*ヴェイル視点 23
「やめて、やめて、やめて!そんなゴミに触れないで!ヴェイル様!」
俺の殺気が飛散して動けるようになったキャロラインが、俺の腕に縋り付いてきた。それを、俺は強めに振り払う。
「なぜ、俺がお前に指図されなければならない?ステラに免じて、この場での処刑は赦してやるが、お前の罪は消えない。大人しくしていろ。」
「い、や。絶対嫌!わたくしは、この国で一番高貴な女性なの!そんなゴミに、わたくしの場所を取られるなんて冗談じゃないわ!殺してやる。そのゴミを殺して、ヴェイル殿下の目を覚させてあげるわ!」
床を踏み締めたキャロラインは、髪を逆立てて牙を剥き出す。そして、その姿を少しずつ獣へと変じていった。
獣人族は、その血の中に、獣の血を色濃く持つ種族だ。獣耳や尾、角や鱗といった体の一部に出る特徴は、その獣の血が表面に現れたものだった。
そんな獣人族の中には、更にその血を引き出すことの出来る者がいた。血のリミッターを感情によって外すことで、爆発的に自分を獣へと戻すのだ。しかし、自分の持つ獣の血を何より誇りに思っている獣人族でさえ、その行為を忌避している。理性を持って生まれた自分を獣へ落とす行為だからと。
目の前で始まったキャロラインの変化は、ジャコウネコと人の姿が、丁度半分ほど不自然に混ざり合ったところで止まった。
今のキャロラインは、鼻が突き出し、長いヒゲや体毛が生え、唇からは牙が飛び出した醜悪な姿をしている。長い黒髪も、一部の黒を残し、茶色に変色していた。
「醜いな、その姿も、中身も。」
「ガアァーー!」
キャロラインは、父親の制止を振り切り、一気に飛びかかってきた。瞳孔が開いたその目には、ステラしか写っていない。
俺はステラを庇いながら、キャロラインの腕を掴み上げた。そして、力一杯壁まで蹴り飛ばす。その上、二度とステラに近付けないよう、倒れ込んだキャロラインの体を、炎の檻で拘束した。
「ああ、キャロライン!殿下、もう、おやめ下さい!」
気を失っているキャロラインの前に、ウィルソンが立ち塞がった。
「お前の娘は、俺の宝に牙を向けた。その罪は重い。覚悟しろ!」
「た、宝?その人間が?」
「ああ。」
その言葉を聞いて硬直したステラの体を、俺の胸に強く押し付ける。そして、彼女の背中を優しく撫でた。
「殿下!それはいけません!ただの人間を、愛妾にでも迎えるつもりですか!?」
「そんなこと受け入れる貴族はいません!お考え直しを!」
「殿下、我ら一族はどんなことがあっても反対いたします!」
俺の殺気に腰を抜かしていた貴族達が、ここぞとばかりに反論してくる。
その騒がしい声の中、意識を取り戻したキャロラインが、炎の中でゆっくり立ち上がった。




