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*ヴェイル視点 10

「正に今更だな。」


頭を下げ続けている俺に、アデライード陛下から厳しい一言が掛けられる。



「はい。それは重々承知しています。ですが、俺は諦めません。」

俺は、腰掛けていた椅子から降りて、直接床に跪く。そして、更に深く頭を下げた。



「頭を上げてくれ。貴方の兄の心情も省みなさい。」


アデライード陛下の言葉に、兄上が息を呑む微かな音が聞こえた。

それでも、俺は頭を上げる事は出来なかった。アデライード陛下の許可を得るまでは。


再び、息苦しい沈黙が部屋を包む。




「はあ、分かった。協力しよう。先見の力を持つ我が娘に、ステラを会議に連れて行けと言われた時から嫌な予感はしていたんだ。」


顔を上げた俺と目が合ったアデライード陛下が、大きな溜息を吐き出した。




先見の力か。

サージェントの末の姫が、先見の巫女として神に支えていたな。

俺がステラと会えたのは、やはり神の意志だったか...。



「だが、私がするのは助力だけだ。ステラが殿下を受け入れられないのなら、帰国させる。宜しいな?」


「はい。」


「ステラの...、あの子の幼少期は、決して幸せなものではなかった。それは、殿下の罪であり、我が王家の罪でもある...。」

暫しの沈黙の後、アデライード陛下は、下を向いたまま静かに語り始めた。



「ステラは、魔力無しと蔑まれ、実の両親によって奴隷に落とされた。その時に負った障害が、今もあの子を蝕んでいる。」


「魔力欠如症の彼女が、魔法を使えたのは、その障害のせいなのですか?」


「この話は、私からはしない。ステラが、自分で殿下に打ち明けるまでは。心せよ、ヴェイル殿下。辛い日々を経験したステラは、自分には価値がないと思い込んでいる。貴方を受け入れる可能性は低い。」


「はい。心得ております。」




俺がステラと過ごした時間は少ない。その中でも感じた彼女の劣等感。仕方がないのだと、自分が悪いのだと、理不尽な事柄を、全て受け入れていた彼女を、俺は、まず変えなければならない。そして、ステラからの信頼を勝ち得、彼女が抱える底なし沼のような秘密から、彼女自身を救い出さねばならないのだ。



「可能性は低くとも、約束だからな。時間と機会は作ろう。兄たるサウザリンド王も協力してくれるだろうしな。橋渡し役は、お前に任せる、ゼイン。」


「はい。」


扉前に控えていたゼイン医官に、俺は頭を下げる。



「迷惑を掛ける、ゼイン医官。」


「可愛いステラのためですから。ではまず、殿下には、彼女へ魔力を提供するところから始めてもらいましょう。」


「ああ、ステラになら、いくらでも。」


彼女になら、この命ごと渡しても構わない。

それで、俺の罪が償えるなら。

彼女の心の傷が、少しでも癒えるなら。



「ヴェイル、もう間違えるなよ。」

最後にそう呟いた兄上に、俺は力強く頷き返した。







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