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海域④

様々な事情故にルードウィッヒと組むことになった悠一は正直どうすればいいのかと非常に悩んだ。

チドに至っては「最悪殴ってもいい」と許可を貰っているが、何もない状態で他者を殴るのは人として御法度であることは承知の上。しかしルードウィッヒに関しては「あのチドの後輩とはな!」と見下された感じがしたのでビンタ一発で治めた自分は偉いと思う。


「船での巡回なので暴れないでくださいね」


「フンッ。言われなくても分かっている」


船とは言っても小型の和船だ。魔女以外にも魔物も出るため海には入らないように気を付けなければならない。船を扱うのは大分久しぶりだなぁと思いながら貿易ギルドシュリランテの番頭ベルベットに船の扱い方を聞いていると。


「船の扱い方を知っているようでしたらブーストもつけましょうか?」


「お願いします」


「貴方は彼の大事な後輩ですし、今回の件で大変お世話になるのでオマケとして付けておきますね。

ただブーストを使用する際は振り落とされぬよう気を付けてくださいね」


風属性と火属性をエンチャントしたブーストを搭載すれば万が一魔女に遭遇しても逃げれそうだ。

必要最低限の荷物を確認しつつ、海へ出ればとても静かで波の音すら聞こえない。

あまりの静寂に嫌な予感を抱きつつも巡回を続ける。


「……貴様はあの男の何処がいいのだ」


「藪から棒になんですか」


静かすぎる状況に耐えかねたのかルードウィッヒが口を開く。

悠一から見たチドは良きギルド長、良き先輩冒険者としての側面が多い。ただ時折何を考えているか分からないこともあり下手に踏み込まないようにしている。


「あの男は普通じゃない」


「普通もなにも、彼はただの人でしょう?」


「これだから無知は」


何だコイツ。

このまま海へ蹴り落としたい気持ちを抑えつつ、視線を海へと移した。

——とぷん。

微かに聞こえた音に悠一はすぐさまブーストを起動させた。


「おい!」


「いいから掴まって!」


急いでその場から離れれば、先ほど音が聞こえた所からドッと溢れんばかりの長い触手が現れたのだ。

遠くからでも分かるぬめった吸盤と突起が悠一達を認識した瞬間その長い触手は前のめりになって海面を叩きつけた。


「海魔にしては大きすぎるぞ…!」


ルードウィッヒは剣を抜き風の力を借りて真空波をぶつける。多少抉れたがそれでも攻撃は止まずずっと海面を叩きつけているため船が思うように動かない。


「攻撃よりも貴方の風魔法でエンジンの補助を!」


「指図するな!今やってる!」


何とか触手から逃げ出せたが触手はそのまま動きを止めて海上の真ん中で佇むことに。

港まで帰れば様子を見に来た騎士やシュリランテの船乗り達が心配そうにしていたので自分達は無事であることを告げた。


「アレも魔女が召喚した海魔なのか?だとしたら今すぐ雷属性の魔導士を呼ぶしか……」


「待ってください。あの大きさではすぐ対処するのが難しい。この件は一度報告をしないと」


「貴様等冒険者よりも騎士団がすぐ解決できる」


「だからって勝手な判断で周りを巻き込んでしまえば騎士も冒険者も関係無く無駄死にするだけだ!

貴方は騎士になるまで何を見てきた!?」


あの海魔は大きすぎるし、万が一移動されて港へ来てしまえばそれこそヴェネスの住民が危ない。

弱点であろう雷属性保有者の魔導士たちを招集しても海魔がどういう行動をするか分かったものでは無い。


「死んでからじゃ何もかも遅すぎる。貴方は目先の利益に囚われ過ぎだ」


騎士も冒険者も結局は人間の集まりだ。死んでしまっては何も残せない。


「……フン。この件はエレノア副団長に報告する。

精々そちらも万全の対策を練ることだな」


「えぇ。そうさせてもらいます」


特に怪我はないのでこのまま帰宅することにした。

チド達に報告を済ませ休憩を挟む。この後チドと共に魔導士を招集するための会議を行う予定だ。


「海上で雷魔法を放てば対策が取り切れていに仲間にも影響がでるだろうし、かといって迂闊に近寄れば掴まって海底に連れていかれて死ぬかもしれない……」


遠距離攻撃が得策だが魔力切れや妨害による集中力の欠如のもある。


「悠一」


悩む悠一の元に智夜が近寄る。

どうしましたか、と言えば。


「海魔の出現を知らず無理を承知にキミを偵察へ向かわせたことへの私達の判断不足、そして近距離専門の格闘家のキミに危険が生じるとして暫くは後衛に回すことにしたんだ。

ヴァンチェッタ医師からも注意を呼び掛けているみたいで……少なくとも精神汚染の対処に詳しくない者は戦いを控えるべきだと」


「それは、戦力外告知ですか」


「そこまでではない。でもキミは魔女の怖さを知らないだろう?」


魔女という未知の敵と海を支配する海魔相手では近距離専門の格闘家である悠一ではデメリットでしかないと判断された。先も述べた迂闊に近寄れば掴まって海底に連れていかれ溺死か捕食の一方である。


「武器だって扱えますし、魔道具さえあれば遠距離での支援も……」


「私だけの判断ではない。今回はチドも相当苛立っている様子でね。

詳細は言えないが、私達は決して悠一を見捨てたりはしないから」


これ以上食い下がっても意味が無い。

理解を示した悠一に何度も謝罪した智夜に此方も申し訳なさがあったからだ。


「編成や対策はギルド長会議ですぐ決める。その後キミにも指示が出ると思うからある程度の準備をしていて欲しいな」


管理職も大変なのだろう。

このまま大人しく彼等の指示が来るまで待つしかない。


「道具だけ揃えに行こうかな」


せめて道具さえ準備すればいいかと思いそのまま外に出てみる。

新たに海魔の出現に貿易が上手く機能していないのかいつもと違って活気が無い。貿易の要であるシュリランテの力が無いと中々上手くいかないのだろう。現に治癒のポーションや状態異常の回復ポーションの価格が値上がりしている。噂話で役所も多くの市民による相談窓口が渋滞しているとのこと。


「……ヴェネスもヴェネスで大変だよなぁ」


ポロリ、と漏れた言葉に思わず口を閉じる。

ヴェネスの冒険者なのに、何故他人事のようなことを。

もしかしたら自分は疲れているかもしれない。さっさと買い物を終わらせてギルドへ帰ろう。


「?」


市場を去る間際、ルードウィッヒの姿が見えた。

冒険者に対する態度は悪いが仕事放棄はしなさそうな彼のことだ。町の巡回か誰かの護衛をしているのか。


「———ッ」


が、突然の姿に悠一はすぐさまギルドへ帰った。

幸いにも人混みが多いことで彼には気づかれなかった。


「そうだよな、そうだもんな……魔女が出れば、貿易に影響が出れば、嫌でも出ざるを得ないもんな」


ギルドに辿り着いた瞬間腰を抜かしそうになった。

だが下手に悟られては駄目だ。まだチドも智夜もギルドに帰ってきていない。


「相談するしか、ないもんな」


自室へ戻りすぐさま手紙を書いたのである。

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