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冒険者の目的

「通りで会議中に離席したわけだ」


溜まった仕事をようやく終えたチドは(ぎん)から悠一(ゆういち)の様子を聞いた。

役所から帰宅した悠一は酷く疲れ切っており、また翌朝出会った際に何かあったのかと聞けば曖昧な返答のみでおかしいと零していた。

特別後ろめたさは無かったので代わりに聞いてほしいと頼まれ無理矢理会話の場を設けたのがきっかけだ。話し合いの場を設けられた悠一は少しだけ恐怖心に駆られたが、それが心配からなるものだと判断したので正直に話すことにした。


「実は……」


悠一は昨日役所での出来事を話した。

まさかの武闘派集団エドンティス組頭 時雨臣(しぐれおみ)との出会いにチドも頭を痛めた。


「あの人はウチのギルド宛てに支援金を頂いている人でな。

良い人ではあるんだが時折浮世離れな所もあって掴みどころのない人なんだ」


時雨臣は数多くの功績と人望、実力を兼ね備えており国王直々に認められた由緒ある男でもあった。

武闘派集団の通り、血盛んな構成員を束ねるカリスマ性と政治に関する知識もあり誰もが憧れる男としても有名だ。

そんな彼の肩書きは【右爆左雷(うばくさらい)】と言われている。


「右爆左雷?」


「彼は二重属性(ダブル・エンチャント)所持者だ。

本来一人につき一つの属性を持つが、肩書きの通り爆撃魔法と雷撃魔法の使い手でもあるんだ」


「二重属性…!かなり珍しいですね」


「爆撃魔法は火属性の派生属性で雷撃は雷魔法の上位に位置する魔法なんだ。

同じ火を扱う身としては尊敬できる御仁だ。いつか冒険の経験談とか聞いてみたいよ」


ギルド長の座に就くだけではなく、人望や多くの実績と恵まれた能力があればそれはそれは国王も認める男であろう。

チド曰く推定40代とまだ若いそうだ。元々は国外の人間だったと言うらしいが、真実は分からない。


「しかし書類提出が理由で会議を抜け出すか?あの人の腹の内は分かんねぇな」


わざわざギルド長が提出せずともギルドの事務員かお使い係が行うはずだが。


「悩んでいても正解が分からない以上余計な詮索は控えたほうがいいかと」


「そうだな。

それにこれから依頼関係で忙しくなるぞ!一緒に依頼を受けに行こうぜ!」


「はい」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「——悠一は何故世界中の冒険者が今も尚活動しているか分かるか?」


討伐依頼の帰りにチドは問う。悠一は少し考えながら口を開く。


「千年前から存在する魔女の討伐が目的でしたっけ?」


「ああ。正確にいえば原初の魔女とその子孫の討伐だな」


この世界は千年前から存在する原初の魔女によって闇に覆われた。

原初の魔女に抗うべく当時の人々は力を尽くしたが膨大な力を前に敗北した。


「そんな窮地を救った賢者が原初の魔女を封じたとされるが、力を使い果たして死んでしまった」


賢者が封印する前に原初の魔女は数多の子孫を残し封印されたそうだ。

しかし残された子孫は今も尚この世界のどこかで我々を脅かす存在として残り続けていると言う。


「ヴェネス王国も魔女によって戦争が起きた……色んな犠牲を払ってでも魔女を討伐することに成功したんだ」


それでも封印されても残された子孫がまだいる以上平和など遠い存在だ。

ヴェネス王国もかつては多大な犠牲を払って今の平穏がいると言うのに。


「でも、どうやって討伐したんですか?」


「それが分からないんだ。少なくとも俺達が生まれる前だと聞くが」


魔女を討伐するだけでも歴史的なことなのに。

いつ、誰が、どこで。その記録は愚かヴェネス王国にいる住民ですら分からないと言う。


「噂じゃ国外の者か、あるいは刺し違えて亡くなったか。

今となっては解明しようがないけどな」


戦争は確かにあった。

しかし終結したのはいつなのか、そして魔女を討伐した英雄が誰なのか定かではない。


「昔のことは分からないことだらけだが、ギルド長としても、いち個人としても、俺はかつての英雄のような……人々を助ける仕事に就けて良かったと思ってるよ」


その笑みは何処か寂し気に映るような、何かを思う光景に悠一は不思議な気持ちになった。


「俺に出来ることがあれば率先してやるって決めてるんだ。

今はまだ小さなことばかりかと思うけど、それでも誰かの為になるなら頑張るさ」


大剣を担いで笑う。


「疲れないんですか?」


「?」


「あっ、いえ…。差し出がましいかと思いますが、どうかご自愛なさってください。

誰かの為ではなく、チドさん自身の為にも休息は必要かと」


「……ありがとよ悠一」


一瞬だけ、薄灰色の目が揺れた気がした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



帰宅後受付事務員の吟からとある男を紹介された。


智夜(ともや)って言うよ。好きに呼んでくれて構わない」


ヘラリと笑う眼前の男は煙管を手に挨拶してくれた。

まるで何処かの放浪者みたく煙の様な男だ。


「ヴェネス王国って和装文化もあるんですか?」


「ん~?まぁファッションだと思った方がいいかもねぇ」


彼もまた着物を着ていた。

ヴェネス王国は様々な文化が入り混じるため否定は失礼に値する。


「コイツは術士だ。最近まで他の仕事にあたっていてやっと帰って来た所だ。

戦闘では主に補助役に該当するからもし連れて行くなら遠慮なく連れていけ」


「ちょっと私に対する扱い雑過ぎない?もう少し後輩に良い顔させておくれよ」


「本来なら昨日の朝帰ってくるはずがキャバクラ三昧してようやく帰宅したのに?」


「息抜きくらいさせておくれよ~。女の子達に癒されたかったんだ」


どうやら智夜という男は女性にだらしないらしい。


「私はチドがギルド長になる前から在籍しているから、もしギルドやヴェネス王国について分からないことがあればいつでも聞きにおいで?こう見えて割と長生きしているから」


外見で言えば30代前半くらいの見た目だが、見た目に反してかなりの年長者なのだろうか?


「その時はよろしくお願い致します」


「了解した。なんとも礼儀正しい子だね」


「私の後輩だぞ」


「俺の後輩でもあるんだが」


「わ~モテモテだね」


「嬉しいのか困惑すればいいのか分かりません」


まだ出会って3人目のギルドメンバーなのに。

この先やっていけるだろうか。

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