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*ヴェイル視点 1

これが、神の強制力なのだろうか。


ずっと避けてきた番が、今、触れられる距離にいる。手を伸ばせば、この腕の中に捕えられるのだ。


初めて番の姿を目にした時、俺は「彼女」の大きな翡翠の瞳と薔薇のような赤い髪から目が離せなくなった。



あの瞳に俺だけを写したい。

結われた髪を解いて、風に揺れる様が見たい。

彼女の小さな体を抱きしめたい。

笑顔が見たい。

俺だけを愛して...。



その時から俺の中で、抑えきれない程の歓喜と渇望が生まれた。



でも、だめだ!

俺に、番は必要ない!

堕落した本能など、不要。

思い出せ!この感情は呪いなのだ!



湧き出る欲を振り切って、俺は脳裏に浮かぶ番の姿を消し去る。



ああ、苦しい。

胸を掻きむしりたくなる程に。


相反する感情を持った理性と本能が、俺の胸を焦がし続けていた。









朝から俺の執務室には、凍りつくような緊張感が漂っていた。

目の前に座る兄、サウザリンド王ガイルは、鋭い眼光で俺を睨みつけている。

俺達に挟まれた机の上には、サージェント王国側から届いた抗議文と辞表が置かれていた。



兄上が怒るのも当然だな。

王族の俺が、己の感情を優先して、同盟国との関係を疎かにしたのだから。



「申し訳ありません、兄上。俺が管理していた部内で、サージェント王国から派遣された女性が、不当な扱いを受けていました。俺の管理不行き届きです。もう一度、アデライード陛下に謝罪して参ります。」


部下に調べさせたところ、アデライード陛下は、随分と彼女を大切にしているようだった。それは、アデライード陛下直筆の抗議文からも、ひしひしと伝わってくる。

このままサージェント王国との関係にヒビが入れば、兄上に、この国に、多大な迷惑をかける事になるだろう。

俺は、どうすれば...。



「問題は、それだけではないだろう?」

いつもとどこか違う兄上の声色に、俺は下げていた視線を上げた。



「サージェントの侍女を前にしたお前の態度は、明らかにおかしかった。そして今も尚、お前は何かに苦しんでいる。ヴェイル、正直に話せ。あの侍女は...、お前の...、番、なのではないか?」


兄上の問いかけに、俺は言葉を詰まらせる。口からは、声にならない息だけが漏れていた。



「...やはり、そうなのか...。ヴェイル!なぜだ!つい最近も、お前の番はまだ生まれていないと、気配は感じられないと言っていただろう!」


兄上の叱責を受けながら、俺は奥歯を噛み締め、在りし日の父上の姿を思い出す。己の番に振り回され続けた愚かな父上の姿を。





先代のサウザリンド王である父上は、俺と同じ異能者だ。その重圧に押し潰されそうになっていた俺にとって、魔物の脅威から民を守り、国の発展に力を注いできた父上の姿は、憧れであり、目標だった。


そんな父上を、母上は裏切った。

異能者にとって、番は唯一無二の存在だというのに。

番に逃げられた父上は、日に日に堕落していった。誰からも尊敬され、威厳に満ちていた父上の姿はもうどこにもない。


俺は、無様な父上に失望した。

それと同時に、俺の中から番への憧れは無くなっていった。

嫌悪や憎悪の対象に変わったと言ってもいい。



だから俺は、自分の番に会いに行かなかった。

番の気配はまだないと周囲を騙し、番を避けてきた。


そうだ。

俺は十八年もの間、番の存在を無視し続けてきたのだ。





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