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3-9

「各地に存在する数多の魔物の記録の中に、人型の魔物の記載はないわ。でも、聖国の書庫に保管されている対戦初期の記録に、少しだけそれらしい記録があったのを思い出して、探させたの。記録自体が古過ぎて、真偽の程は定かではないのだけれど。」


姫様が開いた書物は、古語で書かれていたため、私には殆ど読むことは出来なかった。けれど、挿絵の中にあった異能者と敵対する人型の影に目が留まった。

姫様は、その絵を指差しながら、ゆっくり説明してくれた。





神が異能者を生み出したことで始まった魔物との対戦は、日々、その激しさを増していった。暫くすると、双方の拮抗した力が、異能者側の優勢に傾いていく。

しかし、その中で、異能者は自身の強過ぎる力に、精神を汚染され始めていた。

それを魔は見逃さなかった。

苦しみに喘ぐ異能者の心に入り込み、その体を乗っ取ったのだ。




「その時代は、神が異能者に番を授けたばかりで、番自身もまだ上手く異能者の精神を癒すことが出来なかったみたいなの。その隙を突かれた者が、魔に堕ちたのね。そして後に、その者が魔物を率いた。」


「では、あの魔物の王は、元異能者…。」


「そうね。精霊王の息子だったそうよ。名前までは分からないわ。」



精霊。

自然と共に生きていた精霊族は、誕生した魔物の王によって、真っ先に滅ぼされてしまったのだそうだ。



魔物の王に体を乗っ取られた彼は、その手で自分の種族を手に掛けてしまったのね。


救いのない悲しい話に、私の気分も落ちていく。そんな私の手を、ヴェイル様がギュッと両手で握り直した。



「不安か?」

私を見つめるヴェイル様は、眉を下げ、心配そうな表情をしていた。



怖い…。

私は、魔物の王に、食べられてしまうのだろうか。

あんな深い闇に、私は全てを奪われるのだろうか。

そう思うと、カタカタと体が勝手に震え出す。


死にたくない。

まだ、この命を諦めたくない。


私は、真っ直ぐにヴェイル様を見返した。



「怖いです。でも、死にたくありません。あんな存在の糧になんてなりたくありません。私は、どうしたらいいですか?どう戦えばいいですか?」


「ステラ…。」

ヴェイル様の黄金の目が、驚きに見開かれる。その後、嬉しそうに細まっていった。



「ああ、そうか。そうだな。貴女は強い人だったな…。」

ヴェイル様は、ゆっくりと私の両手を持ち上げると、その指先に軽く口付けた。



「どうか、ステラに神の祝福を。」

ヴェイル様が、そう口にした時、窓から心地良い風が入ってきた。



「どうやら、神も答えてくれたみたいね。ステラ、この戦いは、貴女の強い意志が必要なの。生きたいと願った貴女の想いがね。だから、どんな事をしても生きてもらうわよ!」


「はい、姫様。」


「アイツには、この時代に目覚めた事を、後悔しながら滅んでもらいましょうね。」


姫様は、その美しい顔を、ここ一番悪い顔に歪めて笑った。














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