二十七章 四季祭「春」 其の拾
サクラコ裏話
桜子は甘いものが好き。母親の影響で様々な茶菓子を嗜んだ結果、紅茶や、珈琲などの飲み物と合うお菓子が大好きだよ。
「四季祭「春」、二日目準決勝!!!!前口上なんて要りません!準決勝第一試合はコイツらだ!!!! 」
実況の声に合わせ、二人の戦士が歩くスピードを同じにすると彼らは姿を現した。
四季祭「春」準決勝第一試合
秤桜子VS 李 崩
***
崩と桜子が舞台に立つと実況は興奮気味に声を上げた。
「第一試合から最高の盛り上がりを我々の魅せてくれた秤桜子選手と一撃でアストラ・ディオナ選手をのした李 崩選手。両者共に決勝に上がるに相応しいポテンシャルを兼ね備えております!それでは参りましょう!試合開始!!!! 」
クロノの声が聞こえた瞬間、桜子は口を開く。
「起動」
四つの浮遊剣が現れた途端、崩は踏み込むと同時に彼もまた口を開いた。
「歩腹絶砲」
観客の視線が注がれ、崩を追っていた者が殆どであったのにも関わらず、彼は姿を消した。
消えた瞬間に桜子の目の前に現れており、崩は容赦なくその手に拳を握りしめて振るった。
重い一撃が放たれるも桜子はそれを四本の剣で防いでおり、それらを自分の周囲で回転させ、攻撃に転じる。
崩の一撃を受けた桜子はその重さに驚かされながらも持つ四つの浮遊剣を彼に目掛けて放つ。
一つ一つが明確に崩に対しての研ぎ澄まされるような闘志が込められており、桜子の本気が伝わると彼はそれらに対して全力で対応しようと駆けた。
一本目を拳で叩き落とし、二本目を蹴りで弾く。
一切の無駄を省いた動きで桜子との距離を詰め、互いの間合いに入った瞬間、彼らは声を上げた。
「魔桜三刀流、似鳥・一振り」
「歩腹絶蹴」
桜子は残った浮遊剣と握る一振りの剣を全力で振るうもそれら全てを崩は己が持つ力と技術で蹂躙する。
彼の体目掛けて放たれた二本の剣が自身にぶつかる直前、それらを両手で白刃取りすると桜子が振るう剣目掛けて蹴りを放った。
剣と蹴りがぶつかり、重い音が鳴り響くと桜子の体は壁に打ち付けられていた。
(いったぁ!私より動体視力がいい!いや、良すぎる!)
そんなことを思ったらのも束の間、壁に打ち付けられた桜子目掛けて崩は距離を詰めた。
そんな中、桜子はその場から動かない。
壁に追い込まれたのか逃げることを諦めたのか。
観客は桜子の動きに視線を浴びせると彼女もそれに応えようとする。
「魔桜三刀流、似鷺・一刀」
最初に放っておいた二本の浮遊剣が崩の無防備な背中に放たれた。
わざと放っておいた浮遊剣二本は桜子の指示に従い、崩目掛けて放たれ、その背中に突き刺さろうと襲いかかる。
伊織との戦闘で見せた技は戦神の神秘を持つ彼女であるが故に反応出来ていたものであり、本来であれば避けることの出来ない不可避の連撃であった。
それを再び迷うことなく桜子は行い、崩に対して一撃を喰らわそうとした。
だが、その考えが、その判断が彼女の命取りとなる。
崩に向かう二本の浮遊剣を彼はギリギリで反応した。
「覇号鉄鋼斧」
そう一言残し、踏み込むと桜子目掛けて回し蹴りをする。それは彼女の体もろとも巻き込み、自身に襲い掛かる浮遊剣の防御へと繋げた。
桜子は蹴りの強襲を防いではいたもののそれにより自分の体が巻き込まれたことに気づくのに数秒かかった。
浮遊剣と桜子は吹き飛ばされ、上手く着地がすることが出来ず、地面に転がるとそれを見ていた崩が喋りかけた。
「桜子、終わりか? 」
その言葉からわかる通り、彼は自分が彼女と戦うことを望んでいた。それは自身が思う以上に強く濃かった。
李 崩は生まれながらの従者である。故に、自身を面に出すことが少なく、常に自分を引っ張ってくれる様な人間の側にいた。
刃が言うから特訓する。
勿が言うから着いていく。
自主的に行う特訓ですら自分のためではなく、自身が師事する主人のため。
だが、自分を、自分と言う欠陥品を認めてくれた者がいた。
それが桜子であった。
自身の欠陥を笑うことなく、強さと言い切り、自分と全力で鎬を削ってくれる。
崩は刃以外で初めて自分自身で興味を持てた人間であった。
故の、言葉であり、煽りでなどではない。
純粋な気持ちから来る激励。
それを聞いた桜子は握っていた剣を支えにして立ち上がると応えた。
「まだまだ!こっちもようやく温まって来たくらいだよ!」
***
「ヒュー、やるねえ崩とか言う奴」
病室のベットの上で試合を鑑賞する伊織はそう言うとニコニコとしていた。自分を倒した桜子の姿が戦う姿に対しての悔しさなどは無く、むしろ、彼女が崩勝つことだけを思い応援すらしている。
そんな横で試合を眺めるもう一人の男の姿があった。
薄紫の髪を短く整え、左右別々の色をした眼でテレビを眺めながら口を開く。
「今の連撃、間もタイミングも全部完璧だ。それを知ってるからこそ蹴りで根こそぎ吹き飛ばしたって感じだな。言うは易し。実際やるってなると相当な力と技術が必要だ」
「つーか、ヒナタ先輩〜、俺なんかに構ってていいんか?マガツ会長怒んないん? 」
「会長はそれくらいで怒るわけない。それよりお前はどっちが勝つと思う?この試合」
「んー、押してるのは崩だな。ありゃ、俺でも本気でやってギリギリ届くか届かないか。だがな、桜子は追い詰められてからが本番だ」
***
桜子は浮遊剣四本の剣先を崩に向かう様に回転させると残った一本を握りしめて構えた。
観客の一部の強者達は彼女の体に神秘が回り始めたことを知ると試合勝敗はまだつかない事を確信しており、どうなるか目を惹きつけられていた。
先程の桜子の応えに満足が行ったのか崩は最初同様に踏み込んだ。一瞬にして彼の姿が消えると桜子との距離を詰め終え、拳を振るう。
桜子は気づいておらず、その一撃が再び彼女の体を吹き飛ばすと思われた。
しかし、浮遊剣、いや、浮遊剣だけがその場で崩の事を察しており、周囲を回っていた彼らは自らの主人に自身が感じた情報を彼の攻撃が打つかるよりも早く伝えた。
「魔桜五刀流、夜啄木・一矢」
そう言うと崩の攻撃をギリギリでいなすと同時に、いなした力を使い彼の体に剣身をぶつけた。
崩の学生服の一部が破けるもその肉体には一切の傷がつかない。
桜子はすぐにそれを察し。次の攻撃に移った。かつての彼女であれば自身の得意とする間合いまで距離を取っていた。しかし、それは、それではダメだと言うことに気づく。
ヒビキとの特訓と伊織の試合。
両方により、得た桜子なりの自身の弱点の見解。
それは自身の負けん気不足。
負けたくないと言う気持ち、それがハッキリと足りなかった。
だが、今は違う。
彼女は以前よりもはっきりと浮遊剣の操作が効く事、また、何かが自分を纏っていることを理解していた。
理解しているからこそ、今、桜子は自身の成長と勝利のために踏み込んだ。
「魔桜五刀流、夜燕・一月! 」
四本の浮遊剣は崩の体にぶつかると彼の体を宙に浮かす。
そして、浮いた体目掛けて桜子が走り込み、自らが握る剣で突きを放った。
自らの体が吹き飛ばされ、完璧なまでの崩しを喰らった崩。
桜子の放った突きは内臓に染み渡り、口からする鉄の味に彼は自然と笑みを溢した。
自ら進んで得た傷と痛み。
自分の選択がもたらした結果により、得ることが出来た傷に対して、崩は喜んでいた。
笑う崩に対して桜子もまた笑っていた。
崩が見せた笑みと桜子が見せた笑み。
互いに戦いでのみ得られる愉悦を貪欲に求める様に激しさを増していく。
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