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第12話 攻略したくない対象

「いらっしゃ〜い」

「お邪魔します」

「お邪魔します。本当に兄妹水入らずじゃなくて良いの?」


 済まなそうな顔で言う杏子さんだが、寧ろこちらが申し訳ない。何せ、聖が強引に誘ったからな。


「勿論! と言うか、誕生日なんだから友達がいて当然でしょ? でも以前の私達の誕生日祝いなんて、この世界の人達には言えないし」


 まず知らないしな。そして、当然だが今の家族には言える訳がない。たとえ前世について打ち明けていたとしても、流石にこれは言えないだろう。別に今の家族を蔑ろにするつもりは無いけど、少し後ろめたいから。



「じゃあお言葉に甘えて。でも、本当にプレゼントは要らないの?」

「勿論だよ! だって、朋深のと二回もらう訳にはいかないから」


 もし杏子さんの前世の誕生日が分かっていたらお互い二回渡すことも出来るが、相手の懐事情も分からないので気が引ける。()の道、今は一回ずつに決まっているんだが。



「でも手ぶらも気が引けるから、紅茶を持って来たの。ケーキは用意しているだろうと思って」


 しかもそれは聖の好きなアッサムだ。おい、分かりやすく顔が緩んでるぞ。


「ありがとう! ケーキは誠が用意してくれたんだ」

「大きいデコレーションタイプより、好きなのを選べるように小さいのを買って来たよ」


 二人の好きなのを買ってあるから、大きく外す心配は無い。多分。今日は違うのを食べたい気分という可能性も考慮に入れて、色々と買ってある。


「そう言えば、誠さんは甘い物は平気なの?」

「普通に好き。甘すぎるのは苦手だけど、割と何でも食べる。紅茶かコーヒーが無いとキツいけど」

「それは私もそうね」


 聖は紅茶が好きだが、飲み物無しでも平気で幾つも平らげてしまう。物凄い甘党だからロクムとかも平気だったりする。とても真似できない。したくもないけど。

 結局二つずつケーキを平らげてしまった。二人共喜んでくれて良かった。



 その後は又しても情報交換。新学期前に出来るだけ済ませておきたいし。


「この間の帰りにダメ元で誠さんにこの世界について訊いたら、乙女ゲームの世界だって教えてもらったの」

「え、杏子ちゃん、知らなかったの?」


 俺も公園で質問された時は驚いた。この部屋で話していた時は全く訊かれなかったから、てっきり知っているんだと思ってしまったから。

 何でも、分かるとは思わなかったけど一応は訊ねてみようと思い立ったので、丁度一緒に帰っていた俺に疑問をぶつけたらしい。


「多分、乙女ゲームってやったことは無いと思う。一応ゲームをやっていた記憶はあるけど、もっとアクションがあるものをを好んでいたみたい」


 それと以前『ゲルダの電鉄』を見て怒りを覚えたので、恐らく前世で元ネタのゲームをやっていたと思う、とのこと。ああ、そういうの見た気がする。俺、現世では一切ゲームやらないから内容は全く知らないけど。

 因みに杏子さん曰く『ゲルダ〜』は鉄道物ではなくスプラッターらしい。この世界なら何の不思議も無い。そして年齢制限もかなり緩そうだ。


 改めて聖がこの世界の元になった乙女ゲームについて話して聞かせる。その間、聖さんが何度か僅かに不愉快そうな表情を見せたのが気になったが、俺も復習のつもりで聞いていた。


「ライバル役というのは構わないけど、あのナルシスト全開で傲慢な先輩を好きになるの? 誠さんから聞いた時も信じられなかったけど、やっぱりそうなのね。耐え難い屈辱なんですが……」


 うわ、俺以上に辛辣だな。まあ仕方ないとは思うけど。

 やっぱりアイツにヒーローは無理だろう。せめてメインの攻略対象から外れてくれないかな。それで、めちゃくちゃ厳しい条件をクリアしないと顔すら見えない隠しキャラとして姿を晦ましていて欲しい。


「でも、天花ちゃんをあの人から守るのは大変そう。その分やり甲斐は凄いけど」

「ね。まあゲームが始まるまで二年の猶予があるから、その間に何とか出来ないかなって思ってるの」


 実はさっきからヒヤヒヤしているが、聖は全く百合エンドについては話さない。彼女がそういうのが大丈夫なタイプか分からないから助かるが、好きな物に関しては箍が外れやすいので心配だ。



「あと、一つ上の先輩は確かに口は悪いけど、そんなに悪い印象は無かったな。去年、私達と同じ学年の男子生徒に例の二つ上の先輩が絡んだ時、助けたのを見ていたから」

「へえ、別け隔てなく助けるのか」


 思ってた以上に良い人じゃないか。マッチポンプの線も消えたし安心だ。



「同学年の彼は少し胡散臭さを感じたけど、流石にそんな人だとは思わなかったな。まるで二重人格みたい」

「ね。天花ちゃんと、それ以外の人に見せる顔が違いすぎるの」


 本当にゲーム通りの性格とは限らないが、杏子さんが既に胡散臭いと思っていたなら、何かしら似通った部分はあると覚悟しておいた方が良いだろう。



「一つ下の後輩は顔も知らないからピンと来ないな」


 それは当然だ。何せ、彼はまだ入学していないのだから。

 確か、誰とも関わろうとせずにボーッと中庭で佇んでいる彼を、偶々中等部に用があった天花が見付け、気になって話しかけたんだ。

 孤立しているような彼を放っておけず、止めとけば良いのにせっせと中等部に出向いて心を開かせ、同級生との交流が出来るようにする。それ自体は良い事だと思う。非難される筋合いは無い。


 でも、それでもう大丈夫そうだとぱったり姿を見せなくなるのはどうなの? すっかり惚れ込んだ後に手を離すのは可哀想だし、色々と危険だ。

 監禁された時は「ほら言わんこっちゃ無い」と思ったよ。まあ、アニメだと少し話しただけで改心してくれたから、警察沙汰にはならなかったけど。


「後輩くんはこっちが近付かなければ大丈夫だから」

「そう、なんだよな」


 でも、何もしないと彼は孤立したままだろう。それで良いのだろうか。


「誠、変なコト考えてない? 気になるのは仕方ないけど、安全を最優先にしてよね。今の誠は天花ちゃんという女の子なんだよ。力じゃ男の人には敵わないんだから」

「うん、分かってる」


 そもそも俺はヒロインじゃない。中身は似ても似つかない男だ。そんな俺が彼を何とか出来るなんて思い上がっている訳ではない。ただ、少し居心地が悪いだけ。


「なら良いけど。誠は世話焼きだから心配だよ」

「誰彼構わず気にかける訳じゃないから。俺、別にお人好しでもないし」


 出来るだけ人に優しくしようと心がけていたが、実際は心の狭い人間だ。嫌な事をされたらどう仕返しをするか即座に考えるし、裏切られたら赦せない。

 誠実に生きよう、良心に恥じる行いは慎もうと努力していたし、表面上は上手くやれていた筈。人からの信頼は得ていた。多分。

 でも心から優しい人間には、終ぞなれなかった。現世でも多分無理だろう。


 それに比べ、聖は優しい。自分が損をしても周りの人を優先する。そんな妹が心配でもあり、羨ましくもあった。俺には到底無理な生き方だから。



 でも、そのせいで……

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