表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/162

2-7

慌てる二人の静止を無視して、私は服の前側を大きく開く。そして、クルリと後ろを向いて、剥き出しの背中を見せた。


誰も一言も発しない。物音一つしない。

でも、私には、二人の戸惑う様子がありありと感じられた。



二人の顔が見られなくて良かった。

悍ましいものを見るような、そんな表情を向けられるのは辛いから。

私は、なるべく声を震わせないように、ゆっくり話し出した。



「...これは、奴隷だった時に受けた傷です。治りきらなかった傷が成長と共に、皮膚を割いてしまったのです。酷く醜いでしょう?」



はだけた服から覗く私の腕や背中には、鉱石がヒビ割れたような赤い傷痕が広がっている。青白い肌を割り裂く傷は、魔物の鱗のようにも見え、醜く不気味だった。しかも、刺し傷や切り傷、火傷の痕まで残っていて、とてもじゃないが、人に見せられるようなものではない。


私が、ドレスどころか半袖も着れない理由がこれだ。



「この傷は、体中に広がっていて、肌の露出の多い夜会用のドレスでは、どうしても隠しきれません。たとえ、無理矢理覆い隠したとしても、レースのような薄い布地では、赤みの強い傷は誤魔化せないのです。こんな体ですから、ドレスを着て、夜会に参加することは出来ませんでした。でも、あの美しいドレスをこのまま無かった事にしたくなくて、私の独断で、同僚の侍女に着てもらいました。相談もせずに、申し訳ありません。」

私は、背中を向けたまま、ヴェイル殿下に頭を下げた。

暫く頭を下げていたけど、相変わらず二人からの反応はない。

緊張と羞恥と後悔と悲しみと、そして怒り、私の心の奥底に押し込んでいた感情が、段々と複雑に絡み合って漏れてくる。



この傷痕は、とっくに諦めていたのに。

ゼイン先生には、傷痕は消せないと言われていたから。だから私の中では、もう折り合いがついていたのだ。


でも、怯んだまま、他の反応を示さないヴェイル殿下とニルセン様の様子に、私の心は抉られる。

これなら、気持ち悪いとか、こんな醜いもの見せるなとか、はっきり言ってもらった方が良かった。


私は、胸元で握り込んでいた手に、更に力を入れた。






「何やってるんですか!」


大きな声が聞こえ、私の肩にフワリと熱が乗る。


騎士服?


突然、私の肩に掛けられたのは、体温が残る騎士服の上着だった。私は、その服に視線を落とした後、ゆっくり振り返る。

すると、呆然としているヴェイル殿下とニルセン様に、メルデン様が食って掛かっていた。



「女性の肌を不躾に見つめるなど、騎士のする事ではありません!団長、しっかりして下さい!お前もだぞ、ニルセン!」


「あ、いや...、メルデン、これは、その...。団長も、大丈夫ですか?」

我に返ったニルセン様も、ヴェイル殿下を気にして声を掛ける。それでも、殿下は、ただ真っ直ぐ私を見ていた。



「さあ、あの二人は放っておいて、行きましょう、バレリー殿。」


私は、ヴェイル殿下の視線から逃れるように、メルデン様に従って控え室から出た。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ