二章 アマルスクール 其の壱
今作は明るく元気良くをモットーに書いています。(前作が暗すぎた)
体育館で行われた入学式と言う名の試練。
意識のないものは起き上がるまでそのままで、半分以上の学生がふるい落とされてしまい、残った者達は自分の速度で寮に戻っていく。
ある生徒は涙を流し、ある生徒は喜びながら一人一人と居なくなった。
しかし、そんな事を気にせず、桜子は一人で誰よりも早く寮に帰っていた。
初めて学校に行き、初めて試験をした彼女は嬉しそうに自らが住まう部屋へと足を運ぶ。
「初めまして! 私、秤桜子! よろしく!」
バンという大きな音と彼女の声が部屋の中に鳴り響く。
ドアを蹴飛ばすような勢いで開けると大きな声で挨拶をした。
その声でびくりとした一つの影があり、オドオドとした表情で彼女の顔を見てきた。大きな眼鏡で顔を覆っており、本を読んでいたその子はビクビクとしながらその挨拶に一生懸命応えた。
「は、はじ、はじめまして」
黒髪でおさげをした少女を見て、桜子は犬が嬉しくて尻尾を振り回す様に興奮しながらグイグイと近づき、彼女を質問攻めを始める。
「うわぁー!! 可愛いおさげ! 黒髪にすっごい似合う! 何の本の? 私も結構本読むから教えて! 大きな眼鏡! それもよく似合ってる〜! 可愛い!!! そうだ! 名前! 名前なんて言うの?! 教えて!」
あまりにもグイグイ来る桜子に少女は思わず、泣きそうになりながら呟いた。
「うう、た、たすけて」
そんな事を言っても桜子は止まらず、キラキラとした目線を向け、その熱に充てられ、少女は諦めるとそれに応え様と再び口を開く。
「な、名前は、旧須結衣」
「ゆい!? 結ぶ衣で、ゆいなのね? わかった! よろしくね! 結衣!」
元気はつらつに喋りかける桜子のものすごい押しに負けた結衣は本を片付けて彼女の話を聞いていた。
「そうそう、なんで結衣は私より早く寮にいたの?」
「そ、それは、私、この学校に推薦で来てて、入学式の試験も免除なんだ」
「えー! 推薦って事はそれだけ優秀なんだ! すごい! 私、ずっとお城に住んでたから学校自体が初めてで分かんない事ばっかりだから色々教えてもらおうっと〜」
そう言うと桜子は自分の荷物を解き、私物という私物を部屋に置き始める。
クマの人形に、ネコの人形、ウサギに、サカナに、イヌに、シロクマに、ペンギン。
大量の人形が部屋中に置かれ、結衣は自分だけが過ごしていた部屋が人形まみれになっているのに困惑するも桜子は楽しそうに鞄に入っている人形を置き続けた。
「ね、ねぇ? こ、これなに?」
結衣はそう言いながら熊の人形の顔を確かめると顔にクマと書かれた可愛いとはとても言い難いものに触れた。
それを見ていた桜子はニコニコして、答える。
「ん? それはお母さんが作ってくれた人形のクマのイッサ! 可愛いでしょ! 」
「へ、へえ、他にはどんな子がい、いるの? 」
結衣が興味を持ってくれた事を気付き、先ほどよりも桜子はうれしそうな笑みを浮かべると人形一つ一つを彼女の前にして紹介し始めた。
「ネコのルカ、ウサギのウイ、それで私のお気に入りのペンギンのリコ!」
「こっちのサカナは?」
「あ、こっちの子達は」
そう言おうとした直後、ドアが再びガタリと音を立てて開いた。
「やぁ、秤桜子の部屋はここかい?」
開かれたドアから光が差し、その声の主人の姿が見える。
そこには美しい宝石の様な目をした少女が立っており、その姿を見た瞬間に桜子はニッコリと笑みを零し、声を上げた。
「ツクヨ先輩だ! どうしたの!」
その言葉を聞くと結衣はアワアワして自分の顔を隠し、その場から去ろうとするもツクヨはそんな彼女を見ながら桜子の問いに答える。
「桜子ちゃん、今から一緒にお茶でもどうだい?」
「え!? いいの! 行く! 行く! あ、そうそう、友達も連れてっていい?」
「もちろん、そこに隠れてないで出ておいで。旧須結衣ちゃん」
綺麗に隠れたと思ったにも関わらず、すぐにバレてしまったことにビクリとして泣き顔になりながら口を開いた。
「え、あ、その、わ、わたしはいいかなぁ〜って、思うんですけど、ど、どう、ですか?」
「いや、君にも用事があるんだ、来てもらうよ」
ゆっくりとのんびりとした声音ではあるもののその芯にはしっかりとした何かがあり、それを感じ取った結衣は泣きそうになりながら隠れるのをやめた。
そんな彼女とは対照的に桜子はウキウキしながら鞄の中を漁り、箱を持ち出してツクヨに喋りかけた。
「ねぇ、茶菓子は必要? お母さんがお茶会にはいい茶菓子を持って行くのが礼儀って言われたからとっておきを家から持ってきちゃったんだけどこれでいいかな?」
***
桜子と結衣はツクヨに連れられとある場所に誘われる。
アマルスクールの寄宿寮共有スペースの一つである庭園。
そこには光がよく差し込み、木々に囲まれた美しい光景が広がっており、その中心に長方形のテーブルが置いてあった。
既に一人、水色の髪をした生徒が座っており、その反対に四人の男女が主人の帰還を待っていた。ツクヨは空いた席に座ると彼女が来たと同時に、眼鏡をかけた一人が桜子達が座る前にカップを置き、お茶を注ぎ始める。
テーブルから茶の香りが漂い三人の生徒の前に出された。
「ありがとうございます!」
桜子だけが元気よく挨拶をし、それを聞いた生徒はニコリと笑みを返すと斗南ツクヨがニコニコしながら口を開いた。
「さぁ、新入生諸君、お茶の準備が出来たから飲んで〜」
そう言われると桜子だけが同様の笑顔を浮かべ、それに手を置き、飲み干すと持参した茶菓子を開いて食べ始めた。周りが一切口をつけないことに気づくと少し不思議そうな顔をして、横にいた結衣に喋りかける。
「なんでみんな飲まないの?」
結衣は震えるばかりで横にいる男子生徒はツクヨを睨みつけるばかり。
能天気に桜子は茶菓子をむしゃむしゃと食べており、ツクヨは面白そうに眺めていた。
ツクヨの周りの面々は表情を変えず、彼らのことを見ていたがそれすらも桜子は気にすることなく茶菓子とお茶を頬張り続ける。
混沌とした空気が流れ、陽の明かりがその光景の異常さを際立たせる様にも感じた。
「俺は別に茶を飲みに来たわけじゃないぞ」
その空気を更に悪化させるかの如く一言を吐いたのは桜子の横にいた生徒であった。
空気がひりつくもそれを気にせず、桜子はむしゃむしゃと持参の茶菓子を一人で手に取る。
持ってきた茶菓子のカステラが切れ、次はクッキーに変わり、サクサクと言う音が庭園に鳴り響くとツクヨを睨んでいた彼は目の上ほどに伸びている前髪を揺らし、桜子を睨みつけると怒鳴った。
「お前はなんなんだ! さっきからお茶を飲んでは出されたものでもない茶菓子を頬張る! こいつらがお茶に毒でも盛ってたらお前は死んでるぞ!」
横にいた生徒が自分に怒りを向けたことに桜子は驚くとワクワクした表情をして、応える。
「私は桜子! ここに呼ばれたのはお茶会って聞いたから。だから、毒なんて盛ってないと思うよ。あ、もしよかったらあなたの名前も聞かせて? それとお茶菓子食べる? カステラ切れちゃったからクッキーしかないけどごめんね」
桜子が茶菓子を手に出すと生徒は唖然とし、目の前に現れた彼女が本当に同じ学園の生徒なのかを疑問視してしまう。
「お前、本当に言ってるのか? とんだ、天然ポンコツ能天気が呼ばれたんだな」
「え、酷い! そこまで言わなくてもいいじゃん! 名前教えたからあなたも教えてよ」
二人がガミガミと口喧嘩を始めるとツクヨ達が座る席の男女の空気が先程同様にピリピリとしてきているのを感じ取った結衣ではあったが、止めることも出来ず、涙目になっていた。
そして、互いの怒りの感情が頂点に達し、自らの体に備えている武器を顕現させようと起動のための詠唱を口ずさもうとした。
「「起…… 」」
「二人とも、少しだけ静かにしようか〜」
詠唱をツクヨの一言が切り裂くとニコニコしていながらも奥底にある殺気とも違う何かを二人は感じ取り、不満そうな表情で静かになった。
「うん、お利口さんだ。お茶会は静粛に楽しく進めないとね。でも、お茶も進まない事だし、早めに本題に入ろっか」
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