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海域③

「何故貴様と共に行動しなければならないのだ」


「知りませんよ。文句があればそちらの団長に物申したらいいじゃないですか」


――事の発端は意外な出来事だった。

本格的に魔女に対抗する術を模索している中、早朝からギルドの門を叩いたのは騎士団長張本人であった。受付をした吟が驚きながらも「何用で」と尋ねたところ。


「部下の詫びのため来た。ギルド長と件の冒険者はいるだろうか」


すぐに呼ぶ。

そう言って吟はすぐさまチドと悠一を呼んだ。騎士団張本人が自分達をご指名だなんて驚きを通り越して不安しか残らない。いざ顔を合わせれば騎士団長は。


「ルードウィッヒがお主らに無礼な行いをしたとエレノアから聞いた。騎士団長として部下の失態は我が失態に値する。誠にすまなかった」


深々と頭を下げ謝罪する騎士団長ことガストン。

彼は国王ヴェネス・ヴァン・オードックから多大な信頼を寄せている正真正銘の騎士団長である。

初老ではあるが歴戦の騎士であることは勿論、場合によっては他国との外交や四大貴族の護衛、そして自ら国外での魔物討伐を行う誰もが憧れる人物。

そんな彼が若き青年2人に向かって頭を下げるなんて誰が想像できようか。


「顔を上げてください。今回の件は魔女に関する事件です。騎士だから冒険者だからと考えるよりも国のため市民の為にお互い尽力いたしましょう」


「……変わらぬのだな。して、隣にいるのは新しく加入した冒険者か」


「悠一と申します」


威厳ある雰囲気から少しだけ穏やかそうな表情を見せた。


「ガストンだ。ここの術士と事務長とは昔からの仲で、ギルド長に至っては過去に何度か行動を共にしたことがある。騎士もギルドも共に国の為に働くのであれば何ら問題が無いと思っている」


しかし、

ガストンは何処か申し訳なさそうに続けた。


「ルードウィッヒのように、お主らに対する態度や考えを持つ者がいるのは多少なりともいる。何故そうなってしまったのやら」


どうやら騎士と冒険者の仲が悪いことに少なからず困っている様子。

だが今回の件はどちらも手を取り合い協力して魔女をどうにかしなければならないと語る。


「よって悠一よ。チドの代わりにルードウィッヒと組んでくれんか?」


「俺が、ですか?」


「待ってください。ルードウィッヒはあの時悠一に対して失礼なことを言った。

向こうとの相性は最悪だと思うのですが?」


チドが前に出て物申すがガストンは意思を変えないようだ。

魔女の件を機に騎士団と冒険者との不仲を改善できるのではと考えていた。ただしルードウィッヒのような思想が強い相手ではチドのような立場の人間と組むには難しいと考えた。


「悪いがこれは決定事項だ」


「……」


(滅茶苦茶嫌そうな顔してる)


あからさまな顔にもガストンは一切の態度を崩すことなくギルドを後にした。

ギルドから完全に去った後、チドは悠一に向かってこういった。


「ルードウィッヒならいつでも殴って大丈夫だからな。何かあればすぐに俺に相談するか、最悪智夜に頼んで毒物の生成をだな……」


「ほんとルードウィッヒさんと何があったんですか」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



同時刻。

副団長エレノアから告げられた言葉に、まるで死刑宣告を受けたような表情でルードウィッヒは悲痛に叫んだ。


「何故ギルドの連中と共に行動しなければならないのですか!汚れ役など奴等で十分では!?」


「団長と私、そしてエドンティスとシュリランテで決めたことだ。国王陛下から了承を得ている」


「いくら王国の重鎮として扱われているエドンティスとシュリランテでもこれはあんまりです!

まして私が組む相手はあの大いなる翼とは!あの男がいるギルドの名を聞くだけでも虫唾が走るというのに!」


当然の回答にエレノアは頭を抱えた。

何せルードウィッヒは成績こそあれど非常にプライドが高く扱い辛い。幼き頃から魔法剣士としての鍛練は勿論礼儀作法を心得ているはずなのに。


「言っておくが組む相手はチドではない。傍らにいた悠一という格闘家だ」


「四大貴族の令嬢を誑かしたと噂になっているあの男ですか。……まぁ良いでしょう、チドと比べて大人しそうですし」


――問題児相手ならば悠一という格闘家と組ませておけば問題ない。

そう言ったのはエドンティス組頭であった。腹の底が分からぬ男だが人への評価や采配には確かな目を持っているため反論せずそのまま受け入れた。

冒険者に偏見を持つルードウィッヒ相手に悠一という男と組ませて大丈夫なのだろうか。


(団長も受け入れているが……今回の件は如何に被害を少なくするかが鍵である)


魔女を退けるだけでも大きな代償を支払ったかつての過去。

当時の騎士団では全く歯が立たなかったのにも関わらず、魔女を退けたのは紛れもなく冒険者たちであった。しかしその冒険者たちの名前は愚か、姿形すら記録に残されていない。

国王陛下ですら当時の日を一切語らず真実は闇の中。


(団長なら何か知ってそうだが……。否、下手に干渉しない方がいいだろう)


魔女を退けただけでもこの国は存在することができる。

しかし新たな魔女の出現でこの先どれ程の被害が出るのか分からない。


「我々は国の為、民の為に存在する由緒正しき騎士団。王の期待に応え民を守護する者。

決して慢心するではないぞ」


「畏まりました」


何事も無ければいいのだが。


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