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第9話 彼女候補?

「そう言えば、小さい頃は何かとくっ付いてたよね」


 抱き寄せると、負けじと しがみついて来た聖がしみじみと語る。


「ああ、そうだったな。と言うか、大きくなってもそうじゃね?」


 友人達にも距離が近いと驚かれたことが何度もある。


「まあ私がいっつも張り付いてたからね」


 甘えん坊なコイツにとって両親が共働きな上に、七つ年上の姉も忙しくて殆ど家にいない環境は辛かったのだろう。物心付く頃には既にくっつき虫状態だった。


「今は一人っ子なんだろ? 大丈夫なのか?」

「寂しくなかったと言うと嘘になるけど、兄弟なら誰でも良いって訳じゃないし」


 すっかり記憶を失くした上に、弟がいる家庭で呑気に暮らしていた俺にとっては耳が痛い。


「でも、誠に会えるような気がしてたから頑張れたよ。今の両親も良い人達だし、一人っ子って言っても従兄弟がすぐ近くに住んでいて、かなり賑やかだったから平気」

「そっか、良かった」


 今の人生も楽しめているらしい。それを聞けて少しは心が軽くなった。



「そうだ! 憶えてるかな? 天花ちゃんのライバル役のクラスメイト」

「あー、杏子(きょうこ)ちゃんだっけ?」


 淡いオレンジ色の髪と目の色が綺麗な、これまた息を呑むような美少女だった記憶がある。


「そう! その子と仲良くてね、もし良かったら紹介するよ」

「確かに気になる存在だな」


 ゲームだと天花専属のライバルだったらしい。

 最初に主人公と攻略対象を選択してから始めるシステムだったお陰で、ハナからルートが固定されている。そして攻略対象毎に微妙に世界が違う。

 その中で、どのルートでも必ず天花と攻略対象の間に割って入ろうとするお邪魔虫。……の筈が、天花が攻略対象に塩対応なせいで、杏子ちゃんが苦労人ポジションになってしまった。


「アニメだと、しつこいメイン攻略対象から天花ちゃんを必死に守ってるようにしか見えなかった」

「実はゲームでもそうだったから、天花ちゃんの保護者って言われてたんだよ」


 朋深ちゃんと一緒に、後輩に監禁されかかった天花ちゃんを助けるエンドもあるらしい。選択肢を間違えると、そのまま監禁でバッドエンド一直線だが。

 いわゆる正統な乙女ゲームのライバル役で、正々堂々、真っ向勝負なタイプ。あんな良い子がルート毎に違う男に惚れさせられて、悉く負けるか辛い目に遭うのが納得いかない。男達の見る目が無いんじゃないか?


「確かゲームでは、彼女と天花ちゃんのエンドもあるよな?」

「うん。アニメでもかなり距離が近かったけど」


 前世で聞いた話だと、彼女と朋深ちゃんと天花ちゃんの三人で「男なんてロクでもない」と言いながらイチャつくエンドもある。スチルも見せてもらったが、パジャマでじゃれ合う三人が可愛かった。


 流石に朋深とのエンドを目指す気は無い。どんなに可愛くて大事でも、妹としか見られない。が、杏子ちゃんは要チェックだな。



「ねえ、今から呼んで良い?」

「いきなりだな」

「新しい友達が出来たって言ったら、凄く興味持ってしまったみたいで」


 彼女とも去年クラスが同じで、教科書を忘れたり弁当を忘れたりする度に助けてもらっていたらしい。相変わらずか。


「前世では、忘れ物しないように必ず誠がチェックしてくれてたから、つい、ね」

「小学校は大丈夫だったのか?」

「うん、まあ……給食だったから」


 深く追究しない方が良さそうだ。


 結局、反対する理由も無いので呼ぶことになった。編入前に一人でも知り合いを増やしておいた方が良いだろう。



「初めまして、高一(たかいち) 杏子(きょうこ)です」

「初めまして、月瀬 天花です。よろしく」


 今まで自己紹介ってどうやってたんだっけ? 女の子同士の挨拶がイマイチ分からん。とりあえず余計なことを言わなければ、大きく外す危険は無い筈。


 どうでも良いことだが、やっぱり苗字はソレなのか。

 いや、高一さんって姓が実在しているのは知ってたけど、ゲームもアニメも高校一年の四月にスタートするからね。「高一(こういち)だから高一(たかいち)さんってw」「もうちょっと考えてあげて」という書き込みをアニメ放送中に見た。そして最初にゲームが発売された時にも同じことを言われていたらしい。

 まあ、今の彼女は中学生だから全く関係ないけど。


 そして、何かめっちゃ見られてる。もうちょっと大人になったら露骨に値踏みするような真似は避けるけど、まだ子供だしなあ。まさか中身が怪しまれてる、とか無いよな?


 それにしても、杏子ちゃんってマジで美少女。どっちかと言うと長身でクール系な天花とは違うタイプで、小柄で可愛らしい。でも目元には勝気な雰囲気が漂う、甘すぎない顔立ち。

 彼女と並ぶと、ダークブラウンの髪と目の朋深は、色合いは控えめだ。でも、清楚で優しい雰囲気が際立って、美貌なら負けてない。ライバル役と張り合える親友キャラって凄い。


 今この空間には、とんでもない美少女が三人もいる。その内の一人の中身がアラサーのオッサンなのが申し訳ない。朋深は……まあ年齢は知らんが元々美女だから許されるだろう。



 じっと見ていた杏子ちゃんだが、何を納得したのか、はたまた していないのか定かではないが、にっこり笑うと話しかけてきた。


「よろしくね。沍月学園に通うって聞いたけど、仲良くしてくれると嬉しいな」

「うん、こちらこそ」


 一言一言に神経使う。俺、マジで学校生活マトモに送れるかな。



 なんて思ってたのも束の間、杏子ちゃんはピアノを習っているらしく、音楽の話を振ってくれるお陰でかなり楽だった。

 朋深は前世と同じく美術部に所属しているらしい。ただ、楽器は弾かないけど聴くのは好きだから、俺達の話にもノッてくれる。


 すっかり楽しくなって、俺も油断しきっていたんだろう。

 杏子ちゃんお薦めの小説の話をしている時、うっかりミスを犯してしまった。


「この主人公の恋人がとんでもないヤキモチ焼きなの。他の男の子と挨拶を交わしただけでも『アイツと浮気してるんだろ』と責め立てたり、スマホを無断で見ようとしたり、とにかく信じられない人で!」

「あー、オセロ症候群ってヤツ」


 ホント、普通に前世での通称を口にしてしまった。


「えっ、今、何て? オセロって、何?」

「あっ、えーっと、何か……言い間違い?」


 もう白を切り通すしか無い。そうだよな、このパロディ地獄な世界に、かの偉大な劇作家の四大悲劇が存在する訳ねーわ。

 うわ〜、どうしよう。朋深、っつーか聖は完全に焦った顔のまま動きが止まっている。あれ、機能停止してないか?

 

 力技で流そうと決意したその時、不意に張り詰めた空気を緩めるように吹き出す声が聞こえた。


「ふふっ……あ、ごめんなさい、試すような真似をして。あと、貴女達は真剣なのに笑ってしまって」

「あ、あー、なるほどね」


 つまり、別に隠す必要は無かった、と。


「えっ?! 杏子ちゃん、それどういうこと!? あと、なんで誠は分かってるの?」

「まこと……?」


 あー、やらかした。オセロだけならともかく、現在は女の子の俺に誠なんて呼びかけて……いや、女の子でも『まことちゃん』は普通にいるな。

 まあ別に隠さなくても良い訳だから、混乱状態の聖を落ち着かせてやろう。


「つまり、彼女も俺達と同類ってことだな」

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