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第14話 猶予期間とは

「遠慮しないで俺に案内させてよ」

「遠慮ではなく案内を求めていません。大体、貴方は部外者では? 制服着てないじゃないですか」


 両親共に急な仕事が入ってどちらも一緒に来られなかった。でもそれは構わない。ここには編入試験も含め、何度か来ているから。

 でもコレの襲撃は予想してなかった。一番避けたかったヤツが来るとか何なの? 今日は厄日なのか? 


 近道しようとして、中庭という名の森を突っ切ったのがマズかったのか。大きな木が林立するせいで狭く、前に立たれ足止めを喰らっている。

 諸々の手続きがあり、今朝は早めに登校するから一人だったんだ。こんなことなら聖達に一緒に来てくれって頼むべきだったよ。


「ああ、私服なのは理由があってね。俺は明日が高等部の入学式だから今日は休みなんだ。でも案内は何ら問題なく出来るよ。先輩だから」


 うん、知ってる。でも頼みたくないし、本当に必要ない。それに大人気ないけど、目の前の子供を相手したくないんだ。

 メイン攻略対象らしく、文武両道で外見も良い上にいいトコのボンボン。でもそれだけなら俺にとっては死ぬ程気に入らないヤツ、ってだけで特に問題は無い。

 だが彼はそれを良いことにヤりたい放題。文字通りの意味で。アニメだとぼかされてはいたが、高校生にして女の子は一時の気晴らし用の遊び道具としか思っていない。

 ゲームではどうなのか聖に訊いてみた所、擁護のしようが無いド屑だった。プラムの毒に蝕まれて鼻がもげてしまえば良いと思う。けっこう本気で。

 この世界でも色々とやらかしているらしい。先月まで中学生だったのに既にソレとか、どうしようもないな。


 あ、どうでもいいけどこの子の名前、確か……ヤリチ、もとい黄地(おうじ) (あきら)くんだったな、多分。すっかり忘れていたから聖に教えてもらった。

 色に合わせている覚えやすい名前なのに記憶に無かったのは、不愉快なモノの記憶を締め出したかったせいなのかな。それに王子と発音が一緒なのも気に食わない。お前みたいな王子がいる訳……あるか。これは完全な言いがかりだな。


 身長が高めな天花が見上げる程度には長身なのもムカつく。おまけに金髪に緑の目とか、一体どこの国の人間なんだよ? 全くゲームキャラはコレだから。

 それに比べたら黒髪の天花は めっちゃ常識的な色彩だよな。目は青いけど、そのくらい どうってこと無い。



「ねえ君、見たこと無いけど編入生でしょう? 名前教えてよ」


 髪に手を伸ばして来やがったので一歩、いや二、三歩下がる。こんなヤツに触られるなんて冗談じゃない。寒気がした。マジで消えてくれねーかな。

 更に後退(あとずさ)り、ちょっとだけ開けた所に落ち着いた。今は進むより、コイツから少しでも離れることを優先するべきだ。


「著しく礼を失する方に告げる名は持ち合わせておりませんので悪しからずご了承下さい」


 さっきから苛立ちが募る一方なんだが。しかし相手はガキで、まだまだ守られるべき存在だ。

 でも義務教育課程を終えたヤツには多少厳しくしてやった方が良いのか? それに今の俺は力じゃコイツに勝てない。不意をついて殴り倒して逃げても赦されるかも。



「黄地先輩、邪魔なんで退()いてくれませんか」


 悩んでいたら金髪くんの後ろから声が聞こえた。こういう時に颯爽と現れて助けてくれるイケメン、いるよね~。まるで乙女ゲームのヒーローだわー。いや、マジモンの攻略対象が来ちゃったけどな!


 この少年はこの春から中等部三年になる先輩、赤嶺(あかみね) 陽炎(かげろう)くん。目も髪も赤い。彼の名前は覚えていたのは、そこまで不愉快なキャラじゃないお陰か?

 二年後は攻略対象の中で一番の長身だったけど、今は流石に黄地くんより背が低い。そしてかなり幼い顔立ちで、眉間に皺が寄っててもまだ可愛らしい。アニメだとかなり大人っぽくなってたよな。

 矢鱈と黄地くんを目の敵にしていて、天花が絡まれていると助けてくれることが多い。アニメ、ゲーム共に朋深ちゃんや杏子ちゃんを上回る出動回数だ。


「赤嶺く〜ん、何時も言ってるけど、俺、一応先輩ね」

「とっくに卒業した中等部に何の用ですか?」


 もっと言ってやれ。あと二年は顔を見ないで済むと安心していたのにフライングしやがって。


「ちょっと懐かしの母校に顔見せに来ただけだよ」

「卒業してから懐かしむ程の時間は経ってませんよね。ヒマなんですか? それとも本当は高校に行くのが不安なんですか? 先輩けっこう嫌われてますから、少なくとも男子生徒からは無視されても おかしくない頃ですよね。だからここに来て人に嫌がらせをして気分を落ち着かせているんですか?」


 おお、煽ってるなあ。黄地くん、必死に気にしてない振りしてるけど、めっちゃ蟀谷(こめかみ)がピクピクしている。流石に少し可哀想に思うけど、ここで助け舟を出してはいけない。出来る限り関わらない、言葉を交わさない、そして目も合わさないように気を付けよう。


「そもそもこんな狭い場所を塞いで迷惑かけておいて先輩面しても嗤われるのがオチですよ」

「減らず口は相変わらずだね」


 顔を歪めながらも退散してくれた。俺の進行方向に向かったのが気になるが、とりあえず一安心だな。


「おい、お前」


 あー、この子、口も態度も悪いんだよね。人柄はアレとは比べ物にならないくらいマトモだけどさ。

 俺としては幾ら助けてくれた先輩だろうが、偉そうな相手に構う義理は無い。初対面の相手にいきなり「お前」は無いだろうよ。


「聞こえなかったのか、お前だ。話しかけられたら返事ぐらいしろ」


 無視していたら目の前まで迫って来た。このまま解放してくれるとは流石に思ってなかったけど、正直言って鬱陶しい。


「貴方にお前などと呼ばれる筋合いはありません」

「生意気だな。お前、二年だろう。それに俺はお前を助けてやったんだが?」


 制服のリボン──男子はタイだ──の色が学年によって違うから後輩だとバレるのは避けようが無い。それでも言いたいことは言わせてもらうが。


「確かに助けて戴きましたが、先輩ご自身も先程の失礼な先輩を扱き下ろすのを楽しんでいたではありませんか」

「っだが、助けた事実には変わりないだろう」

「結果的には助けられましたが、それでも腕組みをして ふんぞり返った相手にお前と呼ばれるのを受け入れようとは思いません。そもそも、高々一年程度早く生まれただけの相手に、そこまで(おもね)る必要があるのでしょうか?」


 おお、悔しそうだな!

 でも先輩だからって偉そうにして良い訳ないのは、この子だって分かっているだろう。先程、自身自身が一つ上の先輩を煽り倒していたんだから。


「口の減らんヤツだな」

「先程の先輩と同じような台詞ですね」


 分かりやすく嫌がっているね! 自分でもそう思ったのか、全く言い返して来ないけど。


「さっきの先輩は、一度目を付けたら執拗に何度も絡んでくる。精々気を付けろ」

「ご忠告ありがとうございます」


 俺のことを不快に思っている筈なのに、こうして注意を忘れない。そして踵を返して黄地くんと同じ方向に向かう。

 あれ、進行方向を間違えたって訳じゃないよね。また絡みに行くのか、はたまた俺を心配して向かっているのかは分からない。ただ一つ言えるのは、この先も彼らに絡まれるのは避けられないってこと。


 聖と杏子さん以外にも、女友達を沢山作ろう。早急に。

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