3-36
私は、幼い私の姿をしたミシャに抱き付いた。
けれど、やっぱり何も感じない。あるのは、人形を抱いているような空虚感だけ。
そんな私達の周りを、徐々に闇が包んだ。
ミシャ、貴方は確かに、私の友達だった。
幼い『フローラ』には、貴方しかいなかったから。
でも、今は違うわ。
『ステラ』には、大切な人達が出来たの。
大好きな人が出来たのよ。
だから、貴方のものではいられない。
ごめんなさい。
ごめんなさい、ミシャ。
私は抱き付いたミシャから、直接、濃い闇を引き込んだ。
私の体は、どこまで耐えられるだろう。
怖い…。
私は、このままヴェイル様と一言も言葉を交わすことなく、死ぬのかな。
でも、自分が死ぬことより、ヴェイル様が死ぬ方が嫌だ。
その方がずっと怖い。
私は、ミシャを抱く腕に力を入れた。
すると、突然、私の腕の中で、ミシャが激しく暴れ出した。
やめろ!
離せ!
死にたいのなら、勝手に野垂れ死ね!
この出来損ない!
死に損ない!
ああ、そうだ!
お前は失敗だ!
我のコレクションには入れてやらぬ!
ゴミは、さっさと死ね!
その後に、ゆっくり我の核を回収してやる。
ミシャの体から、殺意を孕んだ闇が出現し、刃となって私の精神を傷付けていく。
でも、大丈夫。
私は、まだ大丈夫。
私は目を瞑って、自分の中に取り込んだ闇に意識を向けた。
すると、私の浄化の速度が、ぐんと上がった。
クソ、クソ、クソ!
ああ、忌々しい!
憎らしい!
ミシャは、暴れながら上空に向かって叫び出した。その姿が、段々とぼやけ、輪郭が曖昧になっていく。そして、終いには、闇の中に溶けて消えてしまった。
ミシャが消えると、私だけが、闇の中にポツンと佇んでいた。辺りには、ヴェイル様の姿はない。
ヴェイル様は、ここから脱出出来たの?
周りを見渡すと、闇の中に残る青炎を見つけた。
近寄って触れた青炎は、温かく心地良い。そして、私を傷付けることはなかった。
あっ!
私、感覚がある!
体をミシャから取り戻せた?
私は自分の体を確かめるように、両手を握ったり、開いたりしてみる。
でも、相変わらず感覚は鈍い。
その時、とうとう限界を迎えた私の体が、ぐらりと傾いて、そのまま地面に崩れ落ちた。
疲れた。
指先一つ、動かせない。
私も戻らなきゃいけないのに、凄く眠い。
まだ、ヴェイル様に魔力を渡しきれてないのに。
でも…。
私の意識は、地面から這い上がる闇に、今にも呑まれそうだった。
けれど、目が閉じるその瞬間、私を呼ぶヴェイル様の声が聞こえた。私は、辛うじて動かせた視線で、その声を探す。
すると、どこからともなく眩い光が現れ、私の体に熱を灯した。
「ステラ。」
耳元に吐息を感じ、瞬きを繰り返すと、やっとのことで焦点を結んだ目が、温かい何かに触れる自分の手を写した。
「…ヴェイル様…。」
「ああ、良かった…、本当に…。」
見上げた先、淡い光の中に浮かび上がったヴェイル様の顔を見つめていると、その胸にしっかりと抱き締められた。
私達、闇の空間から出られたの?
良かった。
良かった、ヴェイル様が無事で。
私は、私の中に残っているヴェイル様の最後魔力を、そっと彼に返した。
「ステラ、何を!?この魔力は、やはり…。俺の魔力を回復したのは、ステラだったんだな。」
慌てて私の体を離したヴェイル様が、私を見て驚いた表情をしていた。




