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ヴェイル殿下は、どうして何も聞かなかったのかしら?

魔力無しの私が、魔法を使えた理由を。

それを聞くために、この部屋で私が目覚めるのを待っていたのではないの?



『ありがとう、ステラ。』


それなのに、ヴェイル殿下は私に、嬉しい言葉をくれた。



「はあ。」

優しいヴェイル殿下は、どうも心臓に悪い。

殿下にステラと呼ばれると、胸が擽ったいのだ。



あれ?

何で、私の心臓はこんなにも温かいのだろう。

初めて魔法を使った日、『アレ』の中の魔力を大量に失ったせいで、私の胸は氷のように冷たくなった。何日も体を動かせない日が続いたのだ。

でも、今は『アレ』の中が満タンに近いほど満たされている。


私は、熱く拍動する自分の胸に手を当てた。



奴隷だった二年間、その時間の中で、私の中に生まれた『アレ』。それは、魔力を生み出せない魔力無しの私には、本来ないはずの『魔力貯蔵器官』だった。

その器官が出来て以来、私の体は、常に魔力を必要とするようになってしまった。

魔力貯蔵器官を一定量の魔力で満たしていないと、私の体は機能しないのだ。

しかも厄介な事に、その量は決して少ない量ではなかった。



こんなに大量の魔力を、寝ていた私は、いったい誰に貰ったの?


困惑している私の耳に、ノックの音が届く。

私が返事をするのとほぼ同時に、大きな鞄を抱えたゼイン先生が、部屋へ入って来た。



「良かった。目が覚めたんだね。大丈夫かい?ステラが魔法を使ったって聞いて驚いたよ。アデライード陛下との約束を破っちゃったね。」


「はい。すみません、先生。」


「まあ、ステラだからね。こんな日が来るのは、分かっていたよ。さあ、ちょっと診てみようか。」

ゼイン先生が、私の手首と首元に触れる。



「うん、大丈夫。問題なしだ。傷も残ってない。」


「あの、ゼイン先生、私、魔法を使った時、思わず沢山の魔力を消費してしまったんです。それなのに、今はすごく満たされていて…。今回、私に魔力を提供してくれた方は、大丈夫なんでしょうか?一度にこれだけ大量の魔力を失ってしまって、気分を悪くされたりしていませんでしたか?」


「ああ、大丈夫。それ、殿下だから。」



え?



「今回の魔力提供者には、ヴェイル殿下が立候補してくれたんだ。殿下が高魔力保持者で助かったよ。」


「あ、え?でも、あの...。」


「君の体の事は、話していないよ。それは、アデライード陛下の許可が必要な機密事項だからね。」



そうなのだ。

私の過去も、この体の事情も、他人に知られてはならない。

それをよく分かっていたのに...。

それなのに、私は魔法を使ってしまった。


浮かれていた気持ちが、一気に冷めていく。



「大丈夫だよ、ステラ。きっと悪いようにはならないから。でも、今日一日は、しっかり休みなさい。仕事はなしだよ。分かったね?」

ゼイン先生は、返事も聞かずに、私の体を上掛けの中に押し込んだ。



「おやすみ、ステラ。いい夢を。」

ゼイン先生の手から流れてくる魔力が、私を深い眠りに誘った。






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