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海域②

「精神汚染の類か。厄介だな」


「ヴェネスには状態異常の専門の方はいないんですか?」


「聞かないな。大体はロギナ帝国の聖職者たちが専門とするから我々では手に負えん」


海域に出現したとされる魔女について、悠一達はどうするか考える。

魔女は通常の魔法使いと異なり闇を象徴する異質であり異常の存在。あらゆる生命の敵そのものとされる存在で人間では太刀打ちできないのだ。


「ねーー!ちょっと聞いてよーーー!」


「わっ!どうしたんですか智夜さん」


悠一と吟の間を割って入るかのように、智夜はおいおいと嘘泣きよろしくこう言った。


「騎士団の奴等がギルド連合に宣戦布告してきたんだ!しかも反ギルド派の連中ばかりで面倒臭い!」


「それを避けるために交渉しに行くのがお前の役目だろう馬鹿者!」


「騎士団がですか?しかも反ギルド派って……」


事の発端は各ギルド長が王宮へ向かい、国王との話が終わった後のこと。

魔女をどう対処するか代表の時雨臣とベルベット・エーデル、そして第一騎士団が最終決議を行った際、ギルドを良く思わない騎士たちが反論したのだ。なんでもこれ以上ギルドに成果を奪われては騎士団の華がなくなるという至極勝手な理由であった。


「魔女を退くことがどれほど大変かというのに、反ギルド派連中は自分達で討伐してみせると言った。時雨臣が何度も説得してくれたが連中は無視で……魔女の危険性を全く理解していない」


「騎士団長はどうした」


「貴族の護衛任務に失敗した部下の失態を全て引き受けたことで謹慎処分を言い渡されている。お人よしにも程があるよあの人は」


貴族の護衛任務について悠一は一つ心当たりがあった。それはかつてロウェナとの出会いだ。

まさか本来護衛の役目を担っていた騎士の代わりに処罰を受けているのではないかと内心焦った。


「今は副団長が反ギルド派を制してくれているけど、もしかしたら対立する可能性がある」


「なんて馬鹿なことを。

騎士団はああ見えて市民からの支持やファンが多い。もし連中に被害が及べばギルドのせいだと苦情が来るのも目に見えている。せめて此方にも有利な状況を作らなければ」


「せめてもう少しだけ魔女に関する情報があればいいんだけどね」


「……」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



時刻は少し遡りチドは一人港へやって来た。

規制線が張られている港への入り口を警備する騎士団を横目に目的地であるシュリランテ本部へと足を運ぶ。魔女の件で番頭ベルベットは出来る限りの経済状況を保つようギリギリのラインで活動している。今回はある理由で訪れたのだが。


「大いなる翼はウチのお得意先でもありますからね。よくもまぁここ数年で有名になりましたね」


「ギルドの見直しと依頼受注数を増やしただけだ。アンタとは昔からの仲だし今更だろ」


「そうですね。それに新しく加入した冒険者もここ最近名が通るようになっていますし、今度会わせてくださいよ」


「断る」


つれないなぁ。

ベルベットは受注された荷物をチドに渡す。中身を確認しつつこれからの海域はどうなるか尋ねる。


「どうにもこうにも、魔女が出た以上他国との貿易は厳しい。まして騎士団が勝手にウチの領地に入って来ては「灯台の見張りは騎士団が全て行う」とか言ってきて大迷惑。下手に刺激してギルドに反発されちゃ商売も出来ないし……貴方ルードウィッヒのこと知っているんでしょ?何とかしてくださいよ」


「団長がいないから好き勝手やってるだけだろ」


「副団長はその地位と実力故に団長の代わりに王妃様と王子様の護衛に当たらなければならない。

何故騎士団はギルドを嫌う連中が多いんでしょうね。団長さえいればすべて治まるというのに」


団長さえいれば。

確かに騎士団を束ねる団長と副団長がいない以上部下は好き勝手やってしまう。それを阻止するのが騎士団長の務めでもあるのに。ベルベットの言葉を流しつつチドはシュリランテを出る。


「悠一君でしたっけ?彼って生まれは何処なんです?」


「……そういや聞いたことないな」


「貴方ねぇ。ウチはこう見えて情報通が多いギルドとしても有名なんですよ?こうして聞くのも珍しいことなんですよ?わかります?」


「今度聞いてみるよ」


「絶対忘れるやつ!はぁ……滅多にいないんですよ、彼の様な()()()()()は」


帰り際でふと悠一を思い出す。

平均的な身長と一見細身に見えて格闘家としての筋肉はあるので貧相ではない。

ヴェネスの歴史についてあまり知らないが学ぶ意欲と礼儀もあり仲間想いでもある。読み書きも計算もできるので親は学のある人物なのだろうか?

余計な詮索は失礼だろが、あのベルベットが言うものだからさり気なく聞いておこう。もし地雷ならすぐに謝罪をしよう。


「なんでヴェネスに来たのかね」


出身地もヴェネスに来た目的も聞いていない。吟曰く家族はいるようなので孤児ではなさそうだ。それでも一緒に依頼をこなすのは悪くない。自分は相当悠一を気に入っているようだ。


「黄金色の瞳ねぇ。そういやどっかで見たことがある気が……」


曖昧な記憶を辿っても仕方ないのでそのままギルドに戻ろう。否、一度海の方へ様子を見たほうがいいか。規制線がある港の入り口とは別に隠れ小道を行けば案の定浜辺には複数の騎士がおり、その中にルードウィッヒの姿があった。


「灯台の見張りはシュリランテに専門がいたはずだが?」


「貴様!何故ここにいる!?港の入り口には見張りがいたはずだ!」


「餓鬼の頃ベルベットと一緒に色んな抜け道を見つけたもんでな。騎士団の肩書を利用して王国の貿易を担うシュリランテを押しのけて灯台を占拠するなんて騎士団長は許すか?」


「我々は王国の為に尽力を尽くすのみ!たかが灯台の見張りなど誰だってできる。ましてや魔女の出現により船乗りは休暇中と聞く。何も問題ないではないか」


灯台は船乗りたちの要。

航海術や気象予報士の知識が必須とされる海の者達のお陰でどれ程貿易が機能できているのか。また貿易における交渉術や情報のやり取りも全てシュリランテにかかっていると言うのに。


「国内でしか機能しない騎士団は外の状況など知るよしもないんだな」


「さっきからゴチャゴチャと煩い奴だな!所詮()()のギルド長の癖に随分と大口を叩くものだな!」


「代役とて仲間を守り国の為に依頼をこなすのがギルド長の務めでもあり冒険者としての役目だ。

お前等騎士団は外の真実を知らなさすぎる。いい加減夢物語だけで国を守るなど口にするな」


二人のやり取りに他の騎士団員は止めるべきか悩みだす。今にも剣を抜きそうなルードウィッヒにチドは冷たく言い放つ。


「俺に勝ったことないくせに」


「キサマァ!!」


剣先がチドの首目掛けて素早い動作で貫かんとする。チドは詠唱無しに手に炎を発動し剣先を掴む。

炎の熱により鉄製の剣ではかなりの損傷を負うだろう。しかしルードウィッヒの恨みを込めた眼光はチドを逃さまいと睨んでいる。


「貴様のような奴は精々外で野垂れ死ぬのがお似合いだ」


「煩いのはどちらか分かっていないのか」


炎の威力を強め剣先を溶かす。これ以上火力を上げればその内ルードウィッヒを燃やし殺す可能性だってできるだろう。しかし周りの騎士団はチドの威圧に止めに入ることが出来なかった。


「チドさん!」


「「!」」


一触即発の状態で唯一間に割って入れたのは突如現れた悠一だった。

チドはすぐに炎を消し悠一の方へ視線を向けた。その隙をルードウィッヒは見逃すはずもなく。


「余所見とは言い度胸だな!」


「——ッ」


懐に隠し持っていた短刀がチドの頬を掠めた。と、同時に悠一が素早い動きでルードウィッヒを取り押さえた。この僅かな時間で、しかも一瞬でルードウィッヒを抑え込むなんて素人ではできない芸当だ。


「恩人に何する」


「……フンッ。貴様が噂の男か」


悪びれも無くルードウィッヒはすぐさま悠一の手を振り払って立ち上がる。


「ヴェッカス家の令嬢を誑かした愚かな男として本来ならば連行すべき事案だが……そこの男のせいで支給品である剣が仕えなくなってしまった以上何もできないな」


「悠一、ソイツに構うな。戻ってこい」


ルードウィッヒから離れ大人しくチドの傍に付く。

これ以上の争いは無意味であるとチドはさっさと悠一を連れて帰ることにした。


「貴様に続き、大いなる翼は貴族に取り入るのに必死なのか?精々切り捨てられぬよう国に尽くすのだな」


去り際に放たれた言葉に悠一はどういうことかと言い返そうとしたが、振り向く前にチドが腕を掴みそのまま立ち去ったのだ。港を後に暫くしてからチドは言う。


「ロウェナ・ヴェッカスとはどこで知り合った」


その問いに悠一は少し躊躇った。なんと言い返せばいいのだろうかと迷っているようだ。


「別に怒っているワケじゃないんだ。ただ相手が相手だからな……冒険者が大貴族と関わることなんて普通は有り得ない話なんだ」


優しい物言いに悠一はロウェナとの出会いを話す。聞けば聞くほど気の遠くなる話で、まさか2度も出会っているとは思わなかった。チドは眉を顰めたが不安そうに話す悠一に対してこれ以上圧を与えたくなかった。


「彼女はこの国に対してとても献身的で自立心を持つ素敵な女性でした。ですが何故か貴方の名前を聞いた途端顔色が暗かった気がして……彼女とはどういう関係ですか?」


「ギルドの関係で知り合っただけだ。お前が心配する必要はないさ」


「そう、ですか」


納得いかない表情だがこれ以上言っても無意味だと判断したのだろう。

最後に「彼女は優しい人でしたよ」と笑ったその目は矢張り何処かで見たことがある。


「なぁ悠一。お前の出身って――—」



――ビリッ



強烈な静かな殺意。

思わず背負う大剣の柄に触れようとした途端、いつも通り人懐っこい笑みを浮かべていた。


「いま、なんとおっしゃいました?」


「……なんでもねぇよ。さっさとギルドに戻って吟と智夜と一緒に今後のこと考えるぞ」


「はい」


この言葉は地雷だったか。流石に嫌われたくないな。

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