二十八章 四季祭「春」 其の拾壱
サクラコ裏話
崩は肉体の一部に意識を集中させることで必殺へ昇華させるという刃が生んだ技術をよく使っている。意識の集中とは拳を鉄であると思い込むことで鉄同様の硬さへとする方法。
桜子は崩に自らの攻撃が効いていることを一瞬にして見抜くとすぐさま攻撃に移っていた。
咄嗟の判断にも関わらず、桜子は迷うことなく踏み込むと再び四本の浮遊剣を崩にぶつけるために声を上げた。
「魔桜五刀流、夜鶴・一閃! 」
浮遊剣は四つ横並びになるとそれらは桜子の指示により、一気に崩の体に振り払われた。
そんな攻撃を崩もまた、気づいており、自分の体に放たれた四つ剣撃に対応する。
「覇号鉄鋼砲」
自らの腕に全ての力を込めるとそれを剣撃向けて放った。
四に対して一であるにも崩の放った一撃はそれらを蹂躙する。
だが、それは桜子も知っていたことであり、それが狙いであった。
「魔桜一刀流、無龍・散華」
崩の全力の一撃に生まれる隙、それを察し、彼女は自らが間合いに入り込む。
手の剣だけを携える桜子の体は先ほどよりも強い神秘を纏っていた。
放つは一振りの剣による連撃。
両肩、両太もも、最後に顔。
崩の体に神秘を纏わせた攻撃を打つけ、彼の体を傷つける。
明確に切り傷が生まれ、無敵と思われていた崩は膝をついた。
刃以外で崩が膝をついたのは初めてであり、彼自身もその事実に驚かされていた。
(頭を揺らされたのか思ったよりも足を動かせない。こう言う時は)
そんなことを思っている最中でも、桜子は既に次の攻撃に移っていた。
剣を振り翳しているのに対し、崩は自らの揺れる脳内を落ち着けるために軽く自身の顎を小突いた。
揺れていた脳内を、自身の拳を使った逆振動を起こし、無理矢理止めると桜子の攻撃に応えるように拳を振るう。
すぐさま立て直す崩は牽制のため蹴りを放ち、桜子はそれを防ぐとすぐさま四本の浮遊剣を集め攻撃を放った。
勝利に貪欲に、自らが持ち始めた負けん気に、従順になった桜子は止まる事を知らず、彼女に回る神秘も同様に大きくなって行く。
そんな中、崩はそれら全てを見切り、桜子の攻撃に応え始めた。浮遊剣が放たれる軌道を読み、避けると同時に放たれる連撃を蹴りを用いてふるい落とす。
瞬間、彼らは互いの顔を見合い笑うと同時に、己が勝利のため、自身の持つ武器を振るった。
***
「李 崩、神秘解脱者か。神秘を捨てる事により、神秘を持つ者同様、いや、それ以上の肉体が得られるある意味、あなたが目指しているものとも捉えれるんじゃないか? 」
暗い部屋の中でグレイは一人でに呟くと彼の座る椅子の背後からぬるりと影が現れた。
片腕に額縁を手に持ち、杖をついた銀髪を長く伸ばした青年は口を開く。
「あれは進化の究極系さ。いずれ人類は神秘から解脱する。その未来は確定してるからね。でも、それは僕たちが求める神秘の究明とは違う」
「そうか、なら、仕方ないな。じゃあ、秤桜子、彼女のことはどう思う?俺が拾えない情報はないはずなのにこの女だけはなんのデータもなかった。あれは一体何者なんだ? 」
グレイが少し食い気味に聞いてくるのに物珍しさを覚えたのか青年は楽しげに応えた。
「うーん、実はあれは僕にもさっぱり分からない。ただ、彼女はまだ本来の力を発揮出来てないね」
***
崩は考えていた。
桜子の止まぬ連撃をどう切り抜ければ良いのかを彼女の攻撃の一挙手一投足、全てを観察する。
(浮遊剣は攻撃に徹してる。ただ、攻撃してるのでは無く、二本が攻撃するタイミングでは残り二本は防御に向かう。俺の攻撃を受けているにも関わらず、これだけの動き、恐れ入った)
打ち合いの最中、分析が終わると崩は自らの足に力を込め、一瞬にして桜子から距離を取る。それと同時に全身に力を入れ、自身の、いや、崩だけが可能とする技術を見せつけるために呟いた。
「喰我」
崩は深呼吸をし、全身の力を一箇所に集中させると彼の武器である拳、それを今の戦いではない程の全力で振るった。
次の瞬間、桜子の体が何かによって吹き飛ばされた。
唐突に、自身の体が浮き、何で攻撃されたのか分からない桜子であったが四本の浮遊剣達は彼女を守る様に回転している。
だが、そんなことは崩には関係ない。
彼女と距離はいまだに変わっていないのに浮いた体目掛けてアッパーすると同時に再び口を開く。
「亜戯斗」
桜子は更に高く宙に浮いた。
地面との距離はおよそ30メートル、浮いた感覚と味わったことのない浮遊感に桜子は戸惑った。
(何これ?!私浮いてる!?てか、これヤバい!?絶対、何か、来る! )
そんな事を考えたのも束の間、地面には崩の姿は在らず、見当たらない。
「覇号時空王華」
その声が桜子よりも高くから聞こえた瞬間、体に崩であろう者の足がぶつかり、彼女は急転直下した。
崩が放ったのは上空50メートルからの飛び蹴り。
浮遊剣全てが彼女を守ろうと壁になっていたもののそれすらも踏み躙り、その一撃は桜子を形容するもの全てを地面に叩き落とす。
ドゴンという重い音が鳴り響き、その場にはクレーターの様なものが生まれていた。
そして、その場に立ったのは崩のみであり、剣の下敷きになっている桜子は動かない。
***
「これ重い! 」
大剣を振り回す桜子を見て、母親は大剣に手を置いた。
「ふふ、今のあなたには重いわね。少し弄るから待ってなさい」
そう言うと大剣に手を置き、輝くとそれらは五つに分かれ、四つは少女を守る様に彼女の周囲を浮き始めた。
「何これ!どうやったの!? 」
「秘密、でも、これなら大剣じゃなくて一本だから使いやすいでしょ? 」
ニコリと笑う母に対して桜子は嬉しそうにこたえた。
「うん!ありがとう、お母さん! 」
***
(あ、今、のそ、うまと、う?ぶえ、内臓が痛い、いや、骨も軋んでる、あはは、でも、さっきのでわかった。あや、理解したかも。私の本来の形)
そんな事を考えながら浮遊剣の下敷きになった体を起き上がらす。
浮遊剣を動かすことは出来ず、重くのしかかる鉄の塊をなんとか退けると手に握っていた剣を杖の様に使いながら立ち上がった。
「まだ、立つか」
崩は少しばかり驚いた反応をするもののその顔は嬉しそうにしており、彼の尽きない闘志を激らせる。
一方で、視界もボヤけ、すでに限界を超えている桜子。足腰は震え、口には血の味が広がり、手も自由に動かない。そんな中、自らの幻想換装の起源を死地の手前で見たことで彼女は立った。いや、立ってその、自らが知った起源を元に掴んだ感覚、溢れ出す神秘の制御を崩という最高の相手に対して見せたい。
それだけを思い、桜子は立ち上がると声を上げた。
「立っちゃダメだった? 」
「いや、最高だ」
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