表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【春のトランスセクシャル】

異世界から帰ってきましたが、なぜか体が魔族(女)のままです

朝、冬は目を覚ました。


「…………えっと」


知らない天井を見ながら、緩慢な動作で寝惚け眼を擦り、状況分析をしてみる。

そこであることに思い立つ。


「あ…… ああ、そっか、本当に帰れたんだ、帰れたんだね」


よくよく思い返せば、彼にとってそれは知っている天井だった。

そう、彼は帰ってきたのだ。三年間の異世界生活を終え、現代の日本へと。


「…………終わってみれば、何だかんだ楽しかったな、うん、楽しかった」


薄く笑う冬。

楽しそうで寂しそうなその微笑みは、まるで本当は帰って来たくなどなかったと言わんばかりだ。


「……学校行かなきゃ、きっとみんな心配しちゃうよね。するよね、きっと」


思い浮かぶのは、異世界で共に過ごし冒険した五人の仲間達だ。冬を含めたこの六人は、長い冒険を経て、堅い堅い絆で結ばれている。


そして、この六人は皆同じ学校だ。


「学校は嫌だけど、皆んなには会いたい。ちゃんと無事かも確かめたい、確認しなきゃ……」


異世界へと飛ばされる前。冬は仲間の五人と面識はなかった。しかし冬以外の五名は皆、それぞれに程度は違えど知己であった。


故に、現代に帰って来た今、冬だけが仲間の連絡先を知らない。

自分は無事に帰れた。しかし仲間達はどうなのか?それを確かめない訳には行かない。

ので、仲間達と連絡先を交換する意味でも、今日は絶対に学校へ行かねばならないのだ。


「…よし。うん、いける、いこう」


震える手を、握って止める。

思い出されるのは、自らの学校での境遇。



彼は虐めを受けていた。




異世界での冒険を経ても、登校に対しての恐怖は消えてくれなかった。だが、その恐れよりも仲間への思いが勝っている、圧倒的に。


「まずは、えっと、朝ごはん。朝ごはんを食べよう………ぇ…… って! ぇえっ!?」


時計を確認し、まだ時間に余裕があることを確認し、準備を始めようとした。

が、そこで重大な事実に気がつく。


「服…… 前の世界のまま、そのままだ」


そう、彼が今着ている服は、かつてこの部屋で着ていた部屋着ではなかった。

着ていたのは巫女服。異世界で良く着ていた、何なら帰還の際にも着ていた民族風巫女服であったのだ。


「もし、かして」


嫌な予感が募る。

彼は恐る恐る、自らの耳に触れた。


「………ぅ、これ、三角だ、ね、三角だよ」


その耳は、どう触っても三角形。尖った三角の耳だ。

エルフ耳ほど長くは無い、短い、正三角に近い形の耳。

人の耳では、決してない。


「…………こういうのって、召喚前の状態に、戻るもんじゃないの?何で戻らないの?」


少し泣きそうになりながら、虚空に向かって文句を言ってみる。当然だが返答は無い。

勝手に思っていたのだ。元の自分に戻っていると。

スマホで確認した日時は、確かに召喚前と同じだった。

場所も召喚された時と同じ、自宅の寝室だ。

全て、全てが元に戻っているのだと、そう思っていた。


「…………嘘、嘘だよ」


巫女服をめくって、自身の肉体を確認する。

そこには、この三年間慣れ親しんだ肉体があった。


「ぁぁ…… ぇぇ…うそぉ」


軽く絶望しながら喘ぐ冬。


それは魔人の身体。


彼と仲間が転移したのは魔界。

そして、彼らはそれぞれ魔人の肉体へと変じていた。

オーク、ライカンスロープ、ヴァンパイア、サキュバス、ドラゴニュート、そしてアルラ。


冬はアルラだ。


アルラとは非常に珍しい魔人種で、短い三角耳と星空瞳が特徴の、女性しか存在しない種なのであった。


「女の子のまま、女の子のままだ……」


そう、女性しか存在しない種なのである。


「どうしよう、どうすれば……」


ーーーー


「い、意外となんとかなったな。なるもんなんだな」


冬はもともと髪を長くしていた。男であった頃から、前髪が目にかかるくらいに伸ばしていたし襟足も長かった。


今は前髪で星空瞳を隠し、同じく髪で耳も隠している。

髪は腰あたりまで伸びてしまっていたが、編み込んで服の中に隠した。パッと見は男であった時と変わらない長さだ。

一瞬切ろうかとも考えた冬だったが、勝手にばっさりと切ったら、仲間達に絶対に怒られると思い至り、やめた。


アルラになり女性となった冬だったが、その体はそこまでグラマラスではなかった。

勿論、女性的で無いというわけでは無い。全体が丸みを帯びているし、肩も腰付きも完全に女性のそれだ。ただ、そこまで激しい起伏ではない。故に、元の男子の制服を問題なく着れた。

季節が冬であったこともあり、セーターとブレザーを着れば体つきは大分誤魔化せていた。


「でも、ちょっと袖が余るな。ちょっと長いや」


全体的に少しだけスケールダウンしているものの、大きな問題ではなかった。


「うん、大丈夫そう。問題ないね」


思ったより何とかなりそうだと持ち直し、再度意気込む。


「頑張ろう、うん、行くんだ、いける」


そして奮起し、冬は家の玄関を開けたのだった。


ちなみに、冬は一人暮らしだ。


ーーーー


「エナジーフレンド美味しい、美味しいな」


余りに早く学校に着きすぎた冬は教室で携帯栄養食であるエナジーフレンドをもそもそと貪っていた。

味はメイプル味。異世界から帰って来て、三年ぶりに食べる物がこれなのだから、この娘もなかなかにいかれている。


「……てか、早く来すぎたな。早いよ」


冬は以前からずっと登校は早かった。それは冬が満員電車があまりにも苦手で、いつだって始発で通学していたからだ。今回もその流れのままに通学してしまった。

人混みが苦手なのは異世界にいっても治らなかったので、始発で来たことは今もなお間違いではない。しかし、早く仲間に会いたいという逸る気持ちが抑えられないのだった。


「まだかな、もうちょっと早く時間たたないかな。遅いよ、時計」


窓側の席である冬は、窓に張り付いて校門を見つめた。仲間が来ないかずっと見続ける。

早く無事を確認したい。そして平和を噛み締めながら、また、お話しをしたかった。


「まだかな。まだかなぁ」


冬は本当に仲間が大好きなのだった。



独自コンペ【春のトランスセクシャル】開催中です、詳細はシリーズのところをご覧ください。


どうか感想お願いします!

十本の中で感想の数が最も多いものを連載しようと思っています!

どうぞよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 冬さん推しです! 仲間大好きでかわいいねぇ……
[一言] すこ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ