二十三章 四季祭「春」 其の陸
サクラコ裏話。
伊織の神秘の補足と説明。
黒煙神・ 死乃小祝宴は伊織が眼帯を外して両目で相手を捉えた時にしか発動しない。能力は自身も相手も避ける事、防御する事、傷付くと言う行為を避けようとするとその行動を否定する。彼女本来の神秘は防御を無視して相手に攻撃を与える物。それを条件をつけて拡大した物である。
神秘とは解釈次第で幾らでも成長し、変化させられるので覚えてといて下さい。
風よ、風よ、夜の風よ。
傷つくことを恐れぬ戦士に更なる力を。
傷つくことを恐れぬ戦士に更なる血を。
戦士を祀る黒煙る神、その神秘が眠る因果を宿す望月伊織に更なる贄を求める神秘を解き放つために叫んだ。
「神秘拡張、黒煙神豹乃心臓!!!! 」
神秘の開示による、縛り。
自身が持つ神秘を更なる段階へ跳ね上げ、本来の形の片鱗を現し始める。
伊織の頭上にもう一つの四つの牙が増えると四つずつの牙の輪っかが二重に描かれ、顕現した。
握られていた刀は消え、彼女の手には黒曜石で作られた鉤爪のついた武具と何かを詰めて発射するための筒の様なものが両腕に現れていた。
「さて!再開だ、桜子。死ぬなよ」
そう一言残し、伊織は桜子の目の前から消えた。
消えたと桜子が認識した瞬間、彼女の体は壁に叩きつけられていた。
伊織が取った行動はただの突進。
有り余る力を試しに使った全速力の突進は桜子を簡単に吹き飛ばし、先程の切り傷以上のダメージを負わせた。
「がっ、は」
血が口の中に溢れ、衝撃により内臓から来る痛みが襲いかかる。
痛いを通り越して、気持ちが悪い。
それが桜子の感想であった。
一瞬にして、自身の容量を超える傷を負わされるもなんとか地面に足をつけ立ち上がると四本の浮遊剣を自分の近くに集めた。
そんな中、伊織もまた、動揺していた。
神秘の拡張により彼女の身体能力が底上げされ、想像する出力の倍以上の力を発揮していた。
だが、その分、彼女もまた、慣れていない力の解放に体が保たず、一度攻撃しただけなのに、全身に痛みが走った。
(痛え!痛え!痛え!痛え!桜子をただ攻撃しただけなのに痛すぎる!なんだこれ!なんなんだ?! だけど、止まりたくねえ!止まらねえ!今、俺の体に回る力を、神秘を、もっと、もっと、使いてえ! )
痛みが走る体を無理矢理動かし、伊織は再び桜子目掛けて突進した。しかし、桜子も限界を前にして、浮遊剣の操作を会得しつつあった。
四つの浮遊剣を自らの体の周辺で回しながら伊織が向かって来るのを待つと、彼女の攻撃が刀身に触れた瞬間、桜子は自らが傷つくことを恐れず、全力の力で剣を振るう。
剣を振るったことにより伊織自身の神秘が機能し、避けることが出来ず、腹部に傷を負ったおかげで攻撃の軌道がずれると桜子は彼女から距離を取った。
取ると同時に、浮遊剣を一本ずつ放ち牽制し、自らが一番戦いやすい間合いまで移動し切ると伊織が再び動くのを待った。
浮遊剣の攻撃を避けることなく喰らっているにも関わらず、傷だらけで平然と立っている伊織は桜子との距離を確認すると新たな武器を使うために叫んだ。
「黒煙神豹乃心臓・三死乃槍!!!! 」
いつの間にか腕についていた筒の中には槍のような物が形成され、入っており、突きを放つと同時に放たれた。
三つの槍が放たれ、それら全てが桜子へと襲いかかるも浮遊剣を使い、相手への攻撃のために放つと槍とぶつかり、それは破壊された。
だが、浮遊剣を三つ使ってしまったことで自身を守るための剣がニ本しか残っておらず、伊織が桜子の間合いに入ってきた事に気づけない。
先ほどよりも大きな音が鳴り、次の瞬間、桜子は壁に吹き飛ばされていた。
二度目の衝撃。
ボロボロの内臓と手足の痺れ。
打ち付けられた体は指の一本でも動かすと崩れてしまいそうな痛みが走る。
(いっ、た、い、な。意識が、ぼんやりとして来た。あれ、今、私、何してたんだっけ?あ、なんか、見えて、きた)
***
「桜子、あなたは強い。強いからこそ全力を振るう際には気をつけなさい」
「えー!私、お母さんより強くないよー」
「お母さんは一番強いの。でも、あなたは私と打ち合えるんだから。その力を振るいすぎれば周りに誰もいなくなっちゃうの」
「むー、分かったよー。なるべく、努力する」
「なるべくじゃない、はぁ、もう」
***
歓声が徐々に聞こえて来ると、壁に打ち付けられていた桜子は目を覚ました。
「ガッ!今、私、寝てた?! 」
呟くと内臓から来る痛みにより、吐血する。
それは寝ると言う優しいものではなく、彼女は気を失っていた。
おおよそ、三秒にも満たない瞬間。
思い出した記憶、その中の母の姿を思い浮かべ、少しだけ嬉しくなった。
初めて気を失うと言う感覚を味わい、体を立てようとするも全身に痛みが走る。それでも、彼女は剣を握り、立ち上がった。
「んだよ!桜子!今ので決着かと思ったぜ! 」
大声を上げるも伊織も鼻血が垂れており、彼女もまた限界を迎える直前であった。
互いに満身創痍の中、彼女達に引くと言う文字は無い。
それ故の、前進。
それ故の、一歩。
同時に踏み出し、鎬を削る。
***
そこからはただただ、力と力のぶつけ合いであった。
桜子は浮遊剣を使う事なく、手に握る剣だけを用いて、伊織と斬り合う。
自身の武器のアドバンテージを捨て、伊織の間合いに入り込む桜子の姿を見て、観客は万策尽きての行動かと思い、落胆の声が溢れた。そんな中、その場で唯一、桜子の勝利を確信した者がいた。
「ん、勝った」
アマルスクール生徒会役員達が揃って座る観客席でヒビキがボソリと呟くとその横にいたイチカが声を上げた。
「は?この状況で? 」
「イチカ別に反応しなくていいよ」
「あんたが急に喋るからでしょ!? それより、どう言う意味よ。この状況で桜子が勝てるって」
イチカのガミガミと言う声にため息を吐くも、ヒビキは冷静にその問いに応えた。
「ん、桜子の体をよく見て」
ヒビキに言われた通りにイチカは桜子の体を凝らして見ると彼が言っていた事実に気づくと共に驚愕した。
「は、はぁ?何あれ?! 神秘を纏ってる?! しかも、相当の量じゃない!? 」
「ん、桜子には言ってなかったんだけど彼女、幻想換装を使っている間、神秘を纏わせてる」
「って、ことは、龍仙学院のヤツらの氣の操作とおんなじ感じってこと?! 何も知らない子が使える技術じゃないわよあれ?! 」
「しかも、五本操作してる時よりも一本の剣を握ってる時の方が神秘の量が上がってる。だから、勝つよ。神秘は凡ゆる差を凌駕するからね」
***
互いに進むしかない攻撃の応酬。
巨大な鉤爪が地面を抉るような連撃を喰らい、桜子の体には切り傷が生まれるも彼女もまた斬り返し、伊織の体を傷つける。
引けば負ける。
それだけは分かっており、全力で得物を振るうった。
斬れば、斬られ、斬られれば、斬り返す。
互いにその勝負を、傷つくだけの決闘を楽しんでいた。一切、相手に引く気はなく、容赦も躊躇も微塵たりとも湧きはしない。
そんなことをしたら相手に悪いから、お互いの意思が一致した意地と意地をぶつけ合い。
しかし、意外にも終わりは早く訪れた。
神秘の拡張により伊織の神秘量は跳ね上がっていたが、それよりも桜子の体に廻る神秘の量が上回る、いや、上がり続けた。
(こいつ?! 無意識に神秘を?! いや、それ以上に、何だこの量?! )
上がり続ける桜子の神秘。
動揺はあれど、そんなのお構い無しにと伊織は己が持つ武器を握り締め、桜子へと突きを放った。
桜子もまた、その一撃が最後であると確信し、声を上げた。
「魔桜一刀流、無龍・残火」
桜子はその突きを破壊するつもりで、自身が持つ全力を費やすと気付かぬ内に彼女が纏っていた神秘が剣に集中し、見たことのない輝きを見せていた。
圧縮された神秘の太刀を自身へと向かう突きへと振るった瞬間、桜子の剣の纏う神秘に打ち消され、伊織の握る得物は崩れ去った。
神秘により変化していた幻想換装が、刀が姿を現す。
桜子の神秘による武器破壊と自身に有り余る神秘の使用。
二つが重なり合った結果、伊織が先に限界を迎え、その場に膝をついた。
「チェ、チェックを!お願いします!」
実況からの声を聞き、伊織の周りに人が集まるとメディカルチェックの様なモノをし、彼女の意識があるかを調べる。
そして、その結果を実況が大体的に宣言した。
「四季祭「春」一回戦第一試合、勝者は!秤桜子選手です!!!! 」
実況の勝利宣言と共に歓声と叫び声が溢れた。
それら全てを受け止める桜子本人は痛みで震える体を抑え、握っていた剣を翳すと歓声は更に大きくなった。
四季祭「春」一回戦第一試合
秤桜子VS 望月伊織
勝者 秤桜子
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