表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/162

*ヴェイル視点 9

野営地へ急ぐ中、抱え込んだステラの体は、苦しそうに小刻みに震えていた。そのまま彼女の呼吸が止まってしまいそうで、俺の足は何度も、恐怖に竦みそうになった。それでも、俺は一直線に森の中を駆け抜けた。その時の俺には、それしかステラにしてやれる事がなかったのだ。


そうして、野営地に辿り着いた俺は、すぐにゼイン医官に助けを求めた。ゼイン医官の治療は適切で、暫くするとステラの顔には血の気が戻った。


もう問題ない。

いずれ目を覚ます。

ステラの身を王宮へ移した後、医官には、何度もそう言われた。

しかし、俺はこの小さな手を、いつまでも離すことは出来なかった。



ステラ、ステラ、ステラ…。

早く目を開けてくれ。

どうか、俺を見て…。



「愛しているんだ。」


そう言葉にしたら、もうダメだった。

健気で、可愛くて、頑張り屋で、それでいて強い意志を持っている彼女に、とっくに落とされていた自分を自覚してしまった。

神の運命になど負けないと、あれだけ息巻いて生きてきたというのに。

俺も所詮は父上と同じ、神の手の上で踊っていたに過ぎなかったのだ。

神から見た俺は、さぞ滑稽だっただろうな。


でも、もう、それでいいか...。

俺は、番を、ステラを愛してしまったのだから。


でも、ステラはサージェントの女性だ。

近い内に、国へ帰る。

どうすればいい?

どうすれば、彼女を手元に置いておける?

どうすれば...。



兄上に頭を下げて、頼むしかないだろうな。

アデライード陛下にも、正直に全てを話そう。

もう俺のプライドなど、どうでもいい。

ステラが俺の側にいてくれるなら、何でもしよう。今まで苦労させてしまった分、全力で彼女を甘やかそう。


空の切れ目から見えた日の光のように、濁っていた俺の心が、晴れていくのを感じた。






目を覚ましたステラは、まだ意識が混濁しているのか、頭を撫でる俺の手に、頬を擦り寄せて甘えていた。その可愛らしい姿に、俺の心と体が安堵と喜悦で満たされていく。気付くと俺は、ずっと彼女の頭に手を当てていた。

ステラの意識がはっきりした後は、彼女の負担にならない程度に話をした。結局は大泣きさせてしまったが。


仕事に戻ろうとしたステラを押し留め、名残惜しみつつも彼女をゼイン医官に任せると、僅かな時間で診察を終えた医官が部屋から出てきた。



「ゼイン医官、ステラは?」


「今、また眠りました。体は完治しておりますが、体力の消耗が激しい。このまま暫く休ませておいた方がいいでしょう。」


「そうか...。」


「殿下、ここは、私の部下にお任せ下さい。アデライード陛下が、殿下にお話があるそうです。」

ステラの下へ行こうとした俺を、ゼイン医官が止める。

俺は、ステラが眠る部屋の扉を見た後、仕方なく医官に従った。





ゼイン医官に続いて向かった先は、サウザリンド王の執務室だった。

その部屋では、兄上と、通信機によって映し出されたアデライード陛下、二人の大国の王が、俺を待ち構えていた。



「ヴェイル、座れ。」


「はい、兄上。」

俺は迷う事なく、アデライード陛下の正面の位置に座った。



「ヴェイル殿下、竜の討伐、見事でした。世界は貴方のお陰で救われた。サージェント王国を代表してお礼を。」

アデライード陛下が、右手を胸に当てて頭を下げた。

それは、騎士の礼。

騎士団を率いるアデライード陛下らしい感謝の表し方だった。



「竜を止めたのは、ステラです。その謝辞は、ぜひ彼女に。」


「そうか。そう言われては、ステラを怒れないな。あの子にも、しっかり褒美を与えよう。」


「ぜひ。」


欲のない彼女の事だ。

きっと目を丸くして、慌てて辞退するのだろう。

フッとステラの可愛らしい顔が浮かんで、俺の頬が緩む。




「それで?殿下は、私に何か言う事があるのでは?」

和やかだった空気がガラリと変わり、押し潰されそうなほどの重圧が襲い来る。

俺は、覚悟を決めて話し始めた。



「陛下の侍女、ステラ・バレリーは、俺の番です。俺は十八年間、番を迎えることはしませんでした。それが、彼女の存在を否定する事に繋がると分かっていても。俺は、自分のプライドを優先しました。しかし、俺は、彼女の優しさと強さに惹かれ、脆さを愛おしいと思いました。陛下からすれば、今更とお思いでしょう。ですが、俺は、ステラと生きる未来を望みたい。どうか、どうか!彼女に俺の想いを打ち明ける許可を頂きたい!」


俺は、アデライード陛下と兄上に頭を下げる。

重い沈黙が、俺の背にのし掛かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ