表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/162

3-8

「あれが、魔物の王…?ひ、人でしたよ?会話も出来ました…。」


「ええ、そうね。でも、間違いなく、あれが魔物の王。」


魔物は、意思疎通の出来ない、獣の形をした化け物だけだと思っていた。

人型なんてありえないと。


私が驚きのあまり声を失っていると、ヴェイル様の背が、私を庇うように割り込んできた。



「巫女殿、今はここを離れるべきだ。」


「そうね。気持ちが急いていたようだわ。ここは神官に任せて、私達は安全な神殿に戻りましょう。」

姫様は、神官に一言声を掛けると、来た道を引き返していく。

私が、その後を追おうとした時、すぐ前にヴェイル様の手が差し出された。



「ステラ、俺に触れられるのが嫌じゃなければ、支えさせてくれ。」

ヴェイル様は、私から視線を逸らしながら告げる。その横顔は、どこか寂しそうに見えた。


私は、そんなヴェイル様の手に、そっと手を重ねる。その瞬間、ヴェイル様が勢いよく顔をこちらに向けた。

お互いの瞳が合わさると、ヴェイル様の目に喜色が宿る。それに釣られて、私の顔にほんのり笑みが乗った。



「ステラ…。」


「ヴェイル様…。」


お互いに思わず呟いた名前が、混じり合う。けれど、二人揃って、その先の言葉が続かない。

すると、少し先から姫様が私達を呼んだ。



「戻ろう、ステラ。」


「はい。」

ギュッと握り返してくれたヴェイル様の手に、私も少しだけ力を入れて、木々が生い茂る道を歩いていった。






神殿の簡素な応接間に通された私は、ヴェイル様にエスコートされたまま、彼の隣に腰を下ろした。

だって、ヴェイル様が、私の手を握ったまま離してくれなかったのだ。

そんな情けない言い訳を心の中でしながら、姫様の呆れたような視線を受け止める。すると、大きな手が私の頭を撫で始めた。



「大丈夫か?話は、少し休んでからでもいいんだぞ?」


「いえ、本当に大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」

ヴェイル様の優しい手つきに、私の頬が緩む。その頬にも、ヴェイル様の指先が触れ出した。



「コホン!」

そこへ、可愛らしい咳が切り込む。

私は、慌てて姫様に向かって姿勢を正した。



「邪魔をしないで欲しいのだが…。」


「邪魔ですって?この場合、邪魔なのは殿下かと。」

ヴェイル様と姫様は、殺気が籠った睨み合いを続けている。



このお二人は、どうしてこんなにも喧嘩腰なのかしら?


私がオロオロしていると、先に姫様が大きな溜息を吐き出した。



「これじゃあ、話が進まないわね。仕方ない。ステラ、貴女はそのまま、殿下にくっついてなさい。それなら、殿下も大人しくしているでしょう。」

姫様は、投げやりにヴェイル様を見た後、後ろに控えていた神官から、一冊の古びた書物を受け取った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ