運命
いじめを受ける少年と少年を守る双子と運命を決める天使の話。
暑さを肌身に感じてくるようになった初夏の頃、ソーダ色した風にはしゃぐ女子生徒の不揃いなスカートはなんとも不思議なものだ。
県内でも名門校と名を馳せる進学校・藍玉学園中等部に入学した大葉 誠は早くもいじめの対象になってしまっていた。
理由は明白。成績優秀で運動神経抜群、おまけに容姿も全く問題ない。全男子中学生の嫉妬の対象にならないはずがない大葉の元々の性格も相まって、いじめはどんどんエスカレートしていった。
最初はクラス中の無視から始まり、次に身の回りの物が無くなることが増え、現在は授業開始のチャイムが鳴り終わっているにもかかわらずクラスメイトによって屋上に閉じ込められている。
「、、、誰かいるならここから出してくれないか」
扉の向こう側に呼び掛けてみても全く返事が返ってこない。真夏の斜陽は容赦なくぎらぎら大葉の素肌を照らしていく。
「、、暑い」
「どこが暑いの?」
「えっ」
急に後ろから声がして思わず振り返ると、大葉は思わず息を飲んだ。
「貴方は、、誰なんですか?」
「僕の名前はマコト、ただの空から落ちてきた天使だよ」
彼は天使だった。
背中には大きな銀白色の羽が二枚。肌は白く、女にも男にも見える美形で頭上には蛍光灯のようなリングが浮かんでいる。女子生徒だったら美しさに当てられて気絶してしまうだろう。
「マコトはどこから来たの?」
名前を聞いたら次はどこから来たのかを聞くのが普通だろう
「さっき言ったでしょ」
マコトはそう言い左利きの人差し指を空に立てる。
本当に空から来たのだろう、天使の瞳は、ラムネ瓶みたいに透き通っていた。
キーンコーンカーンコーン、授業が終わるチャイムが鳴った。
「ああ、授業が終わっちゃった。理科の小林先生怖いんだよな、」
「なんで君はここから出ようとしないの?」
「出ようとしてないわけじゃないんだ、出られないんだよ」
「そうなんだ」マコトはまっすぐ俺のことを見る。
なんで閉じ込められているかは聞かないのか。と訊ねようとしたと瞬間
扉の奥に人影が見えて、ものすごい勢いで屋上の扉が開かれた。
「おい大葉、閉じ込められるならもっとマシな所に閉じ込められろ」
「ちょっと、折角見つけれたのにそんなこと言わないでよね」
人影の正体は、大葉の中等部内で数少ない友達である双子の雪見兄妹だった。
兄は口が悪いが頭がよく、大葉と同じように勘違いされやすいが根は優しい雪見 桃李と、運動神経が抜群で、男気が強い性格を持っている妹の雪見 琉夏だ。
この双子はとても優秀で、桃李は大葉とテストが始まるたびに一位を争いあえる程の頭脳を持ち合わせていて、琉夏は大葉と体格などの等しい条件がそろっていれば明らかに運動能力の実力は上だ。
「二人ともありがとう」
大葉は自分を見つけてくれた二人ににお礼を言うが、なぜだか二人はこちらを見て有り得ないと絶句している。
「ねえ君、この二人僕を見て驚いているようだけど、僕の思い込みかな」
急に横からマコトが話しかけてきて大葉はハッとする。そうだ二人はまだマコトのことを知らない。
数秒間沈黙の時間が流れて、ようやく雪見の兄が口を開いた。
「おい大葉、俺は気でも狂ったのか?お前の横にとびきり美形の天使が見えるぞ」
「と、桃李も見えちゃうの⁉実は私の目にもはっきり映ってるの、、」
「、、、二人も見えるんだね、どういう訳か俺にも見えるんだ。よかった幻覚じゃなかったんだね」
三人はまじまじとマコトの顔を見るが、マコトも三人の顔をじっと見ていた。
大葉ら三人の様子を見るマコトは全く感情が読めない顔で微笑んでいて、その微笑みの美しさは三人に本当に天使なんだ。と本能で感じさせていく。
「ていうか楓君はなんでそんなに冷静なのよ!」
意外と常識がある方の琉夏はしっかりと状況を整理して大葉に突っ込む。
「、、、どれだけ取り乱したって意味がないからさ、見えてしまったらもうどうしようもないからね」
「おい馬鹿、驚くって感情知ってるか?どんだけいじめられて感情を失っても普通の人間が本物の天使見ると必ず驚くものなんだぞ」
「桃李には言われたくないな、俺と同じで勘違いされるほうだろ」
「二人ともこんな状況で口喧嘩しないでよね」
「黙れよ琉夏、かわいいイルカちゃんは早く教室に戻って女の子たちと給食でも食べてな」
「それは珍しく俺も桃李に同意するよ、知ってるか?イルカは群れを成して行動するんだよ」
「僕イルカっていう名前初めて聞いたよ」
「二人共!と一匹?ほんとにいい加減にして!!!」
二人の口喧嘩に巻き込まれた事とマコトの最後の一言で怒りが爆発した琉夏によってその場は鎮められた。
「ほらマコトのせいで琉夏が怒っちゃったじゃないか」
「僕のせいじゃない気がするんだけど」
「もうこの話はいいだろ、なあ天使さんよ名前はマコトっていうのか?」
「うんそうだよ、僕はマコトさ」
「私たちはなんでマコトが見えるの?」
「そんなの僕が知るわけないでしょ、人間の悪いところは知りたがりなところだね」
「そんなこと言うなよ、」
忘れないでほしいのだが一応頭の切れる三人だ。少し落ち着けるようになり、状況を冷静に判断できるようになった三人は此処は学校で今は給食の時間だということを思い出してきたようだ。A組の大葉とB組の雪見兄妹がこの時間に消えると怪しまれるのは確実と予想される。ましてや大葉は現在進行でいじめられている、クラスメイトに何をされるかわからない。
「二人とも早く戻ろう、俺の給食が心配でならない。前に遅れたときはスープに木工用ボンドが入ってたよ」
「うげっ、お前それ飲まなかっただろうな?」
「とにかく戻りましょ、マコトもとりあえずついてくる?」
大葉と桃李が屋内へ駆け込んでいくが、琉夏は振り向きマコトに同行するかを尋ねる。
「僕も行っていいの?」
「当たり前でしょ、早くわよ!」
琉夏はマコトの腕をつかみ下の階へ続く階段を駆け下っていった。
「僕走らないでも飛べるんだけど、、」
四時間目が終わり15分ほど経ったころ、中等部には相応しくない廊下をバタバタと走る音が四人分鳴り響いた。
初めて自分で物語を書いてみました。まだまだ四人の話は続きます。