十九章 四季祭「春」 其の弐
サクラコ裏話。
レイズは紅茶よりも珈琲派。
そして、実は甘党。
「先頭は未だ変わらず、アマルスクール、秤桜子がひたすら一番を突き進む!!!!あ、実況は、伽藍重工附属高校のクロノがお送りしております!予選のマラソンも折り返し!どんどん参りましょう!続いては……」
鳴り響く実況を聞き、大画面に映る自分の後輩の姿をツクヨは眺めながら呟いた。
「うんうん〜、やっぱり桜子ちゃんは違うね〜。常識に、囚われてないと言うか、縛られてないと言うか。型破りな感じは流石だよ〜」
「そうだなぁ〜、あんだけ急にスタート切ったのになんともなく走り出しのはあいつだけだったしなー。いやー、こりゃ期待の新人だな!俺とやるのが楽しみだ! 」
「盗み聞きなんて趣味が悪いね〜、刃くん〜」
ツクヨが笑いながら視線を向けるとそこにはあぐらをかいて座っている刃の姿があった。
「よ!ツクヨ!元気してたか? 」
「うーん、そうだね、ボチボチかな」
「そうかそうか!なら、よかった!それはそうと今回の優勝はうちが貰うぜ〜」
刃の唐突な優勝宣言にツクヨは少しばかり戸惑うも、それに対して返した。
「ふ〜ん、よっぽど自信があるようだね。君の秘蔵っ子がどうかは知らないけど今年のうちの一年も負けないよ」
「おう、そりゃ見ればわかる。お前んとこの役員候補達は才能の塊、これから一年で大いに伸びるぜ。だがな、それは伸び代であって今で言ったらうちのが他には負けないって言うことよ」
「そんなに自信があるの〜?それにしては全く神秘を感じないけどねー」
「あはは!お前の眼はやっぱり騙せねえか!そりゃそうだ!なんたってあいつは……」
***
駆ける二人が止まらない。
一人は一振りの剣と浮かぶ四本の剣を、もう一人は己の拳のみを。
振るっては兵器の砲台を壊し、突いては兵士の頭を潰す。
世界最高峰の技術が施された強化機兵や、兵器らを彼らは全く苦戦することなく蹂躙した。
その後ろをレイズ、伊織、結衣、アランが追随し、襲いかかる兵士達を切り裂いた。
「ねえ!崩!すごいね!拳だけで全部壊しちゃうなんね!どんな神秘を使ってるの!? 」
桜子は駆けながら全く息を切らす様子がなく、崩に問う。彼は答えることを少し渋ったがそれでも自分に問われたことに関して答えないと言うことが出来ないため答えた。
「俺は神秘は使えない。幻想換装すら出せない欠陥品だ」
「え!欠陥品?なんで?幻想換装が使えないだけでしょ?それだけで欠陥品な訳ないじゃん!今、戦ってるのを見てとんでもなく強いんだってのは感じたし! 」
桜子の予想外の答えに戸惑うも、それでも彼女に言われた欠陥品ではないと言う言葉に崩は少し嬉しそうな表情を浮かべると襲いかかる兵器の砲身を突きで破壊した。
「桜子、お前面白いな」
「ええ?!そうかな?! 」
二人の戦士は会話しながら壁にもならない兵器達に一切目を向けず、武器を振い続けた。
そんな彼らを眺めながら背後から、レイズらは自らの幻装換装を手に握り、襲いかかる機械仕掛けの兵士達を切り裂く。
都市を走り続ける一年生の面々は折り返し地点を過ぎ、様々な障壁を振り払う最中、先頭から大きな音がすると共に彼らの目の前に巨大な影が姿を現した。
黒く塗られた壁は足であり、それらが四つ地面に立つとその中央には巨大な砲台があった。
「超弩級砲台搭載戦闘機巧、Z/Xだ」
その黒塗りの塊から聞き覚えのない声がするとなんの説明も無く、四つの壁が開いた。瞬間、そこから走者目掛けて大量の弾丸と、個人へ向けるにはあまりにも高すぎる殺意を持ったミサイルが放たれた。
Z/Xと呼ばれたそれは動くことなく、自らが持つ武器という名の武器全てを使い、新入生に襲いかかる。先頭に追いつきそうであった学生達が一瞬にしてその砲撃の餌食となるもその中で、その蹂躙をモノともしない者達がいた。
「わあお!何あれ!!!!すっっっごい!!!! 」
「ううう、なんでこんな目に」
「桜子、お前はちょっと静かにしろ」
「良いじゃねえか!レイズ!黙っててもそれはそれで桜子らしくないだろ! 」
「そうやって叫んでる伊織も人のこと言えないよ」
「……」
黒い鋼から放たれる攻撃を六人の学生達は自らの武器で全てを弾き、弾のせいで生まれた煙の中から姿を現した。
「こんなところで見せたかねえが流石にこれは無理だな!アラン!おめえも久々に見せろよ!あれ! 」
「はぁー、しょうがないな」
アランがそう応えるとまず初めに四人の学生が自らの武器に眠る神秘を解き放つため、自らの神秘に対して理解度を上げるために同時を声を張り上げた。
「黒き刃の因果を持つ者!恐れ慄け!戦神たる俺の姿を! 」「神秘解放!黒戦神!!!! 」
「黒を司る因果を持つ者。跪き頭を垂れろ」
「神秘解放、黒乃神」
「感性を司る因果を持つ者。狂って戯け、戯れ、死ね」「神秘解放、両具有神」
「双星を司る因果を持つ者。わ、私が示すは星の輝き」
「神秘解放、双星神」
四人の武器が姿を変える。
戦神は黒い刃を。
黒い神は黒い杖を。
両具有者は黄色いアサルトライフルを。
双子星は蒼いスナイパーライフルを。
四人の頭上には輪っかが生まれるとそれぞれ得物を握り、携えた。
そして、自らが得意とする武器を構え、再び口を開いた。
「黒戦神・壊刃!」
「黒乃神・重力杭」
「両具有神・狂詩曲」
「双星神・四連撃」
四人の神秘が黒鉄の足にあたる四つの壁へ放つ。
黒い斬撃が右の壁を斬り裂いた。
黒い杭が現れると左の壁は地面に埋まった。
黄色い光線が左後ろの壁を貫くと自らの制御を失い内部から爆発させられた。
蒼い弾丸は四つ同時に放たれ、右後ろの壁の急所を最も簡単に貫いた。
足を失ったZ/Xであったがそれでも、それが持つ最大の武器である真ん中に鎮座した砲台が彼ら四人へと狙いを定めていた。
真ん中にエネルギーが集中し、放たれる直前、残った二人が駆けた。
桜子は浮遊する四本の剣を二本、崩の足場にすると彼らはそれを使い飛び跳ね、砲身目掛けて、自身が持つ技を叩きつける。
「魔桜一刀流、無龍・一揆!!!!」
「覇号鉄鋼砲」
桜子は目にも止まらぬ速度で剣を振るい、砲身を切り落とすと崩の一撃がZ/Xを動かす中枢核を拳一つで粉砕した。
桜子と崩が地面に着地すると彼らがくるのを待っていたかの様に他の四人もその場にいた。巨大な機兵は完全に動きが止まり、それを止めた六人はただ顔を見合わせ、少しばかり笑うと何事もなかった様に再び走り出す。
***
「な、な、なんということでしょう!てか、グレイ会長!?あんなん聞いてないですよ!なんですかあれ?! 」
実況をする目的を失いただ自分の感想を述べるクロノの声が鳴り響く。だが、そんなことは観客の熱狂が打ち消した。
新入生が黒鉄の怪物を互いに違う学園の者同士が手を取り、撃ち倒したことに会場全体が湧いた。
「すごい、一年だね! 」
「一人は神秘を使わず、一人は幻想換装すら使わずに戦ってたぞ?! 」
「今年の「夏」と「冬」も期待できそうだな」
観客はさまざまな憶測と考察、そして、希望と期待を話し、会場の熱は冷めることを知らない。そんな会場を、一人で別室にて眺める男がいた。
赤い髪を弄りながらグレイは自らが準備したZ/Xが簡単に破壊されたことに少しばかり怒りを感じているとそんな彼の背後から何者かが右肩を叩いた。
「来ると思っていたぞ、ツカサ」
グレイは目線を渡すことなく、そう言うとツカサは笑いながら応えた。
「察しがいいね、グレイは。まぁ、これなら僕が来た理由もわかるだろ? 」
「Z/Xについてだろ?ふん、悪かったな。報告していないものを導入して」
頭は下げはするもののそこに謝意は込められておらず、無礼な態度を取る彼の首元に一本の刀が添えられた。
「四季祭に予定の無い機巧の利用及び、職権濫用。このまま生かしておいても学園のためになりません。会長、指示を」
頭上に六つの翼が円を作った輪っかが浮かんでおり、左手には刀を握っている翠色の髪の少女はツカサの指示を待つも、彼は首元にある刀をどかし、笑いながら喋りかけた。
「落ち着いてアオイ。別に、僕は叱りに来たわけでもない」
「しかし、」
「実際、会場のウケも良かったし、一年の実力が見れてお互いにWin-Winだったしね」
アオイと呼ばれた少女は渋々刀を鞘に収めるとそれを見たグレイは自身を脅かすものがなくなったのを確認し、再び口を開いた。
「お前ならそういうと思ったよ、ツカサ。昔馴染みの縁だ、見過ごしてくれ」
「"今回"は見過ごしてあげるよ。でも、これ以上、イレギュラーがあったら流石に僕も庇いきれないから」
二人の学園の長は静かに見合い、少ししてツカサがその場を後にした。扉が開いた途端、会場からの叫び声が一瞬だけ聞こえるもすぐに閉じ、部屋はまた静まり返る。
感想、レビューいつもありがとうございます!
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自作の続編でもあるのでもしよろしければこちらも是非!




