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魔獣①

「お前……19なのか……」


「なんか馬鹿にされてる気がする」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ある程度ギルドに慣れて来た悠一(ゆういち)は、受付事務員の(ぎん)からもう少し難易度を上げた依頼を受けて見ないかと言われた。


「魔女が産み落としたとされる魔獣の討伐だ。今回は他のギルドと一緒に行動してもらうことになる」


「魔獣……ですか」


「近年魔獣の数が増加している。そのせいで被害が絶えないんだ。

少しでも戦える冒険者を確保できればと役所も必死なんだ」


そこらの魔物とは違い、魔獣は魔女が産み落としたとされる獰猛で危険な生物兵器だ。

今回の魔獣はヴェネス王国と同盟国であるエトワール王国が使う貿易ルート付近に出現したと言う。


「魔獣のせいで貿易が中断されてはお互い利益がなくなってしまう。

もし魔獣討伐に参加してくれるなら私から申請書を出そう」


「分かりました。行かせて頂きます」


「……すまないな」


魔獣となれば死ぬ可能性もある。

吟が申請書を作成している間は智夜から詳細を聞くこととなった。


「私達以外にもエドンティスや他の冒険者が来るらしいよ。

エトワール側は冒険者の数が安定しないという理由から兵士を用意してくれたようだ」


既に兵士を待機させているので待たせないように急がねばならない。

なるべく距離を取って戦闘をした方がいいとアドバイスを受けつつ他の冒険者たちと一緒に件の場所まで向かうことに。

相手が魔獣とあって初心者の冒険者は参加できないらしい。集まった冒険者たちは皆実力のある者達で構成されていた。


(知り合いがいないってなると、なんだか不安だ)


チドは今回の魔獣について一度ギルド長で集まって話し合いをするので後からやってくる。

智夜はエトワール王国とのギルド外交の都合上参加しなければならず不在。


「よぉ。見ない顔だが新入りか?」


作戦会議の中声をかけてくれたのはこれまた体躯の良い男だ。派手なシャツに黒のパンツ。そして特徴的な顔の傷を持つが人当たりの良い笑みのお陰でそんなに怖くなかった。


「自分は大いなる翼の構成員です。貴方は……」


「俺はエドンティス在住の冒険者だ。お互い死なない程度に頑張ろうぜ」


エドンティスと聞くと嫌でも組頭を思い出すが、武闘派集団の中でも彼は比較的マシな部類かもしれない。後にエトワール王国の兵士長が挨拶しにやってきたため自分も挨拶をすれば、先ほどのエドンティスの男から。


「お前って礼儀良い方なんだな」


「挨拶してくださった相手に礼儀は必要でしょう?」


「……歳は」


「19です」


「若いな」


餓鬼と言いたいのか、男は暫し考えながら何度も若いと口にした。

そもそも冒険者に年齢は関係無いはずなのだが。


「——いたぞ!アイツだ!」


実の所魔獣の存在は初めて見る。

その姿は成人男性を余裕で超える巨大さと猛獣の如く鋭く剥き出す牙。

四足歩行の四肢はまるでライオンのような姿。


「あれが、魔獣…!」


巨体に反して素早い動きで兵士と冒険者を薙ぎ払う。

属性魔法を放つ魔法使いたちを庇いつつスマッシュを叩きこむ。しかしどれ程ダメージを受けようが魔獣は一切怯むことなく攻撃してくる。


(まずい!)


魔獣は一時撤退する冒険者と兵士に向けてブレスを吐いた。倒れる彼等に追い打ちをかけるように暴れまわる魔獣。このままでは全滅してしまう。


「一か八か…!」


落ちていた誰かの槍を手に取って魔獣と対立する。武器の扱いは一通り慣れているので失敗はないはずだ。攻撃をかわしつつ魔獣の眼球目掛けて矛先を突き刺す。痛みで吼える魔獣は暴れ出すが隙が生まれたので戦える人員で攻撃を再開する。


「——ッ」


魔獣は一番近くにいた悠一に狙いを定めた。

長い尾で胴体を殴るように弾き、更にはその大きすぎる口から見えた炎にとてつもない”死”を感じた。


「おい!」


死を覚悟した時、エドンティスの男の声がした。


「餓鬼がそう簡単に死ぬんじゃねぇよ!!」


何とか体を捻ってブレス攻撃から逃げることに成功した。男の声が無ければそのまま燃やされて死んでいただろう。

ある程度距離を取れば片目しか見えない魔獣は辺りを徘徊し始めた。


「死にたくなきゃ撤退しろ。無駄な死体が出来るだけだ」


男の言い分は当然のことだ。

力の差で怖じ気付いた者は既に撤退している。残ったのはある程度死地に慣れた者達だけ。


「無力なのは百も承知です。ですが、俺はまだ戦える」


「未熟者を戦地に送って無駄に死なせることが大いなる翼のやり方か?」


「あの人達はそんなのじゃない!」


彼等は決して誰かを切り落とすことはしない。それこそ路頭に迷っていた自分を受け入れてくれたのだ。


「楽しいお仲間ごっこや綺麗ごとで解決できるほど世の中甘くねぇ。同じギルドメンバーだからと無力のまま甘えていたらいつかは切られる。捨て駒になりたくなければ死なないことだな」


「そんなの、俺は……」


「シャークさん。魔獣が別のルートに移動しています。恐らくエトワール方面に向かったかと」


「ッチ……ウチならともかく向こうに被害出たら貿易所の話じゃねぇぞ。臣さん等が来る前になんとかしねぇと」


男――シャークの部下らしき冒険者が「その者はどうされます?」と声を出す。

シャークは暫し考えながら悠一に問う。


「無駄死にしないと言うなら来い。死んだら後味が悪いからな」


「……行かせて頂きます」


「死んだらお前のギルドは国中からの信頼が落ちるってのも頭に入れとけ」


「はい」


除け者にしない時点で本心は優しいのだろう。


「俺はシャーク。こう見えて魔法格闘家(マジックファイター)だ。

お前の名前は?」


「悠一です。ただの……いえ、大いなる翼の格闘家です」


「ハッ。ちゃんと挨拶できるじゃねぇか」


同じ格闘家とは奇妙な縁が出来てしまった。ただでさえエドンティスにはトラウマに近しい相手がいると言うのに。


「まずは両国に連絡を入れる。その後臣さんに報告だな」


部下に伝達するよう命令を下し、その後何故かシャークは悠一を担ぎ出す。


「……は?なんで?」


「お前怪我してんのバレてっからな?餓鬼が無理すんじゃねーよ」


「怪我なんて……うぎゃッ」


ビキッ。

足に激痛が走ったのと同時にシャークは声を押さえながら笑う。どうやら戦闘中に足を怪我したようだ。


「まずは手当からだな」


「はぁい」


ここは大人しく従おう。


(チドさんになんて説明しよう……)


少なくとも足手まといにはなりたくないな。


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