普段この時間帯から彼らを呼び出さないレイラに不思議そうに何があったのかと問いかける。
しかし、ウィンデーネだけはその理由がわかっているみたいだった。霧の魔法結界【ネーベル・プリズン】は風の精霊シルフだけではなく、水の精霊ウィンデーネの力も借りる。
今日はたまたま湿気が強かった為、シルフだけに魔法結界を頼んだが、やはりその考えは甘かったことを思い知らせられた。
『シルフ、ウィンデーネ。兵士は何人いる?』
『そうねぇ...ざっと100人くらいかしら?』
「(ってことは総出動か。)」
『みんな対魔法攻撃の甲冑で武装しているねぇ。レイラ何やっちゃった?』
『ウィンデーネ...なんで私が何かやらかした前提なの。』
これだけの兵だ。確信があってここまで来たのだろう。あまりの多さと緊迫感にレイラは冷や汗をひとつ流した。
彼らの狙いは恐らく3つ。
1つは争いに必要な戦力の補填。ミュルクヴィズのエルフと魔法使いは各国で雇われている魔導師たちよりも優れている。力も強ければ知識量も違う。そんな彼らを手に入れたいのだろう。しかし、いるのは女、子供、老人ばかり。とてもじゃないが戦力としては乏しい。
もう1つはレオンの居場所がここだとバレたか...しかしこれは可能性は低い。だってレオンは魔法適性がなく、雪の国ネーヴェ大国出身。とされているからだ。もし仮にバレたとして何故大人しく霧の門の前で我らを待ち構えているのだろうか。おびき出すのには門を破壊し、森を焼いた方が早い。
最後は母イザベラの存在だ。イザベラは500年前とはいえ勇者パーティの1人で唯一の生き残り。情報、戦力に置いてこれほど役に立つ適任はいないだろう。しかし、それはまだレイラが病で床に伏せっていなければの話だ。今はもう彼女にはレイラを助けるという使命がある。故に戦う気力も意義も残っていないだろう。彼女はもう戦えない。雨の国に連れていかれてもなんの意味のないのだ。
「扉よ開け、かの者の道に導を示せ!
【オープン・ザ・アンダーワールド】」
現れたミュルクヴィズのゲートに絡みついていた鎖がパキッパキッと音を立てて崩れていく。
バキンッ!!と甲高い音が聞こえて鎖が弾け飛ぶと重たい音を立てて扉が開く。
そして霧の向こう側にはレオンの元部下であったアクア騎士団の一人【シャオ・シン】が待ち構えていた。
「雨の国 ハイドレンジア国の兵よ。よくもやってくれたな。」
レイラはあくまで毅然とした態度で再会したシャオ・シンに向かって甲冑を投げる。
足元に落ちた甲冑にシャオ・シンは視線ひとつ向けることなくレイラを見据え、その冷たい表情で口を開いた。
「あなたがこの森の村長ですか?」
「答える義理はない。雨の国の兵よ。何故この森を犯さんと欲する。」
レイラは、容赦がないほどの殺気をぶつける。
それに怯む者もおればシャオ・シンのように毅然とした態度で居る者もいた。
「指図め番人といった所でしょうか...そうですね。まぁコイツでもいいか。あなた【レオン・グラース】を知りませんか?」
「...(やはり狙いはレオンだったか...)10年前に死んだ雨の国の黒騎士でしょ。それがどうした。」
「実はこの森の術でレオン様を復活させることが出来る器がいる。と聞きましてね。それについて少し確認を。」
含みのある答えにレイラはそれがどうした。と言わんばかりに睨みつける。
その視線にシャオ・シンはため息を禁じ得ないと言わんばかりに重たいため息を着くと「分かりませんか?」と問いかけた。
「あなたたちの持つ何らかの技があの人を復活させることが出来るのでは無いですか?我々はあの人が必要なんです。大人しく協力した方がお互い楽で済むと思うのですが...」
「レオン?そんな人。この森にはいない。第一この森にはそんな魔法みたいな術は存在しないよ。」
「...はぁ。あなたでは話になりません。村長を呼んできてください。」
「"断る。"と言ったら?」
冷たい睨み合いが続く。そしてシャオ・シンが静かに片手をあげると森の奥から小さな光が転々と無数に見える。よく見れば数名の兵士が火矢を持っていた。どうやらこの森を焼くつもりのようだ。
「この森を焼くとでも?」
「致し方ありませんからね。」
「ッ!」
シャオ・シン。随分と非道になったものだ。
昔は真っ直ぐで曲がったことが嫌いな男だった。副長!副長!と言ってクールで半魔でながらも人の心を持ち、私が教えてきた慈悲というものを大切にしていたはずだ。しかし。私がいない間に黒く染ってしまった。これもレオンがいなくなったことがきっかけか。
レイラは剣を抜くとシャオ・シンに向かって構える。その瞬間シャオ・シン以外の兵は剣を抜いて構えた。しかしその姿を見たシャオ・シンの目の前にはレイラではなくもうこの世に居ないはずのレオンが見えていた。
シャオ・シンは彼女の姿を見ると言葉を失い、一瞬目を見開いた。
そうあの構え方はレオンの構え方だと。
「...(まさか...いや、あの方は男で人間だった。そんなはずはない。)最後のチャンスです。村長を呼んでください。こちらとしてもあなたたちとは事を構える気はありません。それにあなた一人でこの森を守りながら、この数の兵を相手にできますか?」
そう問われたレイラは一瞬考えるようにシャオ・シンの顔色を伺う。
レイラは賭けだと思いながらも彼らの言葉は重い事実であり、従うし無いのかもしれないと思い、構えていた剣を収める。
「一つだけ条件がある。お前だけこの森に入ることを許す。それ以外はダメだ。」
するとシャオ・シンは静かに笑みを浮かべると手を下げる。
「それで十分です。やめよ。」
シャオ・シンの一言で弓を構えていた兵も剣を構えていた兵も矛を収める。するとシャオ・シンは1歩レイラの前に出ると、跪いた。
「!何の真似。」
「約束しましょう。そして先程の非例をお詫びします。試すような真似をして申し訳ありませんでした。ミュルクヴィズの番人殿。ですが、どうか村長にお目通りできませんか?」
「言っておくがレオンは────」
「それだけではありません。この森に魔族の軍勢が向かっています。その事で話があるのです。」
「...(魔族?なにか裏があるな。)わかった。」
レイラはシャオ・シンの真剣な表情を見て漏れ出していた殺気を収めると静かに振り返り、扉を開くと、レイラとシャオ・シンは中へと入る。
「霧が濃いですね。全く前が見えない。」
「はぁ。これだから人間は...自分の体内の魔力操作もできないのか。」
「魔力操作なんてやった事ないですもん。」
「(あれだけ魔法書読んで勉強しろって言ったのにかよ!)」
ため息を禁じ得ないと言わんばかりにため息を着くとレイラは足元に光っていた手のひらよりも少し小さな魔法石を拾い上げると肩に乗っていたノームに手渡した。
『道標を作って』
その言葉を聞いたノームはレイラの肩から飛び降りると、平べったい石の上で彼専用の小さな小道具を取り出すとトンカントンカントンカンと何かを作っていく。
「何を作っているのですか?」
シャオ・シンが興味本位でせっせと作業をしているノームに手を伸ばす。
「"シン"触ってはダメ。」
「!」
レイラから伸ばした手を掴みあげられる。その行動にもびっくりしたが、1番は自分のことをあの人以外で"シン"と呼ぶ人がいるなんてと驚き目を見開いていた。
「ノームが作業中に邪魔するとおこ───聞いてる?」
「あなたは一体...何故私の渾名を知っているのですか?教えてすらいませんし、名乗ってもいないはずですが?」
「...(し、しまった。つい癖で!)」ギクッ!
「もしかしてあなたは────」
「レオンと私は昔なじみでね。たまに飲みに行ってたんだ。その時に彼から"シン"という優秀な部下がいる。そう聞いただけだ。アンタのことだろ?」
「...」
その話を聞いてシャオ・シンは少し納得のいかない顔をするが今は亡き彼からの優秀な部下という言葉に彼は少し満足したように笑みを零していた。
レイラはそれを横目に見ると、未だに自分の死に囚われている彼が不憫に思えて仕方がなかった。
レオンはもうこの世にはいない。というより、最初から彼はこの世界には存在してはいない人物だ。そんな彼を今も捜し求め、忠誠を誓うシャオ・シンが可哀想に思えて仕方がなかった。
『できたぞ。』
『ありがとう。ノーム。このお礼は何がいい?』
『レイラの髪の毛をひと束くれないか?お前の髪は美しい。精霊女王のお召し物にしたい。』
『わかった。』
レイラは剣を抜き伸びに伸びてしまった前髪を剣で切り裂くとノームに手渡した。
『確かに受けとった。ではな。』、
土の中へと消えていったノームを見送り、レイラはノームから渡された鈴を手渡す。
「これは?」
「今日一晩だけあなたの周りから霧が消える魔道具。これで視界が見えやすくなったでしょ?」
「精霊に作らせるとはさすがエルフですね。あなたはどうやらとても気が利く人のようだ。ありがたく頂戴します。」
「先に進むよ。一つだけ忠告しておくけど...村長にあまり生意気を聞かない方がいい。あくまで交渉に来ただけにした方がいいよ。でないとこの森から一生出られない魔法をかけられるから。出られなかったら貴方も困るでしょ?」
それだけ言うとレイラはサラマンダーが照らす道を辿り、目的地であるミュルクヴィズの森の集落へ着くとシャオ・シンは自分がいかに歓迎されていないのかを気づいた。
「なんで雨の国の兵が...」
「子供を隠せ。もしかしたら、あたしらを奴隷にするつもりだ。」
「レイラ様は何を考えている。易々と雨の国の騎士を招き入れるなんて...」
みながシャオ・シンに冷たい視線を向け、ボソボソと陰口を叩き、魔法の杖を持ち、子供を守るように家の中に連れて帰る。
「レイラ...あんた何考えてるの!」
「アメリア。」
血相を変えた黒髪で赤い瞳を持った少女がレイラを呼び止める。彼女の名は【アメリア・レバンネ】
この森の所謂呪い師だ。歳はレイラと同じで基本引きこもりの研究者だ。
なのに彼女がここにいるということはレイラがどれだけ危険な行為を取っているのか明白だった。
「大丈夫。問題ない。手は出さないように言ってある。もしものことがあれば私が責任を取る。村長、おおばば様、長老たち。全員集まった?」
「ええ。村長の家に全員待ってるわ。」
「ありがとう。じゃ行くよ。」
チラとシャオ・シンに視線を向けすぐに前を見ると、村の奥にある一番大きい家にシャオ・シンを案内する。
扉を開け、中に入ると厳しい顔をした村長とおおばば様、長老たち、ギルが2人を待ち構えていた。
「レイラ。これはどういうことだ?何故ハイドレンジア国の騎士がここにいる?」
「はい。この者からとあることを聞いたからです。」
「とあることとは?」
「それは彼から聞いた方が早いでしょう。」
レイラはそういうとシャオ・シンの後ろに下がる。突き出されたシャオ・シンは毅然とした態度を取るとまるで執事のように全員にお辞儀をする。
「急な訪問をお許しください。ミュルクヴィズの民よ。」
「ハイドレンジア国の使者殿よ。この村に一体なんのようだ。」
「用事は2つ。1つは確認のようなものです。もう1つはあなたたちの危機を知らせに来ました。」
「危機?」
危機という言葉を聞いた村長はレイラに視線を向けた。静かに頷いた彼女を見て話を聞く気になったのだろう村長は静かに息を吐くと、彼の声に耳を傾けた。
「...では1つ目から聞こう。」
「1つ目はこの村に我らが副団長【レオン・グラース】を甦らせることは出来ますか?」
その瞬間、村長とギルの表情が固まり、おおばば様たちは即座に視線を背ける。
「この村にはそのような技術は無い。それよりもレオン・グラースは10年前に最後の魔族戦争で死んだそうじゃないか。」
「ですが、この森ならレオン様を生き返らせることができると聞きました。現にレオン様に似た人物を目撃したと情報だって...!」
「...そういうことですか.......はぁ。レイラ。この者に顔を見せてあげなさい。」
「!?」
村長の言葉にレイラは硬直する。それもそうだ。レイラは元レオンなのだ。髪色、瞳の色、耳の長さ、性別は違えど魔法薬を使ってもレイラはレオンと顔は全く一緒。
その上で顔を見せるということは私がレオンだと言っているような者だ。
それをわかって言っているのだろうか。いや、もしかしたら村長に何か考えがあるかもしれないと思ったレイラは震える手を何とか押さえつけながら銀の仮面を取った。
「は、はい。」
「!!?れ、レオン...様...」
「そう思う人も多いでしょう。レイラはかのレオン・グラースと顔が似ているのです。」
「本人ではないと?」
「はい。何しろレイラは女エルフ。レオン殿とは種族も性別が違います。」
「...」
シャオ・シンは怪しむようにレイラをじっと見据える。すると髪の毛で隠していた魔眼をレイラに向けた。
「(村長は違うと言っている。しかしこの波長はレオン様そのものじゃないか!)嘘をつくな!この方の魔力の波長は...!」
「それはレイラがレオン殿のホムンクルスだからです。」
「"ホムンクルス"?」
「簡単に言えばレオン殿と魔力源を分け与えた、いわゆる人造人間なのです。」
「それは知っている!彼女がレオン様のホムンクルスなら彼女はレオン様そのものじゃないか!」
「いいえ違います。」
村長はシャオ・シンの言葉を否定すると語り出した。
ホムンクルスはその人自身では無いこと、分身と言っても人格は違うことをシャオ・シンに説明した。
「ではこの人はレオン様では無いと...?」
「ええ。そうです。」
たぬきオヤジめとレイラは内心思う。それもそうだ。レイラはホムンクルスでもなければ人造人間でもない。しかしこのたぬきオヤジはシャオ・シンを騙すためなら様々な嘘をつく気だろう。
しかしその行為がいくら嘘八百でもレイラを守っている行動と言うのは変わりなかった。
バレたら極刑ものだぞこれ。
「レオンって奴が私に頼んでいたのよ。レイラを作って欲しいってね。」
すると村長の話に乗るようにアメリアが口を開く。嘘をつくことを嫌いな彼女が村長に便乗し、偽りを言っていることはレイラを守っている証拠だった。
「そうですか。」
説明から約1時間...いいように言いくるめられたシャオ・シンは納得したように呟いた。
「納得していただけましたかな?では次の御用を話していただけますかな?」
「はい。では次の話をいたしましょう。まぁこちらがメインでここに来たのですから。」
「ほう。」
「今魔族と人間、魔法使いが戦争状態にあることは知っていますか?」
「ええ。息子のギルから聞きました。なんでも闇の国アビスが宣戦布告したと。」
「はい。」
シャオ・シンはそう言うと懐に入れていたアーダ大陸の魔法地図を取り出し広げる。
魔法地図とはその土地の今の現状をリアルタイムで知れる地図である。レイラがレオン時代に作ったものであり、今や国を超え大陸全体で広く使われている地図だ。
「ここを見ていただけますか?」
「ふむ。ッ!?何だこの魔物の数は!」
「この魔物は魔王城から進行しています。まだ数は少ないですがいずれここを攻め落とすため軍を率いて来るでしょう。これを対処するのは貴方たちでも難しいのでは無いですか?」
「...含みのある言い方ですね。要は同盟を組みたいということですかな?」
「ええ。」
村長は考えた様子を見せると目を瞑り、重いため息をついた。
おおばば様、長老たちも答えを出せないのか、迷ったように視線を下に向けていた。それもそうだ。この森ができてから約5000年一度も国との同盟を結ばず、自分たちの身は自分で守ってきた。
しかし今、その均衡が崩れようとしている。誰もが口を閉ざすのも分からないではなかった。
「1日。猶予を下され。明日答えをお聞かせしましょう。」
「わかりました。では猶予は明日までとします。ですがもうあまり時間はありませんよ。」
その日の話し合いはここで終わり、シャオ・シンを森の外まで送る。
扉が見えてきたところでシャオ・シンは止まると、胸ポケットから指輪を取りだした。
「これを。」
「魔法具?」
「はい。魔力を込めると強い光を放ちます。地図にあなたの居場所が表示されるようになっていますので。あなたのような人は自己犠牲が強そうなのでこれを渡しておきます。」
「(自己犠牲?)」
「何かあった時はこれを使ってください。」
人の良さそうな笑顔を浮かべシャオ・シンは帰っていくと、レイラは彼の背を見送り、直ぐに村長の家に向かった。
「村長。おおばば様。長老。アメリア。」
「レイラか...」
「参ったのぉ。困ったことになった。」
結論はまだ出ていないのだろう。暗い雰囲気の中、誰も何かを迷ったように口を開かない。
「レイラ。お前から見てハイドレンジア国はどう思う。」
「...正直分かりません。ですが嘘は言ってないと思います。しかしあの地図に記してあった魔物の数は異常かと...」
「同盟を組むか否か...」
誰もが口を閉ざし、何も意見を言わない。仮に伝統通り同盟を組まなかったとしよう。この森には戦えるエルフも魔法使いも指で数えれる程度しかいない。
それに男エルフはほぼ全員が出稼ぎに出ており、この森には女、子供、老人しか居ない。
いくら高位術者であるエルフのレイラがいるとしても彼女一人だけでは限界がある。
シャオ・シンが言うように本格的には軍が送られてきた時にはレイラたちは太刀打ちできないだろう。
「問題としては各国の出方よね。ハイドレンジア国と同盟を組んだと知ればどうなるか...」
「...問題が多い...頭が痛くなる。」
「血圧だけは上がらないようにですよー」
「そこ!話逸らさない!」
アメリアが言うようにシャオ・シンの提案に乗り、ハイドレンジア国と同盟を組むとしよう。そうなればミュルクヴィズの森はハイドレンジア国、つまり雨の国の傘下になるということだ。それを各国が知ればどう思うだろう。特に太陽の国イラソル帝国は許さないだろう。ならば我らも次から次へと手を上げ、せっかく冷戦状態で止まっていた時が動き出すかもしれない。
内乱が起きれば闇の国は黙っていないだろう。ここぞとばかりに混乱に乗じて各国に戦争を仕掛けるに違いない。
「いずれにせよ同盟を組むとしたら知られてはならないことがある。レイラ。お前のことだ。」
「私ですか?あぁ、レオンのことですか?」
「そうだ。レオンは雨の国...いいや大陸全土にその名を知らしめたいわば英雄じゃ。それがまさか生きてるとなればどうなる?」
「私を目当てで戦争が始まる?」
「それだけじゃない。闇の国アビスがお前を全力で殺しにくるじゃろう。」
「しかしこの森にとってレイラは必要不可欠。」
「わしらはお前無しでは魔族に対抗できんのじゃ。」
おおばば様の言葉にレイラの表情が一瞬にして固まる。
つまりはだ、レイラは各国にも闇の国にも聖魔法の使い手であるということはバレていけないのだ。バレてしまった日にはこの森が危険にさらされることになる。つまりレイラ自信がこの森の主導権を握っていると言っても過言ではなかった。
「なら、私が─────」
「レイラ。馬鹿なことは考えるんじゃないぞ。お前にはテオとイザベラがいるんだからな。今日はもう家に帰りなさい。2回も扉を開けたんだ疲れただろう。」
「...はい。わかりました。」
レイラは頷くと村長の家を出て、自分の家へと帰るために帰路に着く。そんな帰り道、レイラはボォーッとしながら明かりのついている自分の家を見る。
「(私目当てで戦争か...私がこの森の脅威だとは思ってなかった。安易に戻ってきたのが仇となったのかな。ということは多分村長が言ってることは正しいのだろう。なら私はどうするべきなのかな...)」
「あ!姉ちゃん!」
家の玄関を開けて駆け寄ってくるテオを見ながら、レイラは暗い表情を見せないように笑う。しかしその笑顔は引き攣っていてとても笑顔とは程遠い顔をしていた。
「大丈夫だった?何かあったの?」
「...ううん。大丈夫。なんでもないよ。早くご飯食べよっか。」
「うん!」
テオに手を引かれながら、家へと入り、3人で食卓を囲み、ナイトルーティーンをこなすとレイラはテオを寝かしつける。テオが寝るのを確認すると同時にレイラは寝たきりの母の部屋へと足を運んだ。
「あら、こんな夜更けにどうしたの?」
「母さん。話がある。母さんは最初からわかってたの?私がいつかこの森の脅威になるって。」
「.....誰から聞いたの?」
「村長とおおばば様と長老とアメリア。みんな知ってる様子だった。知らなかったのは私だけなの?」
「そうね。あなたは200歳だからまだ教えるつもりはなかったのだけど。知ってしまったのなら仕方ないわね。」
イザベラはそう言うとベットの近くに置いてある本棚の中から1冊の少しくたびれた本を取りだして、あるページを開いた。
「あの時私の代わりにあなたを送り出したのが間違いだったわ。まさか貴方が大陸全土にその名を知らしめるとは思ってなかったもの。」
「英雄 レオン・グラース」
ポツリと呟いた名前に母イザベラは苦い顔をした。
「この事が雨の国にバレれば...森はタダでは済まないわね。」
「...ッ!母さん。大丈夫だよ。私は英雄なんかじゃない。私は【ミュルクヴィズの森の守護者レイラ・ウィザードリィ】だよ。」
「そうね。」
イザベラは太陽のように笑うレイラの頬を撫でようと手を伸ばした時だった。
───────ドカン!!!
「「!?」」
森の方から大きな爆発音が聞こえた。
それと共に窓越しの森が真っ赤に燃え上がり、人々の悲鳴が辺りに響き渡る。
「何これ...」
レイラは家から飛び出すと辺りを見渡した。
辺りは夜だと言うのに森も家も真っ赤に燃え、またもや所々で爆発音が聞こえる。
『レイラ!』
『サラマンダー!これは、一体何があった!』
『森の門が壊された!魔王軍がやって来たんだ!』
「っ!魔王軍の奴らもう来たのか!クソっ!自己犠牲ってそういう意味かよ!まんまと騙された!」
恐れていたことが起きたのだ。
急いで剣を取りに家に入ると、爆発音で起きたテオとイザベラがレイラを待っていた。
「テオ。母さんを連れて村長の家に避難するんだ。いい?」
「姉ちゃんは?」
「私は扉の修復と戦える人達だけで魔王軍を抑える。」
止めに入るテオを置いて、腰に剣を刺すとレイラは急いで周りの逃げ惑う人々に告げた。
「戦えるものは私に続け!女、子供、老人は村長の家に避難しろ!!」
そんな中でも大砲の音が鳴り、爆弾が飛んでくる。
戦えるのはレイラを含め、ギル、アメリア。到底勝ち目のない戦いだ。
「(戦力差が大きい。どう戦えば...)」
「レイラ!どうすんだよ!」
「相手の数は?」
「50...いや、100くらいかな。」
「こっちの数は5人にも満たないのか...私たちだけって、もう負け戦ね。 」
狼狽えていると、壊れた扉から魔王軍の軍勢が一人また一人と歩み寄ってくる。
「来たぞっ!」
「アメリア。ギル。ひとつ頼みがある。」
「なんだよ。」
「何?」
「ここは私一人で抑える。みんなを森から逃がして。幸い火の手も森の裏側までは達していない。今なら逃げられるし、多分ハイドレンジア国のアクア騎士団に保護してもらえるはずだから。」
その言葉を聞いた瞬間2人とも目を見開き、覚悟を決めた表情を浮かべるレイラを見つめた。
「何言ってるの!」
「そうだぜ!死ぬならみんな一緒だ!」
「言うことを聞いて!今は個を生かすより全を生かした方がいい!私なら大丈夫だから。2人はみんなを逃がして。お願い。」
「「っ...」」
2人は沈痛な趣で唇を噛み締めると矛を収め、振り返りみんなを逃がすために走り出した。
「みんなを逃がしたら助けに来るから!」
「死ぬなよ!」
「(これでいい。覚悟を決めろ。)」
四大精霊を呼び出すと声高らかに呪文を唱え始めた。
『無限の森に囁かれしものよ。汝その声に応じ狂い狂わせ。無天の空に悠久なる森の虜となれ。
【ファントム・ワールド】』
レイラの周りから更に濃い霧が発生し魔族軍を包み込んでいく。
そしてまるで幻影を見せているかのように魔王軍の軍勢はその場で何も無い虚空で剣を抜き切り始めた。
すかさずレイラは剣を抜くと、惑わされている魔族を切り捨てた。
「ぐあああああっ!」
「何だ!?敵襲か!?」
「女だ!剣を持った女がいる!」
「いや!男だ!槍を持った男がいる!!」
「いいや!魔法使いだ!」
次から次へと魔族の断末魔が森に響きわたる。
血まみれになっていく身体と剣。
そんなのお構い無しに大量の魔族たちを切って行った。
「(ファントム・ワールドは効果は10分程度ましてや広範囲になると更に効果は短くなる。持ってせいぜい5分。この5分でいくら倒せるか...)」
「見つけたぞ!!」
「!?」
ギンっ!!斧を持った魔族にレイラは見つかると攻撃を受けたがギリギリで剣で攻撃去なすと霧の中へと隠れる。
しかし、きりの効果はもう既に消えており、魔族はレイラをいとも簡単に見つけると回し蹴りを入れられ、大木に身体がぶつかる。
「ごはっ!!」
「よくも仲間を殺してくれたな!たっぷりいたぶってやる。」
「ッ!」
なんでここに上位魔族が!?
魔族の中でも中ボスと言えるくらいの力を持った魔族だ。だがこちらとて簡単に殺される訳には行かない。上位種なら黒騎士時代に何度も討伐してきた奴だ。
レイラは剣を握りしめると上位魔族に挑んだが、敵はこいつ一体だけではなく加勢してきた魔族に多勢に無勢で挑まれボロボロになっていた。
「はぁはぁ...これで最後!トドメ!」
『ふるえふるえ玉響と。開けし空が煌々と輝くように。火の精霊よ天地を砕き焼き払え!【フレイム・ブレイク】』
「ぐあああああ!」
何とか無数の敵を倒し、最後に上位魔族を倒したレイラは力尽きたようにその場にへたり混んだ。
もう30分は稼いだ。そろそろシャオ・シンたちの元に着いている頃だろう。みんなは無事保護して貰えただろうか?足が震えている。傷だって深い。もう動けない。そう思った瞬間だった。
「これで終わりだと思うなよ!死なば諸共だ!!」
倒したはずの上位魔族が起き上がり、斧を振り上げる。
咄嗟に応戦しようとするが、こんな時に限って宝石化した左腕が動かない。
レイラは咄嗟に死を覚悟すると最後の頼みをかけるように指輪に魔力を込めた。
だいたいこうなったのはシャオ・シンたちのせいだ!
地図に細工しやがって!こんなに早く魔物が来るなら最初から言っとけよ!何が猶予を与えますだ!猶予のゆの字もねぇじゃねえか!!
「シンの鬼畜ド悪魔野郎!!ドアホーッ!!!」
恐怖を紛らわすように叫び、死を覚悟して瞳を閉じる。
「させませんよ。」
ギンっ!!
鉄と鉄がぶつかり合う音が辺りに響き、レイラの目の前にシャオ・シンの姿が現れた。
「雑魚はそのまま大人しく死んでてください。【フレイムボム】」
「ぐあああああ!」
火球が上位魔族に飛んでいき火をつけると青い炎をあげながら灰と化した。
「クソっ!撤退だ!撤退するぞ!!」
去って行く魔族たちを呆然と見ていると黒い笑みを浮かべたシャオ・シンが振り返る。
「シャオ...シン...」
「鬼畜ド悪魔野郎とは随分と言ってくれますね?しかもドアホとは。これまたこれまた。」
「あ゜!」
「まぁ。"今回"は大目に見ましょう。"今回は"」
「(2回言った...)」
「なんでも団長の命令でしたから。僕もさっきの言葉聞かなかったことにします。」
「なんでここが...」
「その指輪ですよ。それは本来あなたに何かあった際すぐにワープできるように設定してある魔道具です。まぁ効果は1回きりですが。」
「え、これ光るだけなんじゃ」
「なわけないでしょ。馬鹿なんですか?」
心底バカかコイツという呆れたような顔に一瞬イラッとしたが助けて貰った身。ここは大人しくしておこう。
「みんなは?」
「森の人ならあなた以外全員保護しました。無傷ですよ。安心してください。魔王軍も撤退しました。もう警戒する必要はありませんよ。」
その一言を聞いてほっとしたレイラはボロボロの剣を鞘に戻して木を背もたれにして座り込んだ。
「随分と使い込まれた剣ですね。刃こぼれも酷い」
「あー(そういえば師匠から扱かれてた時に使ってた剣だからなぁ。)まぁ安物だからね。」
「安物でここまでとは...」
シャオ・シンはレイラによって倒された無惨な魔物たちを見て、ニヤリとほくそ笑む。
「これはこれで使えそうだな。」
「ん?何か言った?」
「いえ。なんでもありません。では、村の皆さんの元に戻りましょうか。」
森を抜け、霧が薄く残る場所まで移動すると心配そうに2人の帰りを待っていたアメリア達が待っていた。
「レイラ!」
「アメリア!」
「良かった。てっきり死んじゃったかと思った。」
「勝手に殺すな。」
レイラはクスクスと笑いだすとそれをどこか懐かしそうに見つめるシャオ・シンに気づいた。
「シン。」
「なんですか?」
「森の人を助けてくれてありがとう。それと...私を助けてくれてありがとう!」
「ッ!」
自分に向けられた笑顔が一瞬、あの人と被る。
まるで死んだレオンが目の前にいるような気がした。いやきっと気のせいだ。それなのにその笑顔は死んだ彼に被って見えた。
「ん?どうかした?」
「な、なんでも。」
シャオ・シンは直ぐにレイラから視線を逸らすと不思議と高鳴る胸を沈めるために深呼吸をする。
「これからどうしたものかのぉ...」
「霧の魔法陣を壊された。修復するにはどれだけ急いでも50年はかかると思う。」
「なんという事じゃ...」
レイラの報告を聞いたおおばば様や長老たちは頭を抱えて、嘆きの声を上げる。
「手がない訳では無いですよ。」
「シャオ・シン殿。何が言いたい。」
「アメリア嬢。そう睨まないでください。あくまで手だと言ったでしょ?」
「ではその手とやらを聞かせて貰えぬか?」
長老が問いかけるとシャオ・シンはニヤリと嫌な笑みを浮かべ、口を開いた。
やっぱりレオンが死んでコイツは性格が変わったな。
サドが進化してドSになってる。悪巧みするようになって。これも成長と言って喜んでいいものなのか...
「僕たちの国と同盟組みませんか?」
「何っ!」
「嫌なら断っても構いません。しかし、その代わりとしてそちらのお嬢さん。レイラと言いましたか?彼女の身柄を渡してもらいます。まぁそれを貴方たちに選択が出来ればですが...」
シャオ・シンの言葉を聞いた瞬間、村長は悔しそうに唇を噛み締め、村民たちは激怒し、罵りの声を上げた。
「ふざけるな!」
「レイラ様を差し出せるわけないだろ!彼女は我らの守護者だぞ!」
「...いや、それでいいよ。」
「!?」
レイラの冷たい一言に罵りと罵詈雑言を上げていた民衆が口を閉ざし、視線を向けた。
「ただし、村のみんなの尊厳と守護、衣食住は保証してもらう。」
「分かりました。それで構いませんよ?ではこの書類にサインと拇印を。」
渡された書類にはその身を捧げ、生涯をかけて国に仕える事が記されていた。言わば奴隷契約書のようなものだ。
これにサインと拇印を押してしまえば、逃げることや撤回することも出来ない。それでもレイラは森の民が守られればそれでいいと思い、サインをする。
なんの躊躇も無くサインするレイラを見て中には泣く人や唇を噛み締める人、今にも人一人殺せそうなオーラを出している人が居たが気にしないことにした。
「手続きは終了しました。」
無事に手続きは済んだ。
明日改めて迎えに来ると言った彼らを見送り、家へと帰ると今にも泣きそうなテオと苦い顔をした母が待っていた。
「姉ちゃん...」
「レイラ」
「大丈夫。そんな心配そうな顔しないでよ。」
「アンタわかってるのかい!?せっかくこの土地で落ち着いて暮らせるようになったのに、またあの国に行くなんて!それにその腕だって治す方法は見つかっていない!」
「...」
母の言いたいことは分かる。レオンの正体はこの私レイラ・ウィザードリィだ。それがバレればどうなんだろう。無論タダでは済まない。
今度こそ逃がすまいと捉えに来るだろう。それこそ逃げ出せないように王宮専用の奴隷になる可能性もある。病だって治す方法が見つかっていない。雨の国ハイドレジンアに行けばモルモットにされる可能性だってある。
でもそれはレイラにとって森の人を犠牲にしてまで自分の身を守る必要は無いと思った。
「私の門出だよ?せっかくなら泣いてないで笑って送り出してよ。」
涙を流すイザベラとテオを優しく抱きしめると、レイラは静かに涙を一筋流した。
夜が明け、レイラは目覚めるとまだ寝ているテオの部屋に入り、作られていた弓に触れて魔力を込める。
するとタダの木の色をしていた弓に呪詛が込められ、緑の美しい紋様が現れた。
「よし。こんなもんかな。」
「んん...姉ちゃん...行かないで...」
「ごめんね。テオ。また離れ離れになっちゃうね。母さんのことよろしくね。」
ちゅっと寝ているテオのおでこに口付けをすると、そのまま覚悟を決めたような表情を浮かべ、剣と少ない荷物を持って家を出た。
霧に包まれながら森を歩き、門の前へと立つ。
「レイラさん。お迎えに上がりました。」
(来たか。)
声がした方向へと視線を向けると如何にも高級そうな馬車とシャオ・シンが待ち構えていた。