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二十九章 四季祭「春」 其の拾弐

サクラコ裏話

(ホウ)の補足。

(ホウ)は生まれた時から因果がない。故に、因果に眠る神秘を引き出すことが出来ず、幻想換装(ファントム・ユニット)すら出せない。だが、それは不幸なのではなく、ギフト。神秘を対価に研ぎ澄まされた五感と神秘を必要としない究極の肉体を得た。(ホウ)はその能力を使い、神秘を持つ者たちには見ることが出来ない自分だけの感覚を持っており、神秘もそれで何をしているのか等を理解している。これら全てを使って(ホウ)は空気を面として捉え、それを武器に用いている。


 空気を面とし捉え、握り締める。

 (ホウ)は自らの肉体に神秘が、それどころか幻想換装(ファントム・ユニット)すら出せない、今の人間にとって必要な物が欠落していたと考えていた。


 それが人間がいずれ辿り着く場所である事、完成されていた肉体である事を理解せず、いや、知ろうともせず、ただひたすらに普通を目指し、己を鍛え続けた。


 故に、得た() (ホウ)のみが使える、オリジン。

 (ジン)ですら、神秘を持つ者全てが辿り着けない領域の極地(わざ)


 全てを用いて立ち上がる桜子(さくらこ)へと自身の全力をぶつけた。


牛頭(ゴズ)


 足を使い空気の面を捉え、離れている桜子(さくらこ)へ蹴りを放つ。


 桜子(さくらこ)へと迫る不可視の物理攻撃、彼女はそれを杖のように扱っていた剣を振るい、斬った。


「気づいたのか?この技の正体を?」


 (ホウ)は嬉しそうに声を上げると桜子(さくらこ)は目を見開き応えた。


「なんとなく、ゲホッ、いっっった、ゲホッ、なんとなくだけど見えてきた。空気の壁、いや、空気を一つにまとめて作り上げた空圧の塊、それをぶつけてたんでしょ?」


「そうだ、やっぱりお前すごいな」


「お褒めいただき光栄。でも、もう、私も限界だからさ、とっとと決着つけよう」


「そうか、そうだな、どんなに楽しいことであっても終わりはある。それがここだと言うのなら、幕締めと行こう」


 笑う(ホウ)とそれを見据える桜子(さくらこ)

 試合もまた最終局面。


 その終わりに踏み込んだのは彼女との試合を一番に楽しんでいた(ホウ)であった。


竜鬼(リュウキ)


 桜子(さくらこ)の目の前で突きを放つと彼女はそれを斬り伏せる。


 だが、(ホウ)にとってそれは予定調和であり、今の桜子(さくらこ)であれば簡単に出来てしまうと言う確信を持っており、すでに次の攻撃に移っていた。


 (ホウ)は握るだけではなく、凡ゆる形でも空を面としても捉えれる。


 握る拳を解き、手刀へと変化させると共にそれを振り下ろした。


王剣(オウケン)


 空圧の斬撃。

 それすらも桜子(さくらこ)は最低限の動きで斬った。


火火騎(ヒビキ)


 間髪を入れずに(ホウ)の足が空へと向けられ、振り下ろす。


 空気の斧を桜子(さくらこ)は斬った。

 

忌刃(キバ)


 斬る。


夏歩都(カブト)


 斬る。


殿翁(デンオウ)


 斬る。


実禍(ジッカ)」斬る

二狼(ニロウ)」斬る

三途(サンズ)」斬る

四是(ヨンゼ)」斬る

五魔(ゴマ)」斬る

六武(ロクブ)」斬る

七轟(ナナゴウ)」斬る

八魂(ハッコン)」斬る

九博(クハク)」斬る


十兎(ジュウト)」「魔桜一刀流、無龍(むろん)十束(とつか)


 斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬り伏せる。


 (ホウ)が見せる技を、全て、全て、斬り伏せ続け、(ホウ)もまた、それを良しと放った。


 例え、自身の肉体に限界が来ようとも、彼は今を全力で生きるためにその力を振るい続ける。


 幾星霜の連撃の最中、桜子(さくらこ)は自身の体の限界が近づき続けているのを理解していた。


 精神の限界よりも早く訪れる肉体の限界。

 だが、その極地、自身のギリギリを持って、彼女は掴んだ。


 神秘の感覚。

 自身の持つ神秘の量と質、そして、かつて自分の幻想換装(ファントム・ユニット)が一つであったことを。


 それらを持って、今、(ホウ)に自身の全てをぶつけようと桜子(さくらこ)は一歩、踏み出した。


「魔桜一刀流、無龍(むろん)我戟(がげき)


 目にも止まらぬ連撃は、(ホウ)の肉体の絶対性を崩した。


 両腕にぶつけられたそれは皮と筋肉という鎧を突き破ると人体の弱点、内臓へとダメージを与える。


(さっきよりも、いや、今までで一番、重い!?)


 骨すらも貫通する桜子(さくらこ)の斬撃、それは彼女が自身が垂れ流すだけの神秘を御したことで生まれた。神秘の制御により、無駄の無くなった桜子(さくらこ)の一撃は、相手に打つかった瞬間に一気に神秘を解放出来る。


 神秘とは己の因果を理解すことで引き出す力。だが、幻想換装(ファントム・ユニット)はその因果を模したものであり、とある者が導き出した方法を用いれば幻想換装(ファントム・ユニット)からでも神秘の力だけを引き出す事が可能ではある。


 ただ、その方法は極めて困難に近く、一部の強者のみが挑み、掴む事が出来る極地。


 桜子(さくらこ)は自ずと知らずにそこに足を踏み込み、そして、それと同時に、己の武を、彼女だけのオリジナルを完成させた。

 

 そして、それらが功を成し、(ホウ)の足が一瞬だけ、ほんの一瞬だけグラつかせる。


 これまでの蓄積と今の連撃。

 腕で受けたはずの攻撃が足にすら響き、(ホウ)は初めて動揺した。


 動揺と言う感情は至近距離の桜子(さくらこ)だけが感じ取っており、彼女はそれを見逃さなかった。


「魔桜一刀流、無龍(むろん)一揆(いっき)


 頭上に振り下ろされた一撃は脳を、神経を揺らし、シェイクする。


 先程とは違う、軽い脳震盪なのではない。

 平衡感覚を一瞬にして奪われ、(ホウ)は初めて全身を地面に伏した。


(た、てないだと?頭が揺れるどころか、内臓がひっくり返る感覚。初めてだ。全てが初めてで全てが未体験)


 関心と驚き。

 それらが混ざり、思考と感覚が溶け合う。

 初めての死地、そこに立つと同時に平衡感覚がほとんどない状態であるにも関わらず、(ホウ)はふらふらとしながら立ち上がる。

 

「まだ、立つんだ?」


 桜子(さくらこ)は苦笑いをしながら(ホウ)に問うと彼はそれに応えた。


「立つさ、お前に勝ってないからな」


 ハッキリそう言うと拳を前にし、構え、最後の一撃を、己が今放てる全てを、限界を無理矢理にこじ開け、跳んだ。


 空気を面として捉えれば、空すらも跳び駆ける。

 高く高く、先程よりも比較にならないほど高くに飛び、最後の一撃の準備をした。


 凡そ100メートル、米粒ほどしか見えない桜子(さくらこ)目掛けて、(ホウ)は持てる全てをぶつけるために叫んだ。


覇号時空王華(ハゴウジクウオウカ)(カイ)


 形だけを決めて、あとは身を任せ落ちるだけ。

 高空から放つ、必殺の蹴り。

 (ホウ)桜子(さくらこ)を確実に仕留めるために放ったそれは、彼女の避ける場所無くすために舞台(フィールド)全体に及ぶ空圧を纏っていた。


「んなこ事しなくても、受けてやるっつうの!」


 見えぬ壁、(ホウ)が放つ最後の一撃、それを前にして、桜子(さくらこ)は満遍の笑みを浮かべて剣に、自身の持つ全力の神秘をこれまでとは違う、垂れ流すのではない、一点に、一つに集約した形で流し込んだ。


 握る柄から剣先まで全てに神秘が詰まった(それ)を、桜子(さくらこ)は軽く振るった。


 相手に無礼を働くために力を抜いたのではなく、自らが持つ、最大限を放つための脱力。


「魔桜一刀流、無龍(むろん)残華(ざんか)


 脱力からの一気に力が入り、桜子(さくらこ)の放った一閃は眩い光を放つと辺りを包み込み、観客達すらも巻き込んだ。


 そして、光が収まり、観客達は舞台(フィールド)を目にするとそこには地面が抉られているものの誰一人倒れておらず、桜子(さくらこ)(ホウ)の両者が立っていた。


桜子(さくらこ)、俺は完全勝利のためにここまでした。何が俺とお前の暗明を分けた?」


 (ホウ)が問うと桜子(さくらこ)は口を開く。


「さぁね、でも、完全を目指したからじゃない?」


「そうか」


 一言残し、() (ホウ)は地面に倒れ込む。

 その顔には一切の悔いはなく、全てが満ち足りていた。


「四季祭「春」、準決勝第一試合勝者は!!!!!!!!!!!(はかり)桜子(さくらこ)!!!!!!!!!!!!」


 クロノの声が聞こえ、自身の勝利が確定した瞬間、桜子(さくらこ)もまた同様に地面に倒れ込む。


 歓声の中、運ばれる桜子(さくらこ)もまた、満足気に微笑んでいた。


 四季祭「春」準決勝第一試合

 秤桜子(はかりさくらこ)VS () (ホウ)


 勝者 秤桜子(はかりさくらこ)

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自作の続編でもあるのでもしよろしければこちらも是非!

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