④ 太陽の万白
男子生徒のブレザーは小さくなった
女子生徒のスカーフが春らしく揺れていた
翅はね中学校の卒業式は2028年3月24日の金曜日に執り行われた
学び舎は京成電鉄の大神宮下駅にほど近い場所にあった
千葉県最大規模の大型商業施設が圏内にはあって、放課後や休日には子供たちも自転車を漕いで遊びに行った
其処は大人へと駆け出す課外授業として煌びやかな世界だった
卒業式のあと、そのららぽーとで謝恩会が開かれる予定だった
卒業式が始まった
幾度と練習した通り、整列し行進する
着席、号令に呼応して、規則正しく席に着いた
開式の言葉から始まり、君が代を皆で歌った
来賓が紹介された
卒業証書授与式
ひとり、またひとり
名前が呼ばれていく
はい
2組に入って担任の黒田先生が名前を呼ぶ
大熊武志
はい
影山今日花
はい
住倉雄介
はい
瑠美流智哉
はい
学年主任の遠山先生が校長先生にペーパーを授け、生徒へと卒業証書が手渡されていく
ペーパーを介して繋がった時、"おめでとう"と柔らかな微笑みを捧げた
"ありがとうございます"
話が短く端的で、恍惚な肌艶が健康を明示して4,5歳は実年齢を茶化しても疑いの掛からないような校長だった
凛々しく背筋の伸びたその姿は、長として相応しいシルエットだった
卒業証書授与式を遅滞なく終了して
校長先生の式事に移る
校長の唇がゆくりと開く
「皆さん卒業おめでとうございます。合わせて、御父母の皆様も誠におめでとうございます。
今日という日は皆様にとって新たなステージへの門出の一日となることでしょう。
私は3年前に翅中学校の校長に就任しました。
子供たちと過ごした時間は、私にとって人生のトキメキであるのです」
柔和な口調で話が進められた
平素からテンポの良い口述に長けた校長は生徒から、親から支持されていた
ふと、語気に力みが加わった
「・・・それほど、親御さんの影響は大きいのです」
静まり返る体育館
涙を浮かべる教員が一人、二人
呆然に絡みつかれた親
サザめく子供たち
「裁定委員会を設立します。教員も裁定委員会を通して子供及び親に対しての問題点を提起できるようにします。私には子供達と同じように、先生方を・・・」
若い女性教員はハンカチで目頭を押さえていた
中堅の男性教師は頭を抱えて床へ向けて顔を伏せた
「3年間様々な問題が起こりました。子供達の喧嘩や教師に対してのクレーム。親御さんの方から、先生による威圧を被ったなどという発言を受けた事象もありました」
父母席から冷気が漂う
仲春の体育館を緊張が覆う
上履と床の擦れる音が拾えた
キュッ
「一方で子供達が先生を揶揄ったり、嘲笑したりといった事態があることも真実なのです。大人であるとしても"複数"には対抗できないんです。相手が子供であったとしても・・・」
咳払いが響いた、低い呻き声がゴーストのようパイプ椅子の下を這っていく
子供たちは静寂した
「・・・精査して裁定が下されます。退学、停学、名誉毀損、学園運営の妨害による賠償など。」
声色が怒号へと上情する
卒業生や在校生からも、数人の生徒が制御を破り席を立ち上がった、パイプ椅子が点点と暴れる
泣き出した教師がいた
鋭い刀を抜いて仇を取った侍、毅然と真っ直ぐに不動、口を閉じた
教師たちは場を収めようとしなかった
仕方なく、
来賓の中から二人男女、卒業生から一人の男がステージに向かって場に収拾を試みた
「雄介・・・」
曇気が覆う中、祝典は祝典とは呼びようのない速度で進行されて、送辞、答辞、史上稀に見る小動物の泣き声のような校歌斉唱が執り行われた
雄介の答辞だけは良かった
雄弁な口調が澱んだ空気を微かに打破し掛けた、紋付袴だった
PIZZA
僕らの中学校生活は終わり
千の世界
・・LEANING PARALLEL・・
愛の世界
私たちの中学校生活は始まり
雄介の登辞ひどかったなー
小学校の卒業式ね
あはは、えらい緊張してたわ
かみかみ
うっさい
あんなの
えりゃあ緊張するに決まってるし
ふっ
だもんで
良かったな
卒業式
うんそう
謝恩会も
でら楽しかったみゃー
なんて言った?
その店
あのシュークリーム屋のハス向かいの
OR HASHI
だみゃあ
・・・・
暖かな春
早春の木漏れ日
今日
僕たち
私たちは
花小学校
翅中学校
恋した女
変わらぬ仲間
真新な装い
襟立カッター
スカーフネクタイ
シュッとした背筋
新生活
めっちゃきついで
千里の坂道
関大の山登ごくり
風吹く街の謝恩会
聳える観覧車
EXPOの路面通
ケンタの無限胃袋
昭和へのタイムスリップ
万博へのタイムマシン
爆発の足跡
芸術の足音
右涙の爆発
太陽の万白
坂の世界
・・・・斜の並行世界・・・・
ハスパラレル
6つに割れた校門
〜スキだらけのチュー坊〜