表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/162

1-2

「...テラ、...ステラ!大丈夫?顔色が真っ青よ?」


「ごめんね。起こしちゃった?」


「私の事はいいの!ああ、体まで冷え切ってるじゃない。」

そう言って同僚のアンナが、ぼうっと鏡の前に佇んでいた私にカーディガンを掛けてくれた。



使用人寮のルームメイトであるアンナは、私と同じく、この城で侍女をしている。2つ年上の彼女は、私にとって頼れるお姉さん的な存在。




「私、今日は早番だから、もう行くわね。ステラ、あんまり無理しちゃ駄目よ。分かった?」


「うん。分かった。気を付ける。」

アンナが部屋を出て行くと、私も仕事の準備を始めた。






12歳で王城の主に引き取られた私は、今年で18歳の成人を迎えた。

元奴隷の私が、今や一国の王の侍女。

つくづく運命とは、分からないものだ。



鏡の前で、私は赤い髪を一つに纏める。そこに王専属の侍女服を着れば、いつも通りの自分の完成だ。

紺色の飾り気のない侍女服に、表情の乏しい地味な私。

どこにいても埋もれてしまう自分に、私は安堵と、そして落胆の溜息を漏らした。



ダメね。

気持ちを切り替えなきゃ。

さあ、今日も仕事仕事!



私は、アンナが淹れてくれたココアを一気に飲み干した。









「おはようございます、アデライード様。」


「おはよう、ステラ。お前は今日も早いな。」


背筋を伸ばして一際豪華な扉を開くと、私の主人、サージェント王国女王アデライード様が、本日も麗しい姿で執務を行っていた。


アデライード様は、普段から彼女専用の軍服を着用している。その凛々しい姿に違わず、有事の際は、主人自ら剣を振るうこともあった。

黄金の長い髪を靡かせ、舞う様に剣を振るう主人は、大柄な騎士達の中にいても一際輝く。


アデライード様の美しさは、正に別格なのだ。

その手に剣を持っても、花を持っても美しい。既に四十歳を越えているにもかかわらず、その姿は私を助けてくれた六年前からちっとも変わっていない。



そんな主人は、誰よりも尊敬できる私の大切な人。





「陛下、こちらは本日の会議に出席する貴族のリストでございます。」


「ああ、ありがとう。前回、このリストには助けられた。ステラ、何度も言うが、私の秘書官になる気はないか?」


「陛下、有難いお話ですが、元奴隷の私にはあまりにも分不相応でございます。」


主人からは、文官への昇格を推薦されていた。でも、今以上の役職は、私には無理。

私は目立たず主人の役に立てれば、それでいい。




「まったく、欲のない。お前の働きは、皆が認めているのだぞ?やっかみなら、私が対処してやる。」



何の後ろ盾もない私が、アデライード様の専属侍女であることを良く思わない人もいた。酷い嫌がらせを受けたこともある。

けれど、終始頭を低くして過ごし、目立たない存在であり続けた結果、結婚相手を探す令嬢や出世欲のある令息からは、私は認識されなくなった。


これでいい。

これが私の正しい立ち位置なのだから。





「まあいいか。今はな。そう言えば、ステラ。医局長がお前を呼んでいたぞ。」


「あ、はい。後で一度、顔を出します。」


「最近体調は大丈夫なのか?」


「はい、おかげさまで。」


「そうか、あまり無理をするなよ。」


「はい、ありがとうございます。」



誰かに心配してもらえることが嬉しい。

それが大好きな人からだからこそ、とても幸せ。


温かな感情が詰まった胸を押さえて、私は仕事に集中した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ