十六章 三日前
サクラコ裏話。
神秘には三段階ある。
神秘の解放。
神秘の拡張。
もう一つはいずれ本編で。
四季祭「春」開催会場の周囲をBULLET schoolと描かれた学章のついた白い制服に身を包んだ生徒達が警備をしていた。
そんな彼らに対して、カメラ越しに金色の髪を綺麗に纏め、他のBULLET schoolの生徒とは違う青色の制服を着た女が定期連絡のために声を上げた。
「不審物が無いかしっかりと確認しろ。あってからじゃ遅いからな」
警備員達に一喝入れ、カメラに不審な物が映っていない無いことを確認すると一息をつき、テーブルの上に置いていたカップに手をつけた。
(この仕事に就て、二年目だけど四季祭時の忙しさは尋常じゃないな。BULLET school入学してからずっと思うけど本当に大変。最近、忙しすぎてシャワー浴びるタイミング逃しちゃってるなー。まぁ、本部の個室に入って来る人はいないし、今日は寮に帰って綺麗にしよう)
そんなことを考えながら警備員達の動きをカメラを通じて何度も何度も不審物や、不審者がいないことを確認した。
仕事をしている最中、自分だけの作業室のドアがギギギと音を立てて開いた。
誰かが来たのを気づくと同時に、身構えるもそのドアを開けたのが自分がよく知る人物であることを知り、少し怒り混じりに声を上げる。
「如月局長、入って来るならノックをしてください」
「ごめん、レイ、仕事疲れてるだろうと思って差し入れを持って来た。後、僕と二人の時は百兎でいいよ」
百兎はそう言うと手に握っていた袋をレイに渡した。
中にはドーナツが入っており、それを見たレイは子供の様に目を輝かせるもすぐに咳払いをし、いつも通りの表情に戻した。
レイは赤く染まった頬を腕で覆い隠すともどかしさの様な感情に駆られ、口を開いた。
「はぁ、私の好物を持って来るなんてズルよ」
「そうだね。でも、レイはいつも頑張りすぎちゃうから。僕が見とかないとすぐに無茶をしちゃう」
「百兎、あなただけには言われたく無いわ。昨日の夜から働き詰めなのは分かってるわよ」
「そんなことを言っても、それが僕の仕事だから」
百兎は自分の分も買っていたのか彼女に渡したモノとは違う紙袋からドーナツを取り出し、レイの目の前で食べ始めた。
レイはそれを見るとすぐに部屋にあったカップを取り出し、珈琲を淹れると百兎に手渡す。そして、彼女も上司からもらった紙袋の中からドーナツを取り出し口に運んだ。
束の間の沈黙と休息。
しかし、その時間は百兎のある発言で終わりを迎える。
「あ、そうそう、レイ、二日間も部屋に籠りっぱなしはよく無いから、部屋に戻って休息でも」
その一言が終わる直前、レイはワナワナと体を震わせ、百兎を睨みつけると百兎は自分が彼女の地雷を踏んだことを理解し、何かを諦めた様な表情で動かなかった。
「百兎、デリカシーの無い発言はセクハラに値すると思うのだけどどう思う?」
「それはもうご尤もで」
「なら良いわ、許さないけど」
***
青空を眺める。
透き通った青に心を揺らす。
そんな感性が自分にあれば良かったと思い、グレイ・ツェッペリンは一人、伽藍重工附属学校の敷地を歩いた。
伽藍重工附属学校。
ここは伽藍重工と言う学園都市エデンの一番のスポンサーが出資して建てた学園である。生徒達は伽藍重工の社員の子供達が大半であり、そんな彼らを纏めるのが現伽藍重工会長の息子であるグレイ・ツェッペリンであった。
伽藍重工附属学校は六つの学園の中で一番の技術を持った学園であり、それ故に、秘密も多い。
グレイはとある教室の前に立つと横にあったタッチパネルを押した。規則に沿った数字が押されると部屋の中からガチガチと音を立て、その扉が自動で開いた。
教室内のタイルが開き、地下に続く階段が現れた。
そんなことに驚くことも、感動することもなく、グレイは地下に続く階段をスタスタと歩いた。
そして、黒塗りの部屋に到着すると四つの光が差し込み、そこにいた何かが声を上げた。
「グレイ、私達を呼ぶとは何事ですか? 」
黒い靄。
存在を認識することが出来ないのにそこに何かがいると言う事実だけはある。それから言葉が発せられたと言う事は紛れもない真実であり、凡人が見ればその悍ましさに発狂してしまう程の不気味と言う言葉を具現化したモノ。
それを見ても、言葉を聞いてもグレイ・ツェッペリンは何も感じる事はなく、その問いに応えた。
「神秘について話がある」
「ほう、ほう、ほう、グレイ、あれについて何か分かったのですか!奇蹟の具現、いや、転生者!彼女が、かの最高峰の神秘が如何したのですか! 」
木偶の坊。
ギイギイと体を震わせ動かせながら口がない木の人形はどこから声を出しているか分からないがそれは興奮気味に音を出す。
「あなた達の目的、この学園での目標を達成するために神秘を堕とす」
「ようやくこの時が来たのですね。それなら早く、今すぐにでもやりましょう。もうこの体にもガタが来てますからね。歳は取りたくないモノなのに、魂をすり減らしたくないモノなのに。自分では制御できないほどに勝手に老いていく。私はもう限界です」
真っ青に染まった獅子の人形は自分の魂が朽ちることに対しての恐怖が見え隠れしており、冷静に丁寧な口調ではあるもののそこからは焦燥感が感じ取れた。
「あの学校、いや、恩人が残した最後の遺品アマルスクールを出汁にして神秘を手に入れる。そのためには多くの仕込みが必要、故に、あなた達の支援が欲しい」
「そっかそっか、そうか〜。いいよ、貸そう。いや、全て出そう。グレイ、君の出す作戦、条件、タイミング、全て思い通りにするために私達、Σ(シグマ)は支援を惜しまない。何を望む?何が欲しい?何が必要だい?言ってごらんグレイ」
額縁だけが椅子に置いてあり、ただの額縁に見えるがそれから放たれる音声は一番邪悪且つ底知れない悪意の塊の様であった。
グレイは彼らの総意を聞き、そして、受け入れたことを確認すると一礼しその場を後にした。
彼らはΣ。
神秘の究明のために自らの生を費やす者達。
四人のマエストロが集い、企み、齎す災悪。
そして、彼らの魔の手は着実に、ツクヨ達に這い寄っていた。
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