二十五章 四季祭「春」 其の捌
サクラコ裏話。
如月百兎は感知能力がとても高く、学園外からの攻撃などから学園を守るための防衛局長も努めているよ。
***
「亜号奈々、神秘過受体質により、幾らでも神秘を体に宿せる。BULLET School一年だが、噂だと百兎に並ぶ天才、か」
一人だけ部屋から試合を眺めながら、グレイはタブレットに映る奈々の情報を見ていた。
「神秘は偶像、能力は自身が思う偶像に成れる。この能力、自分が思える姿になれるんだろうがあいつが思う偶像がアイドルと言うものなんだろうな」
コップの中に入っていたモノをごくごくと飲み、彼女の情報を見終わると次にレイズについての情報を見始めた。
「レイズ・ヴァリティタス、ほう?カルデア孤児院、あそこの生き残りか。これはなかなかに面白いモノが見れるんじゃないか? 」
***
レイズは尋常じゃないほどの神秘を前に一切引くことなく、自身の能力を使った。
「夜乃神・重力杭」
奈々の背後に常にあった黒い杭から重力が放たれ、彼女を押し潰そうとするも先程とは違い全く意味をなしていなかった。
神秘に覆われた体はレイズが放つ神秘による重力を打ち消し、先程同様、奈々は彼との距離を詰めた。詰められる直前、レイズは杖の周囲を浮遊する黒い球体を形を変え、それを迎え討つ。
「夜乃神・重力浮遊刃」
主人の声に応え、形を変えた黒い刃が浮かび、回りだすと神秘を纏った奈々の拳が刃にぶつかった瞬間、レイズは彼女の神秘の重力を変化させた。
一点集中していた神秘が拡散され、振るう拳に宿る神秘は弱まるとレイズは杖の先端を鎌に変え、ぶつけた。
先ほどは一瞬にして吹き飛ばされたレイズの体が次はしっかりと地面に足をついており、奈々の異常なまでの神秘の暴力と打ち合う。レイズは涼しげな表情を浮かべながらもそこには一切の躊躇も躊躇いも無く、己が持つ得物を全力で振るっていた。
神秘を拡散され、自らの持つ全力をぶつけられないことに奈々は驚くもそれを良しと変わらず何度もレイズに向けて己の四肢の武器となる部位を用いて攻撃した。
観客は先ほどとは違う一進一退の攻防を見ると歓声を上げ、更にその場を盛り上げる。
互いに余裕を見せる表情をしているもののその事実は全く違った。
レイズは最初に受けた奈々の一撃により、右の肋二本が折れ、加えて、骨のいくつかにヒビが入っていた。右腕を少しだけでも動かしても悲鳴を上げたくなるような痛みが走ってるにも関わらず、自身の持つ得物を振るい、躊躇うことなく神秘を使う。
全力で武器を振るい続けるレイズを見て、彼が最初の一撃でのダメージがほとんどないと言う確信を得た奈々は焦っていた。
奈々の神秘には欠点がある。
偶像は体内にある神秘を爆発的に上げることで彼女が思う最強の偶像へと変えることが出来る。
今回、神秘を使って自分に施した偶像は全自動回復と一撃必殺の攻撃。
これは奈々自身が思う最強の偶像であり、初戦から披露するには重すぎる偶像であった。
神秘過受体質。
肉体が持つ神秘の量が一般人よりも遥かに多く、許容範囲も広い特異体質。偶像の本来の能力を使った後、奈々の体に回る神秘は一般人では押し潰されてしまうような量に達するもそれを彼女のその特異体質でカバーしていた。
だが、その代償に亜号奈々は神秘の放出を抑えられない。神秘を常に垂れ流しにし続けると訪れるのはガス欠であり、発動していた能力が消失してしまう。
故に、彼女が決めていた能力発動の時間制限は五分。
今現在までに経った時間は三分。
残りニ分での決着をつけるために奈々は拳に更に力を入れると最初の一撃を放つ。
「偶像☆衝撃! 」
神秘を纏う暴力は先程よりも強大な形になっており、それは容赦なくレイズに襲いかかった。
(デカい、さっきよりも)
そんなことを考えた瞬間には彼は再び壁に吹き飛んでいた。壁に打ち付けられ完全に右腕が使えなくなった事を理解し、額からも血が流れている。
二度目の必殺を受けても立てているレイズは自らを分析した。
(夜乃神・重力浮遊刃がギリギリのところで神秘を拡散してくれてた、か。チッ、痛いな。流石に、肋どころじゃ済まなくなっちまう。一回戦からは使いたくなかったが致し方ない)
空気を吸うと血が咽返し、口から鉄の味がした。
そんな中、分析が完了するとレイズは覚悟を決めた。
杖を左に持ち替え。未だ見せぬ領域、未だ見せぬ底、それらを見せるために己の神秘を開示する。
「俺の神秘は、」
レイズが神秘を開示をしようとする直前、奈々は動いていた。
初戦、伊織が見せた神秘拡張の強力さと自身に迫る時間制限。
それにより、彼女は今が勝機と確信し、レイズとの距離を詰めた。
だが、その判断を、レイズは狙っていた。
「夜乃神・重力場」
奈々の背後にあった黒い杭、放たれていた二つの黒い杭、そして、レイズが握っていた杖を繋ぎ、四角を作りだすと彼女の体を押し潰した。
「あっ、が?! 」
先程までの重力とは全く違う重さが奈々の体を抑えると再びレイズは口を開いた。
「俺の因果は黒を司るモノ。ここから見せるのは俺の覚悟と、お前への敬意。死ぬなよ、亜号奈々」
レイズが握る杖は黒く光り、奈々の体を押さえつける重力が更に上がると声を上げた。
「神秘拡張、夜乃神監獄」
黒い瘴気を纏い、杖は形を変えるとレイズの腕には巨大な刃を携えた鎌が姿を現した。彼の頭上の輪っかも二重になっており、神秘拡張が成功したことを証明する。
重力にすら神秘が勝ったのか奈々はようやく押さえつけられていた体を立ち上げ、先ほどよりも纏う神秘は大きくなっており、力一杯拳を振るった。
質量と表現してもおかしくない程の神秘を前に、レイズは怖じけることなく、淡々とした口調で自らの体を回る新たな神秘の力を見せつける。
「夜乃神監獄・高重力」
ドン。
音が鳴ると共に、奈々の体は再び地面に突き付けられた。
先程とは比べ物にならない重力により、奈々は地面に這い尽くすも前進を、前に進むことをやめない。
(残り、一分!命をぉ、燃やせぇ! )
偶像の能力が切れることを理解ていた奈々は一分保つところを、わざと三十秒にすることで神秘拡張をしたのと同様の出力まで押し上げた。
残り十秒を切ったところでレイズの重力を振り払い、彼に目掛けて拳を振おうとした。瞬間、レイズは鎌を空に向けると最後の一撃を放つ。
「夜乃神監獄・連鎖重力」
動かそうとする体に重力がのしかかる。
それだけでは止まらないことをレイズは確信し、更に重力を重ねると奈々を押し潰した。
三度目、四度目、五度目、六度目、七度目、八度目、九度目、十度目。
五秒間に十度の重力操作による圧迫。
レイズの鼻から彼が気付かぬ内に血が垂れていたが止めることなく重力を加え続けた。
重なり合う重力により、奈々の足は止められ、手を振るえず、押さえ込まれる。
偶像の神秘が途切れた瞬間、奈々は押し潰されると彼女は動かなくなっていた。レイズはそれを見て、重力を弱めると左腕で鼻血を拭き、奈々に背を向ける。
急いでメディカルチェックをし、奈々が気を失っていることを確認するとクロノは試合の勝者を宣言した。
「二連続の神秘拡張という四季祭始まって以来の大盛り上がりの試合を制したのは、アマルスクール、レイズ・ヴァリティタス選手だ!!!!」
歓声が注がれるもレイズはスタスタと入場口に戻るも戻ると同時に、その場に倒れ込んでしまった。
四季祭「春」一回戦第二試合
亜号奈々VSレイズ・ヴァリティタス
勝者 レイズ・ヴァリティタス
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