四章 アマルスクール 其の参
斗南ツクヨ。
学園最大の神秘の持ち主であり、学園都市エデン創立者である斗南アニマの子孫。
***
「「「「起動!!!」」」」
薄紫の髪を靡かせる小さな少女の体をした一人に二人が同時に走り出す。
ほんの少し前に準備の終えた桜子達に突きつけられた試験。
それは斗南ツクヨに一本入れること。
三対一と言う圧倒的に有利な状況の中、桜子とレイズは自らの得物を手にして、距離を詰めようとした。
レイズは桜子よりも早くツクヨの目の前に立つと駆け引き無しに大きな鎌を首に目がけて突き立てる。ツクヨは放たれる凶刃に臆すること無く、自らの幻想換装である手についた盾と拳が合わさった形をしたガントレットで簡単に弾いた。
一撃を弾かれたことを気にせずレイズは鎌を振るうも、小さな体からはあり得るはずもない程の膂力に驚かされる。その実力が本物であることを瞬時に理解し、無闇に攻撃をせず、最悪ここで奥の手を出すことすらも考えた。
だが、その考えるという行動が目の前にいる斗南ツクヨに取っての大きな隙であり、レイズに取っての致命的な瞬間である。
一瞬、ほんの一瞬だけ、考え事をした時、レイズの体に衝撃が走った。
「いい動きだし悪くないけど考え事をしちゃいけないかな。考えるモーションが目に見えてわかる。考えながら動くこと。思考と反応を送る信号を同時にしないと」
ツクヨは拳で突き飛ばしたレイズに向かいそう言うとその直後に現れた桜子 の不意打ちを簡単にあしらった。
四本の浮遊した剣で同時に攻撃が放たれるも盾で防ぎながら弾き、桜子が握っていた剣が自分に振り下ろされると拳を打つける。四つの剣は弾かれても直ぐに立て直し、放たれるも蹴りと拳で防ぎ、桜子の間合いに入り込んだ。
桜子は母以外に間合いに入り込まれたことに驚きつつも自分の全力をぶつけられるツクヨに対して剣を振るった。
キンと言う甲高い音が鳴ると同時に互いの得物がぶつかり合い、響き合う。
(わ〜あお!簡単に塞がれちゃう!すごいと思ったけどやっぱり、ツクヨ先輩つっよい!)
しかし、打ち合ったのも束の間。
剣を振るう速度よりも拳を振るう速度が早く、体に数発がぶつかると桜子の体に隙が出来た。
そこに目がけてツクヨは容赦なく両足蹴りを入れるとレイズ同様に吹き飛ばす。
「四本の剣を頼りすぎ。間合いに入った瞬間が脆いね。もっと打ち合う特訓をしないと」
吹き飛ばされた二人を見て結衣は泣き出しそうになりながらも手に握られた大型ライフルの引き金を躊躇いなく引く。
ツクヨの頭にライフル弾がぶつかったと思いきや、頭に当たる直前に弾を掴んでおり、それを地面に投げ捨てた。
「やっぱり、結衣ちゃんが一番油断出来なかったよ、流石だね」
その言葉が終わった時には既にツクヨが結衣の目の前に立っており、彼女の顔を避けてから四肢目がけて拳を放つ。
三人が一人に吹き飛ばされ、その場にはツクヨのみが立っていた。
***
「ん、やっぱり強いね、ツクヨ先輩」
その光景を役員の三人が眺めており、その一人であるヒビキが短く呟いた。
それに対してポニーテールで髪を整えた青髪の少女が答える。
「まぁ、そうでしょ。あんな新入生達の相手なんて私達に任せてくれればいいのに」
「イチカじゃ勝てないし、後、別に独り言に答えなくていいよ」
「ヒビキ、あんた今ここでしばき倒す」
二人が目線で火花を散らし始め、それを止めようとセラが立ち上がるも彼女を片腕で静止して、アイマスクをつけて寝転がっていた茶髪の男が彼らの間に急に割って入ると諭す様に喋りかけた。
「二人ともやめなさいな。おじさん喧嘩は見たくないよ」
「「マイケルは黙って!!」」
息ぴったしの一言に無精髭を生やし、マイケルと呼ばれた男はしょんぼりとしてセラに泣きついた。
「セラちゃん〜、二人が厳しい〜、慰めて〜」
「すみません、止めてくれたのは嬉しいのですが慰めるのはちょっと」
セラにも拒否されたマイケルは泣きながらツクヨと新入生三人の試練を見始めてみると役員達の喧騒同様にそれが盛り上がり始めてるのに気付き、視線を試合に向けた。
***
三人は起き上がり、一人だけ立つ少女に自らの全力を叩き込みたいという想いが体を回る。
戦いに対しての沸々と燃え上がる熱の篭った三人の目線を一人で受け取り、ツクヨは彼らが立ち上がるのを待っていた。
「どうしたんだい? もう終わりかい?」
ツクヨもまた昔の自分のような事を言ってしまうも三人のまだ見えぬ底を引き出したいと思いわざと煽る様な言葉を使った。
「うるさい、けど、正論か。なぁ、生徒会長さんよ、俺は弱いか?」
レイズは目の前に立つ格上に対して、自分の弱さを簡単に認めるもまだ出していない力を出すべきかをツクヨに問いかけた。
「一年にしてはなかなかだよ〜。でも、まだまだだ。三人とも本気じゃないし、命懸けじゃない。生徒会役員達がどんな血反吐を吐くような努力の上で普通の生徒の上に立っているのかを理解してない。もっと、幻想換装に力を込めて、自分を曝け出すんだよ」
ツクヨの言葉にレイズはため息をつき、前髪をかき上げ、オールバックにすると鎌を握る力を更に込めて、彼女に刃を向けて喋りかけた。
「わかった、出し渋るのは無しにする。なるべく、見せたくなかったんだがな、背に腹はかえられない。俺の因果は黒を司るモノ。今から見せるのはその一端。代わりに見せろよ、あんたの神秘も」
レイズの周りに風が起き始め、彼に集まるように吹き荒れる。
因果とは原因と結果を意味するモノ。
かつて、因果の選択により生まれた数多の並行世界。
それはある機を境に全て一つとなった。
その結果、人類は生まれた途端、運命を決定づけられ、逆らえず、沿うようにしか生きていけない。
人々はこれを呪いと呼び、忌み嫌った。
しかし、それと同時に生まれたものが幻想換装。因果を顕現させた兵器であり、誰もが持ち、与えられた祝福。
そして、幻想換装は因果を形にした武器であるが、因果には、ごく稀に太古における秘めたる力が備えられている場合がある。
それこそが因果に秘められた神秘であり、一握りの人間がその力を幻想換装を通じて解放出来る。
即ち、神秘の具現化。
(神秘の解放! こっからが本気だね! 一年の頃からまさかこのレベルが見れるなんて! ふふ、ヒビキくん以来だな〜)
ツクヨはレイズの本気に喜んでいた。
自らの因果に眠る神秘の開示。
自分の神秘の理解度を上げ、レイズはその力を解き放つために鎌を手前にすると言葉を紡いだ。
「神秘解放、夜乃神」
その一言を契機に、レイズの頭の上に水色で穴の空いた六角形の様なものが生まれ、強い輝きを放った。
手に握られていた鎌は夜の神を降ろすために変化する。
バキリバキリと音を立て、鎌であったそれは黒い球体を幾つも浮かせた杖のようになっていた。
「それが君の神秘の解放か〜。なんとも、まぁ、悍ましくて私の命を刈り取ろうと言う殺気を漂わせてるね!」
「長くは保たんが潰れるなよ」
レイズは杖を振り下ろしながら夜の神の権能を引き出すために叫んだ。
「夜乃神・重力杭! 」
ツクヨの背後に巨大な杭が唐突に現れ、それに気づいた途端、彼女はその場から離れようとした。
しかし、彼女が動こうとした途端、杭の近くに浮いていた黒い球が動きを止めるとツクヨの体が吸い込まれ、磔にされた。
(杭の逆に行こうとした瞬間に、もの凄い力で吸い込まれた?!)
磔にされたツクヨは体を動かすも一切の動きが許されず、それを知っていたかのように桜子は動いていた。
四本の剣と握りしめる一本の剣。
自らが生んだ必殺の剣をツクヨに叩き込もうと声を上げた。
「魔桜五刀流! 夜燕・一月!」
五つの剣かれ放たれる同時の突き。
一切の躊躇も乱れもない一撃にツクヨも自らの命に迫る勢いを感じると彼女もまた己の因果に潜む神秘を解放する。
「神秘解放、転醒神」
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