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母の現在を見せてくれた不思議な映像を映す板は、私が道を進むたびに、新たなものが用意されていた。
それは、私と過去に関わりを持った人達の現在を表すものだった。
それで一つ、分かった事がある。
私が生まれた辺境の町は、随分と昔に魔物に襲われて廃墟となっていた。板に映った町は、森の植物に侵食されていたのだ。外部との接触が少ない街だったため、救援が間に合わなかったのだろう。復興も出来ず、生き延びた町民達も散り散りになってしまったらしい。
その中に映った人身売買を斡旋していた村長と父の酷く落ちぶれた姿は、因果応報のように思えた。
故郷が消えた今、この人達とは、もう二度と会うことはないのね。
そう思うと、私は、自分の過去に関わった人達に然程、感心がない事に気付いた。
母の懺悔も父の転落も、私の気持ちは動かない。本当にどうでも良かったのだ。幼い頃は、あれだけ両親の愛を欲していたのに。
私の中で、両親はとっくに他人になっていたのね。
悲しいとか嬉しいとか、憎いという感情すら湧かない。
ただ、父も母も私の事は忘れて幸せに生きてほしいと思った。
彼らの幸せを願えた私は、やっと過去と向き合い、『フローラ』だった自分と決別出来たのだろう。
「私は、もう、ステラなの。私は愛する人達と生きていくわ。さよなら、お父さん、お母さん」
その時、今まで感じなかった不安が私を襲った。
どうして、私はこんな所で一人でいるの?
どうやったら帰れるの?
私の帰る場所は…
彼の側。
ヴェイル様の隣だ。
帰りたい。
今すぐ、ヴェイル様に会いたい。
彼に、ステラと名前を呼ばれたい。
彼に、抱き締められたい。
一度、ヴェイル様を想ったら、私は居ても立っても居られなくなってしまった。
彼の下に帰りたい一心で、真っ直ぐ続く道をひらすらに走る。
どこに行けばいいのか分からないのに。
でも、体がこちらだと示すのだ。
走り続けていると、空から雨が降ってきた。ずぶ濡れになった体からどんどん体温が奪われていき、重くなった足が止まりかける。
その時、また声が聞こえた。
今度は謝罪の声ではなく、私を呼ぶ声。
「ステラ、ステラ、ステラ…。どうか俺を置いていかないでくれ」
「ヴェイル様!私、必ず帰ります!貴女の下に!だから、待っていて!」
私は、どこからか聞こえるヴェイル様の声に向かって声を張り上げた。そして再び、足を動かす。
すると、胸にポッと熱が灯った。温かいヴェイル様の魔力が。
薄暗い灰色の世界の下で、私の胸元に淡い光が宿る。覗き込んだそこには、黄金に輝く大輪の花が咲き誇っていた。
その光が、私の胸から離れ、空気に散っていく。そして、私に進むべき道を指し示した。
消えそうなほど微かな光を頼りに、私は、たった一人で、終わりが見えない道を進んだ。




