二十六章 四季祭「春」 其の玖
サクラコ裏話。
斗南ツクヨと斗南ヒナタは双子の姉弟。
ツクヨが姉でヒナタが弟。
ツクヨは元々ソドラ学園の風紀委員候補生だった。
会場は騒然としていた。
第三試合、アストラ・ディオナVS 李 崩の対決は始まったほんの数秒で終わりを告げていたからである。
李 崩は一言、「歩腹絶砲」と残した瞬間、アストラ・ディオナは壁に体が埋まっていた。
反応しきれないほどの速度に加え、一撃で強者を屠る彼の姿に観客は湧いた。
「?! え、もう、え?! ア、アストラ選手は立ち上がる素振りを一切見せません!え、えーと、一回戦第三試合勝者は李 崩選手だ!!!! 」
四季祭「春」 一回戦第三試合
アストラ・ディオナVS 李 崩
勝者 李 崩
***
「あはは!あいつつまんな!何やってんだよー。崩〜。あれほど戦いを楽しめって言ったのに一撃で終わらすなんて」
「君と違って真面目なんだよ〜」
悪態をつきながらもニコニコと笑顔を浮かべており、その横にいたツクヨがそれに反応した。
「真面目すぎるのも玉に瑕だぜ?まぁ、んなこと今は置いといてだな。なぁ、ツクヨ、俺に用があってからここにいんだろ?役員達と一緒に見ずにわざわざ俺のところまで来るなんて不自然すぎるだろ」
「あははは、バレてたか。まぁ、いいよ。刃くんはそういう勘はよく当たるからね。うん、じゃあ、単刀直入に言っとく。私の身に何かあったら学園を君に任せたいと思ってね」
唐突に放たれた言葉に首を傾げ、訝しみながら刃は口を開いた。
「どういう事だ?さっきの言葉、引き摺ってんのか?あれそんなに怒らせるような言葉だったら謝るぜ」
「あれに関係してる、というか、いつか来るかもしれない未来のために言ってるって感じかな」
「ふーん、俺はこう言う駆け引きすんの面倒だからしないけど。俺とお前の仲だから、聞いてやる。どんな未来が待ってるか知らないけどなー」
「ふふ、刃くんのそういう所を買ってるからこそのたのみだよー」
「そうか!なら仕方ない!任せろよ!あ、もし仮にお前が敵になった場合はどうする?アマルスクールの面々に殺されたいとかあるか? 」
笑顔で放つには物騒な言葉を刃は平然と言うもそれに対してツクヨも柔らかそうな笑顔からは想像できない言葉で返した。
「いや、その時は君の手で殺してよ。本気の死合をしよう。その代わりにみんなには見えないところでね」
***
(ううう、みんな、二回戦突破した。私も、私も頑張んないと)
結衣は入場口で一人、気合を入れるために頬を叩くと立ち上がった。
その横にはすでにアラン・カロの姿があり、彼はぼんやりと会場の方をながめている。
(アラン、君?だっけ?こ、怖いんだよね、正直、やりたくない。何考えてるか分かんないし、前も平然と桜子ちゃん狙って撃ってたし、多分と言うか確実に躊躇いって言う言葉がないタイプ、ううう、考えただけで吐きそう)
そんなことを考えているといつの間にか入場口が開いていた。
結衣は慌てて駆け出すと歓声と興奮が自分に浴びせられる。吐きそうな気持ちを抑えつつ、アランの対面に立つと役者が揃ったと言わんばかりにクロノが声を上げた。
「両選手気合充分と言った感じですね!彼らと観客のためにパッパと始めちゃいましょう!試合開始!!!! 」
試合開始の合図とともにアランと結衣は起動詠唱を口にした。
「「起動」」
互いの手に握られた大型ライフルを瞬時に構え、引き金を引く。
それはほぼ同時、一糸乱れぬ時間に行われると互いの弾丸は互いの頬を擦り血が流れた。そして、また引き金を引いた。
仁王立ちの状態でライフルを引く様は異様とも言えるがそんなことをお構い無しにと何度も、何度も弾丸を放つ。放った弾丸は互いを貫く事なく、弾丸同士ぶつかり撃ち落とされた。
「うん、やっぱり強いね、旧巣さん」
アランが引き金を引くのを急にやめ、話しかけると結衣もまた引き金を引くのを止めた。
(え?今話しかけた?や、やめてほしいな。話したことない人と話したくないし、話せないし、う、、でも、なんか言ったほうがいいし、ううううう)
「あ、ありがとう、ご、ございます」
片言な返しをした彼女を見て、アランは優しそうに微笑むと再び口を開いた。
「そんな君だからこそ本気で戦いたい、戦ってみたいと思った。この前の最高にカッコイイ君を魅せてよ」
「神秘解放、両具有神」
アランの頭上に黄色い輪っかが生まれると手に握る得物が姿を変えた。その瞬間、いや、そこを狙ったかの様に結衣は引き金を引いた。
アランの武器が変化する直前、彼の肩を弾丸が貫いたと気づいた瞬間、太ももからも血が流れていた。
「容赦が無いね、旧巣さん。でも、この攻撃方法とタイミング、僕と同じ場所にいた証拠かな? 」
ダクダクと流れる血を見て嬉しそうにしているアランを見て、結衣は躊躇いなく引き金を引こうとするもの彼女の近くを浮遊する何かの存在に気づくとその場を離れようとした。
結衣の上空にはドローンの様なものが旋回しており、それに気を取られていたのかアランの銃口が彼女に向けられていたことへの気を取られた。
「両具有神・狂詩曲」
銃口から放たれた弾丸は結衣の左足の太ももを貫くと足に紋様の様なものが浮かび上がる。それが何を意味するのか、結衣は予選での記憶を思い浮かべると自身の足をライフルについていたナイフを手に握り、一切躊躇うことなく、自ら傷をつけた。
唐突な自傷行為に騒然とするもののアランだけは嬉しそうにしており、彼は結衣に喋りかけた。
「一見見るとトチ狂った様な動き。でも、僕の神秘の能力に気づいているからでしょ? 」
「え、えー、と、は、はい。い、一度見れば分かるので」
「そっか、なら、これならどう? 」
旋回していたドローン二台の砲台が結衣を狙うとそこから攻撃が放たれた。彼女は簡単に避けるもそれは誘導であり、アランの銃口が向けられていた。
引き金を引いた瞬間、彼女もまた神秘を解放しようと口を開く。
「神秘解放、双星神」
結衣の握る得物が姿を変え、三日月の輪っか頭上に顕現すると神秘が身体に回ると一箇所に神秘を集中させた。
アランの弾丸が結衣にぶつかるも貫くことなく、先ほど同様の紋様は現れなかった。
(やっぱり、神秘を集中させておけば打たれた箇所を守れる。これなら相手の攻撃を予想、ドローンのも予想、神秘を移動、攻撃への布石も、同時に四個か、うん、出来る)
結衣の神秘は平行処理思考。
同時に六つまでの思考を同時に処理できる能力。
それを用いて思考をまとめるとアランに銃口を向け、互いに引き金を引いた。
アランの攻撃には自身の銃弾を、そして、ドローンから放たれる攻撃には神秘を集中させて防御。
それと同時に、結衣は駆ける。
アランとの距離をわざと詰める愚行にも似た動きであるものの彼女だけはその答えを見つけていた。
「神秘拡」
神秘のギアを上げようと声を上げようとするものの結衣の完全な死角を突き、彼女の右足が弾丸を貫いた。
完全に見えない角度の攻撃に結衣は動揺する。
その一瞬の判断の遅れ。
それが仇となる。
「旧巣さん素晴らしいよ。僕の能力が当たった箇所の操作であることを理解していて、尚且つ、神秘を堅めて纏った箇所は貫けず、操作権を奪えない。そこまでをあの一瞬で全て理解していた。尊敬に値するよ。でもね、それなら銃弾を操作出来ることも考慮すべきだった。神秘を使う者同士の戦いで重要なモノは解釈と後出しジャンケン。惜しかったね」
その声が聞こえた瞬間、結衣の足に紋様が浮かび前進できなくなった。切り替えて得物を構えるも、二台のドローンからの攻撃が彼女の両肩を貫く。
アランが手を動かすと結衣の両手が自身のモノでなくなったかの様に無造作にライフルを捨てた。
そして、自らの右手が左腕を握るとその部位の骨を折った。結衣は痛みが襲いかかるも声を上げず、自身の今の状況完全に理解すると抵抗することをしなかった。
そんな彼女を見て、アランは嬉しそうな表情を浮かべる。
「痛くないんだろ?知ってるよ、旧巣さん。これでも立ち向かって来そうだしね、左足も逝っとこうか」
そう言うとアランが再び手を動かし、結衣の左足があらぬ方向へと曲がると立つことが出来ず、その場に倒れ落ちた。
何も出来ないまま体を壊され、捻られる。
だが、そこに容赦は無く、自らが遊び終わるまでそれは続いた。
会場が騒然とし、淡々と結衣の四肢が捻られ、おかしな方向へ曲がった関節からは血が溢れる。そんな中でもわ結衣は一切叫ぶことなく淡々と攻撃を受け続け、芋虫の様に地面を這うことになってもアランも止まらず、更に捻ろうと手を動かした。
瞬間、アランは壁に吹き飛ばされていた。
何が起きたのかわからなかったがまで時間がその姿を見て、全てを理解する。
結衣を守る様にそれは立つと笑顔を浮かべながらも怒りを露わにしていた。
「それ以上やるなら私が相手になるよ。アラン・カロくん? 」
そう言うと薄紫の髪を靡かせながらツクヨは拳を握っており、隠し切れない殺気が辺りに危機感を与える。
そんな中、事態が深刻さに漸くハッとなった実況が大声を上げた。
「し、終了!一回戦第四試合勝者はアラン・カロ選手です!これ以上、神秘を使用した場合、即刻退場といたします!繰り返します! 」
それを聞きアランはすぐに神秘の使用を止めると結衣を見て嬉しそうにしながら背を向けた。
(最後まで声を上げなかったね、すっごい立派な兵士だったんだね、旧巣さん。僕、君のことが大好きになって来ちゃった。また、遊ぼうね)
異常なまでの行動を取ったにも関わらず、優しく微笑みアランはその場を後にすると直ぐに結衣は担架に乗せられ運ばれていった。
四季祭「春」 一回戦第四試合
アラン・カロVS 旧巣結衣
勝者 アラン・カロ
***
最後の試合がショッキングなモノになってしまい、観客が静り返ってしまった中、黒野は自身の仕事を全うしようと声を上げた。
「あー、あー、あー、こちら実況、こちら実況、準決勝は明日、決勝戦は明後日となっております。観客の皆様はご間違いないようお願いします。繰り返します、」
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