2-10
「はいはい、照れてないで始めますよ。ステラも、治療の一環だよ。私から受けてる診察と同じでしょ?」
ゼイン先生が私の胸元に手を伸ばした瞬間、空気が凍りついた。
私の目の前では、ヴェイル様がゼイン先生を睨みつけている。
「殿下、私に嫉妬しないで下さい。さあ、ステラは準備が出来たらベッドへ。ほら、殿下は目隠しを!」
そう言われて、私は大きなベッドに近付く。
心臓が口から出そう。
いつもの診察なら、こんなに緊張しないのに。
表情の変化に乏しいはずの私の顔が、真っ赤に染まっていく。
それでも言われた通り胸元のボタンを緩めて、ベッドに座っていると、目隠しをしたヴェイル様が危なげなく近寄ってきた。
もしかして、見えてる?
「ステラ、大丈夫か?その、俺が触れても...。」
「あ、はい!ご、ご迷惑をおかけします!」
私は、前が見えていないはずのヴェイル様に頭を下げた。
「そんなに緊張するな。見えていないから恥ずかしがらなくていい。」
「あ、はい。」
本当に見えてない?
「ああ、そうか...。俺は獣性が強いから視界が奪われても、嗅覚と聴覚だけで空間把握は出来るんだ。」
なるほど。それで、目隠ししてても真っ直ぐ歩いていたのね。
ホッとしていると、ヴェイル様に頬を撫でられた。
「気分が悪くなったら、我慢せずに言うんだぞ。」
「はい。」
少し緊張が解けた私は、ゆっくりベッドに寝転んだ。すると、私の胸元に大きな手が乗せられる。
きっと、私の早い心音は、ヴェイル様に伝わっているんだろうな。
そう思うと恥ずかしくて、「うっぁっ」っと、小さな呻き声をもらしてしまった。
「だ、だ、大丈夫か、ステラ!?」
「は、はい、大丈夫、ですぅー。」
顔から蒸気が出そうで、私は自分の顔を両手で覆った。
「はい。始めますよ!ステラも殿下も、これから毎日やるんだから慣れましょうねー!ステラ、眠くなっちゃったら、そのまま寝ちゃっていいからね!」
「は、い。」
「じゃあ、殿下、始めて下さい。」
「分かった。集中したいから、ゼイン医官は少し下がっていてくれ。」
ひょっこり顔を出したゼイン様に対して、ヴェイル様が不機嫌な態度を取る。でも、空いている手で、私の左手を優しく握ってくれた。
「ステラ。」
少し掠れた声で名前を呼ばれた直後、心臓の上に置かれた手から、温かい魔力が流れ込んできた。
自分の血液よりも熱い魔力が、心臓の中に集まって滞留している。
苦しい。
でも、気持ち良い。
不思議な感覚に包まれていると、突然、私の意識がブツリと切れた。
 




