表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/162

2-27

エントランスの扉の外には、邸を包囲するように沢山の獣人騎士が待機していた。

そこに漂う緊張感に、私の体が強張る。

そんな中を、私を抱えたヴェイル様は、無言で歩いていく。

騎士達の視線を浴びながら、綺麗に舗装された道を進むと、噴水の前に停められた一台の黒塗りの馬車が目に入った。



「団長!バレリー殿!ああ、よくご無事で!」

馬車の前にいたメルデン様が、慌ててこちらに駆け寄ってきた。



「メルデン、ステラを早く休ませてやりたい。王宮まで御者を頼む。」


「ハッ!」

キリッと敬礼したメルデン様が、踵を返して馬車へ戻っていく。その後を、ヴェイル様はゆっくり追っていった。




騎士団専用の馬車は、作りは無骨ながらも、中は広く、座り心地も良い。けれど、ヴェイル様と二人っきりの空間は、沈黙が重くて居心地が良いとは言えなかった。

私は、視線を床に下げて、ただ時間が過ぎるのを待った。



「ステラ。」

名前を呼ばれて、私は恐る恐る顔を上げる。

上げた先にあった黄金の瞳は、緊張しているのか、揺らめいているように見えた。



「怪我はないか?体調は?魔力はどうなっている?」


「怪我はありません。魔力も大丈夫です。」


「本当か?しかし、心配だから俺の魔力を渡しておこう。」


「今は大丈夫です。魔力は必要ありません。」


ヴェイル様から伸ばされた手を、私はやんわり押し留めて、首を横に振る。

私の拒絶に驚いたのか、ヴェイル様は、伸ばした手をそのままに、私の顔を凝視していた。



「…ステラ、すまない。今回の事は、俺の認識の甘さが原因だった。貴女を危険な目に合わせてしまった。辛い思いをさせてしまった。守ってやれなくて、本当にすまない。不甲斐ない俺を赦さなくていい。でも、お願いだ…。俺を拒まないでくれ。」


そう言って頭を下げたヴェイル様の声は、酷く掠れていた。

私は、思わず伸ばしそうになった手を握りしめて、目の前に座るヴェイル様に答える。



「ヴェイル様は、私を助けてくださいました。お陰で、今、私はこうして生きています。ありがとうございました。」

私も感謝を伝えるべく、深く頭を下げる。

その頭上で、息を呑む気配がした。



「…俺を、恨んでいるか?今更、貴女を番だと認めた俺を。」


「いいえ、恨んでいません。そして、これからも恨みません。」

顔を上げないまま、私は平坦な声で、自分の想いを返した。

そんな私に、ヴェイル様は、そうかと悲しみが籠った一言を呟いた。


ヴェイル様を悲しませているという罪悪感で、私の胸が潰れそうなほど痛む。

けれど、私は、その感情に頑丈な蓋をした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ