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ヴェイル様の剣が、呆気なく青年の体を貫く。けれど、ダメージを負っていないのか、青年は笑い続けていた。
すると、その体の輪郭が薄らと透け始めた。
「ああ、残念。久しぶりに愉快に遊んでいたというのに。まあ、いい。我の目覚めは、もうすぐだ。我が、直々に会いに行くその日まで、震えながら待っていろ。」
「待て！」
ヴェイル様が、再び剣を構えるものの、私達の合間を吹き抜けた風が、青年の姿を影に溶かしてしまった。辺りには、青年がいた痕跡は何も残っていない。
「チッ、思念体だったか…。クソッ！」
ヴェイル様は、地面に剣を突き刺すと、私から離れ、先程の青年が消えた方向へ歩き出した。
そんなヴェイル様に向かって、怒鳴り声が飛ぶ。
「何処へ行くつもりです！貴方が守るべき者を置いて。まったく、これだから脳筋野郎は…。」
抜き身の剣を持った姫様が、ヴェイル様を睨みながら、こちらに駆けてきた。
「ステラ！大丈夫？まさか、アイツが思念体で、貴女に会いに来るなんて…。私としたことが、警戒を怠ったわ。」
「姫様、あの男性は、いったい何者なんですか？彼のあの瞳からは、魔物のような底知れない闇を感じました。」
青年の悪意ある言葉を思い出して、私の体が再び震え出す。
そこへ、体温の残った上着が掛けられた。
「ステラ、大丈夫か！？やはり、ヤツに何かされたのか！？」
「はあ、落ち着いて下さいな、ヴェイル殿下。」
「しかし、巫女殿！ステラは、襲われたんだぞ！？魔力を奪われていたらどうする！今すぐ、医官を！」
「だから、落ち着け！このヘタレ！」
私に迫るヴェイル様に、姫様が強烈な一撃を加えた。
鞘で頭を殴られたヴェイル様は、青筋を立てて頭を押さえている。
「ヴェイル様！大丈夫ですか！？」
私は、慌ててヴェイル様の顔を下から覗き込む。それと同時に、私の体は、無意識にも彼の頭に手を伸ばしていた。
「大丈夫だ、ステラ。この程度、何ともない。それよりも、ステラは大丈夫か？」
「え？あ、はい。大丈夫です。急に怖くなってしまっただけです。心配をお掛けしました。」
「そうか、良かった…。」
小さく呟いたヴェイル様は、私の手から逃れるように、そっと距離を取った。
その距離が絶望的な溝に思えて、私の目に涙の幕が張る。私だって、ヴェイル様を拒絶したのに。
「まったく、貴方達ってどっちもどっちなのね。見ていてイライラするわ！」
姫様は、近くに来た神官に持っていた剣を渡すと、私に向き直った。
そして、真剣な表情で語り出した。
「ステラ、さっきのあの男が、魔物の王よ。どうやらアイツは、体から思念だけを飛ばして貴女に会いに来たみたいね。」
姫様の言葉に、私は驚きを隠せなかった。
