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大貴族

魔獣との戦いのあと、悠一は一度国の病院へ診察してもらうことになった。

いくら治癒魔法を習得しているペティの治療があっても不安が拭えないとチドから言われたためだ。

過保護だと思う反面こうして心配してくれるなんて有難い話だ、と思いながら順番待ちしていると綺麗な女性が自分を呼んだ。


「悠一さんですね。冒険者の怪我の診察ということで、ヴァンチェッタ院長が直々に見てくれるそうよ」


まるで白衣の天使の如くふわりと笑う女性は自分を診察室へと案内してくれた。

診察室へ行くと非常に人相の悪そうな男性医師が待っていた。

ジトッと見るなりカルテに色々と記載した。その目が呆れが含んでいるため冒険者としての診察は同じ内容が多いのだろうか。


「……鎮痛剤と湿布の処方。あと暫くは野外での戦闘は控えろ。

軽装備と体付きからして格闘家だな?診なくても分かるくらいには足の怪我があったな?

前線に突っ込み過ぎて死ぬなんざ医者から見れば阿保としか言いようがない。死にたきゃ勝手に死ねばいいし、死にたくないなら頭使え」


冒険者を診察する立場として色々と思う所はあるのだろう。随分と辛辣な院長だ。


「もう!駄目よヴァンチェッタ。

御免なさい悠一さん。彼ってばああ見えて冒険者にこれ以上怪我をしてほしくないって思ってるの。

医者として助けたい気持ちと冒険者の気持ちの板挟みって感じね」


「……診察中だ」


「診察記録を取りに来たの。どうせなら処方箋のことも聞いておこうと思って」


「処方箋はいつも通りだ。診れば他人の治療魔法による応急処置は出来ているから薬の量は少な目でいい」


あれよあれよと診察が終わり、院内処方として先ほどの看護師が出してくれた。どうやら彼女はヴァンチェッタ院長の姉だと言う。


「色々と口の悪い子だけど腕は確かよ。それに貴方見ない顔ね?最近ヴェネスに来たの?」


「はい。今は大いなる翼に入団しております」


「そうなのね。あそこは昔お世話になっていた所だから……無理せず頑張って」


「有難う御座います」


料金を払い、渡された鎮痛剤と湿布を持って病院を出る。このままギルドに帰るのもいいが暫くは依頼が受けにくい状況なので暇つぶし感覚で町を歩くことにした。


(折角だし繁華街に行くか)


足取りは自然と賑やかな方へと向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ギルドがあるエリアから少し離れて繁華街へ行く。

市場と比べ夜は()()()()()()が開店しているが、昼間は真逆の服飾雑貨等が店を開けている。いくつか気になる店に入っては商品を見るだけに終わったが、ふと魔道具専門店へと足を運んでみると。


「あら?悠一じゃない」


「ロウェナじゃないか」


なんと先日会った大貴族の娘のロウェナがいたのだ。

どうやら彼女は氷魔法の魔力が溜まった特注の小瓶を引き取りに来たと言う。


「前の分は貴方と一緒に逃げた時に使ったから予備を買ったの」


「氷魔法って珍しいんだっけ」


「水と風の複合魔法だから扱える人なんて滅多にいないわ。ただでさえ二重属性(ダブルエンチャント)持ちは少ないからこの小瓶もちょーーっとお高いというか。私も扱えたらいいのにって思ってるんだけど、無いものねだりは駄目ね」


ロウェナの保有属性は風属性である。初めて出会った時に見せてくれた風魔法の応用魔法を思い出し、なんとも器用な人だと思った。

彼女は小瓶を仕舞い、このあとどうしようか悩んでいた。


「ご両親は心配しないの?」


「今日は特別に外出許可が下りたわ!

でも代わりに護衛を連れて行かないといけないんだけど、何処かに置いてきちゃった」


「駄目じゃん」


「だから代わりに貴方にお願いするわ!勿論お礼は必ず支払うから安心してね!」


「なんてタイミング!?」


こちとらほぼ完治済みの怪我のせいで依頼が受けられない状況だからと暇つぶしに繁華街へ来たのが運の尽き。まさか大貴族の娘の護衛役をするとは思いもしなかった。


(貴族となれば本来の護衛役は騎士団なのでは)


智夜から聞いた話だが貴族は冒険者ではなく王宮騎士団が警護する。また外出や外交は複数名で護衛しなければならず、まして大貴族となれば必ず付けなければならないのだ。それをどうでもいいとひと蹴りするので何とも言えない。


「そう言えば貴方ってどこの所属かしら?」


「大いなる翼っていうギルドだよ」


「———」


ヒクッ

所属先を聞いた彼女は一瞬だけ言葉を詰まらせた。


「……最近入団したの?」


「うん。ギルド長と偶然知り合って気が付けば入団した感じかな。俺が来る前から評判が良いらしいからロウェナもギルド長の名前は知っているんじゃないかな?」


「えぇ、嫌というほどに」


先ほどの表情から一転。何故か曇った。

もしかして仲が悪いのか、あるいは両者に何かしら問題があるとか?まして相手は大貴族の娘だ。何かやってしまったら一大事だ。


「えぇっと…なにか問題とかあった感じ?」


「別にどうってことないわ。

それはいいとして、これから私は家に帰ろうと思うの。そのための護衛をお願いするわ」


はぐらかされた。

表情は元に戻ったが裏があることは確実だ。かといって無理に探りを入れては相手に失礼だ。

自分の心情を察してか彼女は。


「大丈夫よ悠一。貴方に迷惑はかけないつもりだから」


「でも……」


「この私が言うのだから大丈夫よ!それに……貴方なら大丈夫だと信じてる」


――それから悠一はロウェナと一緒に行動することにした。

彼女の実家は繁華街を抜け小高い阪を登り貴族だけが通る門まで向かう。屈強な門番を前にロウェナは家元の証明であるエンブレムを出せば門番は通してくれた。


「彼も通してあげて。家に帰るまでの護衛なの。正式なギルド冒険者だから調べればわかるわ」


「……承知いたしました」


本来なら門の手前までだが彼女のお陰で通ることができた。


「ちゃんと御礼をしたいから通しただけよ」


貴族専用エリアは静かで厳かな場所だ。ギルドエリアや繁華街、市場とは違った空気に自分は場違いな存在かと錯覚するが、ロウェナは国王陛下による統治は完璧なものだと語る。


「貴族って割と嫌われる存在なの。私腹を肥やし市民や冒険者を道具として弄ぶなんて最低な行為を国王陛下は見逃すはずがない。愚かな貴族を管理すべく生まれたのが大貴族という肩書き。

いつか当主となった暁には国王陛下と共に国を守る存在になりたいの」


確かに貴族の印象は世間的に良い印象は持たれていない。

ロウェナが言ったように日々生活の為に頑張っている民の税をむしり取る者だっている。そんな世間でもオードック国王陛下はいかに国のため、民の為と日々思考をこらしているとのこと。


「悠一は大貴族がどれほどいるか知ってるかしら?」


「知らないな」


「ふふっ。そんな貴方の為に特別に教えてあげるわ!何せ冒険者が大貴族とこうやって話せること自体珍しいのよ?」


まるで話し相手が出来たような嬉しさを浮かべ、トンッと石橋の塀へと飛び乗った。


「まずはこの私、王国の武神と謳われた先祖代々の血を引くとされるヴェッカス家の次期当主ロウェナ・ヴェッカスよ。

次に王国に多大なる医療貢献を残したとされるアーキン家。王国の歴史を紡ぎ時代へと語り続ける王国の知恵の番人ファブル家。そして私達大貴族の頂点とされる魔導の始祖を持つ(すめらぎ)家。

以上四家が大貴族と言われる一族よ」


「……すごいなぁ」


「私はヴェッカス家に生まれたことに誇りを持っているわ。

武神の血を引くとなればこの私でも国の為に戦える……一族の長が周りに守られてばかりじゃ恰好つかないでしょ?」


国王の代わりに中立を保つ大貴族のお陰で大貴族以外の貴族を取り締まることができる。

貴族社会は貴族のみで解決するのが一般的とのこと。


「キミのその志は素晴らしいよ。でも一人で戦うよりも誰かと一緒に戦えたらもっとやりたいことができるんじゃない?」


「それってお誘いと捉えてもいいのかしら?」


「ロウェナ次第ってとこかな」


「言うじゃない」


ある程度歩けば更に次の門が見えて来た。

ロウェナは申し訳なさそうにしては。


「ここから先は大貴族しか行けない場所。

貴方との会話は楽しかったわ。また会う時は護衛を連れている時かしら」


「ちゃんと護衛の人を置いて行かないようにするんだよ」


「わかってるわよ。

まぁ、ちゃんと周りを見るのもいずれ上に立つ者としての行いだからしっかりしなきゃ」


責任感のある彼女はこれからも大貴族としての立場を理解しつつ頑張っていくのだろう。

彼女と別れを告げさっさと一つ目の門へと戻る。門をくぐれば門番が此方を見ていたので。


「彼女はちゃんと家に帰りました。もう一人の門番の方に聞けばわかると思います」


「……承知した」


貴族専用エリアの空気は自分には合わない。

ロウェナのような誠実で頑張り屋な貴族ってかなり珍しいし、騎士団は貴族と関わることが多いようだが、この先冒険者である自分達が貴族と関わるのだろうか。


「悠一!今までどこに行っていたんだ!」


「チドさん……」


しまった。病院からロウェナの護衛の件を連絡するのを忘れていた。

相当自分を探してくれたのだろう。焦りと不安の表情に申し訳なさと連絡を怠った愚かさに頭を下げるしかなかった。


「本当のことを言ってくれ。今までどこにいた」


正直ロウェナのことを言っていいのか分からなかった。

大いなる翼のこと、そしてギルド長であるチドを知っているものの、その表情は決して良くはなかった。

彼女の為にも嘘を付こう。


「病院の近くで迷子になっていた子を送り届けていました。先ほど親御さんの所へ無事に送り届けることが出来たんです。ですがチドさん達に連絡をせず勝手な行動を取ったことには申し訳ないです」


上手く笑えているだろうか。自分より大分背の高い彼の表情は夕日の逆光で分かりにくい。


「そうか。相変わらず優しいんだな」


なんだか気まずい。この後一緒にギルドへ帰ったが彼は終始無言だった。


「あ!領収書落とした……最悪だ」


吟から直接病院に行くようにと言われたので「お前にしては珍しい。今回だけだぞ」と診察代を経費で落としてくれた。

その光景に遠くから見つめるチドは。


「優しいんだな。誰かの為に嘘を付くくらいには」


誰にも聞こえない声で酒を飲みほした。


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