三十章 四季祭「春」 其の拾参
サクラコ裏話
アランは塔の子供達 (バベル・チルドレン)。
最後の戦いで彼は武器ではなく人となった。それをもたらしたのはかつて世界を破壊した魔王。
桜子と崩の試合の熱が冷めない中、次の二人はすでに舞台に立っていた。
「第一試合の熱は冷めぬまま!四季祭「春」準決勝第二試合へと参ります!!!!亜号奈々選手と死闘を繰り広げ、拡張と言う敷居を見せつけたレイズ・ヴァリティタス選手と一回戦、自身が傷つくことを恐れず、淡々と相手を追い詰めたアラン・カロ選手!第一試合にも勝らぬとも劣らぬ顔ぶれです!それでは参りましょう!試合開始!!!!」
「「起動」」
互いに叫ぶと自らの因果を武器にした幻想換装が現れる。
手に握られた瞬間、レイズが走り出した。
アランとの距離を一気に詰めると握られた得物を全力で振るう。
手に握られた時点でアランは自らが傷つくことを知った上で口を開いた。
「神秘解放、両性有神」
頭上には輪っかが現れるもレイズの振るう鎌が彼の体を傷つけた。
血が流れる中、変化した銃の先をレイズに向けると何も言わずに引き金を引いた。
間髪入れぬ間にレイズもまた、銃弾を前にして声を上げる。
「神秘解放、夜乃神」
頭上に輪っかが現れ、変化した杖を前にすると彼は銃弾とアランの体目掛けて、自らが持つ神秘をぶつけた。
「夜乃神・重力」
銃弾は地面に落ち、アランもまた膝を着く。
そんな彼を見るレイズの目には怒りが込められており、重力はそれに伴い、かつてないほどに力強くなっていた。
「怒っているのかい?」
アランは笑いながらそう言うとレイズは睨みつけながら応える。
「怒ってなんかいない」
「へぇ、その割には力み過ぎてる気がするよ」
押しつぶされているのに喋れるアランに対して、レイズは淡々と重力を与え続け、彼がなるべく早く潰れることを望みながら全力を注いだ。
「俺は、俺の前に立つ障壁を全力で潰すだけだ。それが桜子であれ、お前であれ、誰であれ」
杖を握る力を強め、更に重力を強めようとした瞬間、アランは潰されながら不気味に笑い始めた。
「何がおかしい?」
「おかしくなんてないよ。ただ、君は嘘をついてる。怒ってないは嘘だ。僕に傷つけられた旧巣さんの敵討、そんなところかな。ああ、ムキにならないで。僕はね、人の感情がある程度分かるんだ。僕の神秘の特性上ね。だから、僕の前では素の自分を見せて?もっと感情を露わにしてほしいんだ」
「そうか、なら、加減はいらんな。俺の神秘は黒を司るモノ。ぶっ潰れろ」
激情。
それはレイズがこの学園に来て以来、一度たりとも見せたことない感情。
感情の昂りと神秘の開示により、神秘はそれに応えるように彼の体に回る量が跳ね上がった。
(ああ、その感情の昂り、高まり。君が僕に向けるのは怒りなんだ。そうか、君は思ったよりも友達思いんなんだね)
アランは笑いが止まらなかった。
溢れるようなそれは自身の感情に名をつけたいほどに溢れ出てくる。
故に、アランは魅せようと決めた。
彼になら魅せてもいいと思い、レイズと同じことをした。
「神秘拡張、夜乃神監獄」
「神秘拡張、両性有神饗宴」
「は?」
互いの武器が変化し、頭上にある輪っかが二本となる。
そして、レイズは初めて動揺した。
それは声に出てしまうほどであり、自身の神秘の重力を強めたのにも関わらず、アランは自身の神秘で身を守り立ち上がった。
その動揺を縫う様に、レイズは自らが握る変化したライフルの一箇所が開くと六機のドローンが現れ、それらはレイズを捉えた。
「両性有神饗宴・笑曲」
一糸乱れぬ速度で、それは放たれ、レイズの体を貫くと幾つもの部位に紋様が現れた。
「踊り狂って笑わせて」
アランがそう一言残すと手と手を鳴らし、それに合わせてレイズの腕が自ら捻じ曲がろうと動き出す。だが、レイズは自身の神秘を全力で身体中を覆うとその自身の神秘を自身にかけた。
全身に重力が襲いかかるも膝をつくことなどせず、彼はそれは自らが常に背負っているものと知っており、握る得物を持ってアランの体を切り付ける。
他人の神秘の影響を受けなくする方法。
それは自身の神秘を持ってその部位を纏わせ、相手の神秘を中和することが出来る。
だが、レイズを攻撃したアランの神秘。それは全身にも及んでおり、全てを中和するのは不可能とレイズは判断した。
故に、彼は自身の神秘で中和するのではなく、自身の神秘による上書きを選択した。
神秘拡張により、重力の力は比べ物にならないほどに上がっているにも関わらず、レイズは神秘を持ってして、無理矢理にアランの神秘を打ち消す。
その選択を、なんの躊躇も躊躇いもなく、速戦即決した。
レイズの手に握られた鎌により、血を流すアラン。
そんな彼は何が楽しくて何が面白いのかそんなことを他人に理解されなくてもいいと、不気味に微笑んだ。
(うん、強い。しょうがない、祈るか。僕の神様に)
考えたのも束の間、自身が敵対する夜の神から声がした。
「夜乃神監獄・連鎖重力」
切りつけたくらいでは倒れることなどないと確信していたレイズは更にアランに向けて自身の神秘を放つ。
一度、二度、三度、四度、五度。
一気に重力が重なり、アランは地面に膝をついた。
体を自身の神秘を纏うことでレイズの神秘を中和しようとするものの彼の放つ重力は全力の亜号奈々ですら動きを止めるものであり、一介の兵士では指一本動かすことは不可能である。
徐々に地面に体が減り込み始め、思考も停止始める一方、アランは考えた。
(重い、重い、重い、あー、重い、これはあなたが与えた試練なのですね。あなたが、私に与えるモノなのですね。あの時の様な、全ての戦場が更地になったあの日の様な、なら、僕は、あなたのために、あなたを崇拝するモノとして捧げます。僕の全てを)
彼は思い返す、かつて見た光景を。
塔の捨て子としての、最後の戦争を。
そこで見た、魔王の存在を。
そして、彼女のおかげで自身が初めて人になれた日を。
思い返す共に骨が軋む音を感じながら重力の底を立ち上がった。
「死ぬぞ?」
レイズがかけた言葉に対してアランは笑いながら答えた。
「死ぬ?死ぬのが君は怖いのかい?そうか、それはそうだ。僕は、いや、僕らは死ぬのが、痛みが、人が恐怖する感覚が無い。だから、怖くない。怖くないから、僕は今から喋り続ける、僕の神秘は感性を司るモノ。見せてあげる、神秘の到着点、神秘応用を」
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自作の続編でもあるのでもしよろしければこちらも是非!




