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第6話 変わったこと

「そうだ! 五日の予定は空いてる?」


 少しの間、何かを考え込んで俯いていた聖の唐突な問いに、やや戸惑いながら肯定する。


「じゃあ、その日に家に来てよ。後で住所教えるね」

「良いけど。何で急に?」


 寧ろ暇だから毎日会っても良いくらいだ。


「その日、私達の誕生日でしょ? 今は違うけど、お祝いしたいの。再会できた記念も兼ねて」

「うん、良いな」


 現世の俺達には誕生日でも何でもない、ただの一日。冷静に考えたら、無意味で馬鹿げた行為なのかもしれない。それでも別に構わない。どうせ今の俺達は、愚かしいことを やらかす子供なんだから。


「そう言えば、今の私は秋生まれだけど、天花ちゃんの誕生日は冬でしょ?」

「名前通りにな」

「ああ、確かに。それにしても、天花って良い響きだよね」


 え、そう? すっげえ名乗るの躊躇う名前なんだが。


「だって、天下を取れそうな感じがしない?」

「…………あ、あー、なるほど、(あめ)の下、ね。そう言われれば、確かに、そう、だな……」

「どうしたの? 何か落ち込んでる?」


 落ち込みもするよ! 俺が真っ先に思い付いたの、紅白の縞模様のアレだぞ。

 でも、確かに天花と天下って、発音は一緒だ。例のアレより、よっぽど近いっつーか、そのままだな。普通そっちを先に思い付くだろうよ。

 えっ、マジか。

 俺って、親の寝室でゴム漁りをするコイツより遥かに汚れた心の持ち主だったのか? 


「……いや、落ち込んでるっつーか、ちょっと気が遠くなりかけ」

「大丈夫!? どうしよう、タクシー? あっ、それより、うちのお母さんに車で迎えに来てもらっ」

「大丈夫、さっきの一瞬だけ。もう平気、走り込みに行けるくらいには元気だから」


 我が事のように、というか寧ろそれ以上に必死になってくれるのは嬉しいけど、考えてた内容が内容だけに罪悪感が凄まじい。


「ホントに? 今は誰もが見蕩れるレベルの美少女なんだよ。ちょっとでも隙を見せたら寄って来る悪い輩がいるって、ちゃんと自覚してる? 世の中は危険が一杯なんだよ?」

「人のコト言えねーだろ、それ」


 コレって、傍目には少しばかり痛いカンジに見えるのか? でも事実、今の俺達は、中身はともかく外見は美少女だし。

 まあ、聖は前世でも美人だったけどな!


「それはさて置き、俺、今から買い物して帰るから、連絡先交換しよ。そんで、またチャットしよう」

「そうだね、あー、今日はスマホ持ってて良かった。よく忘れるから」

「相変わらずの不携帯か。いざって時に困るからマジで気を付けろよ」


 前世でも肝心な時に連絡が付かなくて、何度も困ったものだ。それでいてやや方向音痴の気があるので、小さな頃から何かとコイツを探し回ってたな。結局、俺が一番最初に見付けるから、何時からか親も捜索する俺の後を付いて歩くだけになった。

 今回の人生では、一体どうしていたんだろう。誰にも見付けてもらえず、一人でずっと泣いていたんじゃないのか。


「うん、気を付ける。前は本当にごめんね」


 って、何でそんな涙声になってんの? そこまでキツい言い方したか? 


「いや、そこまで気にしなくても良いから」


 前よりコイツの気持ちが分かり難くなってるな。でも考えてみれば当たり前だ。俺がいなくなって以降の聖の人生に加え、朋深ちゃんが生まれてからの十数年分の隔たりが あるんだから。

 若干寂しい気もするけど、彼女が積み重ねた時間を感じて、やっぱり嬉しい。



 別れの挨拶を躱して家に帰った後、気が付くとすっかり夜だった。いや、夕食を作ったり今の家族と話したりした記憶はある。でも、何処か上の空だったようで、入浴を済ませて部屋に籠り、やっと何とか落ち着いた。

 このままだと、何時かうっかり余計なことを言いそうだ。気を引き締めよう。



 せっかく連絡先を入手したんだからチャットでもやろう。そう思い立ったは良いけど、いざメッセージを送る段階で何を送るべきか悩んで、結局打ち込んだのは何てこと無い普通の一言。


“今ヒマ?”

“ヒマだよーどうしたの?”


 直ぐに返事が来るとは思ってなかっただけに驚いた。落ち着いたら、昼間の邂逅が俺の心細さ故に見てしまった白昼夢だったんじゃないかって不安になって。それでつい確認したくなってメッセージを送ったんだけど、流石にそれは恥ずかしくて言えない。


“いや、そっちは今の家族とどう接しているのか疑問に思って”


 そもそも、何時頃記憶が戻ったんだろう。


“私は幼稚園の入園前に記憶が戻ったから普通に接してる”


 そっか、ちゃんと幸せに暮らしてるんだ。良かった。


“記憶が戻った時の話、しっかり聞きたいから今から通話にして良いか?”

“いいけど、それなら明日また会おうか?

 習い事はある?”

“無い”


 引っ越して来たばかりで習い事を休んでいたけど、記憶が戻った今となっては、今更やりたくない。高校と大学では軽音やってたし、またギターが弾きたいかも。今の父が持ってるの、少し借りようかな。


 結局、俺がアイツの家に行くことになった。

 我が家にも何時か招待したいけど、今は春休み中で弟と鉢合わせする可能性がある。別に疚しいことは何も無いが、もう少しばかり時間が欲しい。


 とにかく明日また会える。それだけで安心だ。


 思い返すと、前世では双子と言えど俺は一応兄で、少し抜けていて何をするか分からないアイツの世話を焼くのが当然だった。姉は年が離れているから一緒に行動することが少なかったせいか、余計に俺がしっかり守らないとって思っていた。

 でも、今は明らかに俺が頼っている。この世界にしっかりと馴染んでいる上に知識も俺とは比べ物にならないのだから、ある程度は仕方ない。でも、決して寄りかかり過ぎないように気を付けよう。


“それはそうと聖が好きだったケーキ屋

 名前が少し違うけど店構えはほぼ同じのが同じ所にあった”

“おぼえててくれたんだ”

“大事な妹のコトなんだから当然だろ

 明日持って行くから”


 喜んでくれると嬉しい。

 当然ながら彼女は前とは違う人物で、まだ分からないけど、もっと色々変わった所もあるんだろう。それは多分、俺も同じ。

 それでも以前と同じ部分も沢山あって。

 その、変わった所と変わってない所、どっちもが彼女を構成する大事な要素で。その全てを大切にしたい。



 その後は、ガラにもなく明日の服装はどうするか、どんなことを訊こうかと考えて、中々寝付けなかった。夜も随分更けた頃にやっと眠りについたが、良い夢を見た気がする。起きたら全部忘れたけど。


 翌朝、酷い顔で起きて来た俺を見て、弟が大騒ぎして大変だったのは、ちょっと予想外だった。

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