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*ヴェイル視点 40

助けを求めて伸ばされたステラの手を、魔物の王が引き寄せ、そこにゆっくりと牙を沈める。

口元を染め、生き血を啜るヤツの姿は、まさに悍ましい化け物だった。



「イヤーー!やめて!イヤッ!」


ステラが、魔物の王の腕から逃れようと必死に抵抗しているというのに、俺は何も出来ない。

そんな俺達の姿を楽しむかのように、魔物の王は、肩、頸、背中と順に、彼女の柔肌を傷付けていった。

俺の目の前で泣き叫ぶステラの服が、彼女の血で徐々に赤黒く染まっていく。それと同じく、俺の心も、激しい憎悪に彩られていった。



「フローラの鳴き声は、良い。心が踊る。活力が湧き出る。ああ、このまま、全て平らげてしまおうか。」

口からステラの血を滴らせた魔物の王は、獲物を狙うかの如く彼女だけを見ていた。



クソッ、このままではステラが!

どうする?

どうする?


怒りで我を忘れかかっている頭で、俺は一つの答えを導き出した。



「ステラ、必ず助ける。だから、もう少しだけ待ってくれ。」


「ヴェ、イル、さま…。うぅっ。」


恐怖におののくステラに向けて、俺は力強く告げると、全神経を魔力に集中させた。そうして、研ぎ澄ませた魔力を、薄く、細く引き延ばし、精密に編んでいく。



ステラの位置は、俺の鼻が、ステラまでの距離は、俺の耳が、正確に把握出来ている。

だから、必ず成功する。


俺は、目を瞑って視界を閉ざし、完成した転移陣を発動させた。



転移先に目標マーカーを設置していない短距離簡易転移魔法は、まだ成功例がない。

だが、俺は、以前巫女が使った転移魔道具の感覚を覚えている。それに、俺は、目標マーカーがなくても、ステラの居場所を間違えたりしない。


俺は、躊躇することなく、出現した転移魔法のゲートに体を滑り込ませた。

体がバラバラになりそうなほどの衝撃を受けながら、転移魔法の出口へ向かって、俺の体が引き摺られていく。

俺は、それを歯を食いしばって絶え抜き、空間の切れ目から飛び出した。



「ステラ!」


亜空間から脱出した俺は、ステラの体を魔物の王から奪い取り、腕の中に囲い込む。

そして、魔物の王の体に、剣撃を叩き込んだ。

切り裂いた魔物の王の腹から、黒い液体が吹き出し、辺りに異臭を放つ。

俺は、床に崩れたヤツから、距離を取って剣を構えた。



「ヴェ、イル様、血が…、怪我をして…。」


無理矢理、転移魔法の亜空間を通ったことで、俺の体は軽くはないダメージを負っていた。そんな俺を、腕の中のステラが、青い顔で見上げている。



「大丈夫だ、ステラ。必ず、ヤツは倒す。だから、もう少しだけ、我慢だ。」



俺の魔力の残りは、もう心許ない。

体の骨も何本か逝っているな。

だが…。


ふうと肺に溜まった息を吐き出し、俺はステラを見つめた。

そして、ステラの涙に濡れる瞼に、口付けを落とすと、そっとステラを離し、背後に庇った。



俺の限界は近い。

だから、コレが最後の攻撃になるだろう。

だが、刺し違えてでも、魔物の王はここで無に返す。


覚悟を決めた俺は、防御を捨て、青炎を燃やす。

その時、魔物の王が、ニヤリと笑って俺を見た。

背中から感じる悪意に、思わず振り返ると、真っ黒な瞳を見開いたステラが、俺の胸に手を置いた。





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