三十二章 四季祭「春」 其の拾伍
サクラコ裏話
学園の政を執る者達は神秘応用までの覚醒が条件となっている。ただ、グレイとツカサはそこまでの覚醒をしていない。
***
「ありゃりゃ、ツクヨ、このままだとあいつ死ぬぞ」
観客席で試合を眺める刃から発せられた言葉にツクヨも試合を眺めながら応える。
「レイズくんはまだ、諦めてない。ここで試合を終わらせるのは彼に無礼だよ。刃くんも分かっておきながら言ってるでしょ?」
「おいおい、そんな意地悪じゃないぜ俺は。でも、まぁ、あいつがまだ諦めてないってのは確かだ。最後の一矢をあいつは伺っている。さてさて、どっちに転ぶかな」
***
(頭が、回らなくなってきた。何度も揺れたせいか?無理矢理起こされては殴られる。チッ、キリが無い。だが、まだ、だ。まだ、もっと、もっとあいつを、あいつの暴力を引き出せ)
レイズは自身の体を限界が既に手前であることを理解しており、そして、こんな中、アランの攻撃と動きを分析していた。
(右で蹴ったら、左の拳、左で蹴ったら左の拳、左利き、重心は右、直接人を殴るのに慣れている動き方)
殴られれば殴られるほどレイズは吸収する。
自らの命を脅かす暴力に対して、冷静に、沈着に淡々と読んでいくとアランの拳がレイズの顔に振り抜かれようとした瞬間、その拳を彼は掴んだ。
掴んだ瞬間、アランの重心を置いてある右足を蹴り抜き、足払いをする。神秘で覆っていたはずのアランの肉体に衝撃が走った。
(痛みじゃなくて、これは、純粋な肉体の破壊?)
何が起きているのか分からず、蹴られた足が動かないのだけを理解し、前を向いた途端、レイズの拳が目の前にあった。
レイズはアランの顔を突き抜くと自分の顔にも同様の衝撃が走り、ふらつくも彼は立った。
気合いで立つ事など不可能、故に、レイズは殴られている間の分析をし、ある一つの答えを得ていた。
それは殴る箇所を決めておく事で予め、自身にダメージが返ってくる箇所に神秘を集中させる事である。
神秘の中和、それにより、レイズ自身の攻撃に対してはダメージを軽減させることができ、尚且つ、自身の神秘、即ち、重力を拳に付与さることでアランの神秘への対策とした。
(右足に重力、俺の右足を神秘で中和、そのまま右足で蹴り上げる)
顔に蹴りが入り、ふらつくとレイズは容赦しなかった。
何度も、何度も、何度も、殴り続け、相手が倒れるまで止まることを知らない。
自身の意識が無くなろうとも、むしろ、意識のブレーキが効かない今が好機だと自ずと暴力を振い続けた。
その姿に、アランは初めて、心の何処かに恐れという影が差した。痛覚遮断機構により、痛覚を感じない、それ故に、恐怖の感覚すら薄らぎ消えていた。
それなのに、奴に、レイズにアランは恐怖という感情を無理矢理埋めつける。
(足が、手が、震える?本能が訴えている、のか?)
レイズが振るう腕を上げた瞬間、アランは目を瞑った。戦場における死を意味する様な行為に、アランは初めて縋ると自身に翳された拳が振るわれるのを無防備に待つもそれが彼を傷つけることはなかった。
レイズは拳を振おうと構えたまま、意識を失っており、アランの前に立ち尽くした。
直ちに、メディックが彼の意識が失われているのを確認すると実況に連絡した。
そして、連絡を聞いた、クロノは大きな声でその決着を告げる。
「四季祭「春」準決勝第二回戦勝者は!!!!!!!!アラン・カロ選手!!!!!!!!」
立った者は勝者にあらず、残った者が勝者である。
その事実を頭では理解していても体がそれに追いつけない。自身の勝利を噛み締める事はできず、一人残されてしまったアランは吐露できない気持ちを抑えられなかった。
四季祭「春」準決勝第二回戦
アラン・カロVSレイズ・ヴァリティタス
勝者 アラン・カロ
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