十五章 五日前
サクラコ裏話。
ツクヨの神秘は炎。
幻想換装から排出される炎の操作と体の体温を上げることで強制的に身体能力を上昇させる。
夜も深まる中、一箇所だけ灯りが点る部屋があった。
それはエデン学園生徒会室。
凡ゆる学園に対して超干渉権能を持つ学園の一室で、銀髪の髪の青年がこれから行われる四季祭に向けての様々な書類の処理をしていた。
黙々と書類を処理し、この時間にもかかって来る電話にもすぐに出ると可否を伝え、指示をする。一人で行うには多すぎる仕事を彼は一人で全てやってのける超人であった。
「はぁー、やることが多いね」
独り言を呟くも反応する者はおらず、こだました声を聞き、彼は一人で笑ってしまった。
「はぁ〜、本当にもう、もう少し遅くでも良かったんじゃないかな、グレイ?大会会場の準備とかって時間かかるのに一ヶ月って本当にもう〜」
またも呟くもそれは一人でこだまし、それを聞き再び笑った。そして、作業場の上にあるコップに入った珈琲を口に含め、体にカフェインを注入し、集中力を上げようとした。
「一人でずいぶん溜め込んでますね」
「ぶべはぁ?! 」
急に背後から声がし、それに驚いた青年は驚いて飲み物を吹き出してしまった。
書類には一つの汚れもついていなかったが自らの制服が汚れてしまった。だが、それを気にすることなく青年は唐突に喋りかけた存在に声を上げた。
「マリア?!どうしてここに?!みんなに指示した仕事はどうしたの?! 」
「エデン学園生徒会役員、七神全員、生徒会長ツカサ・ヴォーダインの職務の手伝いのために参りました」
そう言うとマリアと呼ばれた生徒の後ろには五人の影があり、それを見てツカサは驚いた表情を浮かべながら口を開いた。
「いやいや、みんな疲れてるでしょ。僕ちゃんとみんなに仕事を割り振ってたし、それも相当の量だよ!? 」
「それは百も承知です。なので、ここにいる六人で全て一緒に行いました。全ての作業を全員でやれば生徒会長も休めるはずです」
マリアはそう言うと勝手に書類に手をつけ、それらを後ろの五人にも手渡した。
「マリア!ダメだよ!君達はちゃんと仕事をした。なら、今は休むべきなんだよ」
「なら自分だけ仕事量を他の六人の合計と同じにするのはやめてください」
マリアはすぐに書類にハンコを押し始め、他の五人も作業を始めた。
「そうだよー、ツカサ〜、たまには私たちに頼って〜。まぁ、今回はこんなに早く四季祭を企画したグレイに文句言ってやりたいけどねぇ〜」
赤色の髪をした少女はジュースを飲みながらもテキパキと書類の処理を始め、生徒会室にいた全員が黙々と作業をしている。
ツカサはそれを見て、ため息をつくもすぐに再び笑顔を浮かべると口を開いた。
「ありがとう、みんな、パッパと終わらせちゃって、ご飯でも行こう!深夜が明けてもやっているお店は学園都市ならあるからね! 」
***
「もうそろそろだね、うん、うん、わかってるよ。みんななら、いや、彼らならやってくれるかな。今年の一年もみんないい子ばっかりでさ、みんな元気よくて、特に、桜子ちゃん、彼女はね、色々なことに挑戦して、色々なことが出来る、いや、出来ちゃう子でね、なんだか、先輩にそっくりなんだ。いや、雰囲気とかは全然違うよ。だって、ほら、先輩は一直線すぎていつも損して、自分の利益を全く考えないバカだから。でもね、根底にあるどんなことも前向きに考えて進もうとするところはどうしても重なっちゃってね」
学園都市外のとある地区。
そこは死者を弔い、愛おしむ場所であり、少女の立つ墓石には幹慎一郎と刻まれていた。
墓石の前には彼女が置いた様々なお供物があり、それらは全てこの時に持ってきたものであった。
彼が寂しくないようにそう思いながら彼女、斗南ツクヨは夜になると時折、学園都市を抜け出し、ここに来ていた。
五月に入る直前、夜風が心地良い夜に彼女はいつも通り、亡き先輩に対して報告をした。
二年生が立派に先輩として一年生を導いていること、三年の自分がもっと頑張らなければならないこと、そして、今年の一年生が、去年同様優秀でいい子たちであること。
それらを一人で呟いていた。
そこに亡き先輩がいるように、会話をするように。
側から見れば異常とも捉えれるその行動であるものの斗南ツクヨにとっては唯一、亡き人に思いを馳せれる時間であり、彼女にとっての心の支えになっていた。
一通り話し終え、夜がより深くなっており、そのことに気づくとツクヨは帰宅の準備を始め、墓石に向かい一礼した。
すると、彼女の横に花束を持った男が現れた。
足音も、気配も、全く在らず。
横に、いや、元々そこに居たかのように自然な立ち振る舞いで立っており、その存在に気づいた瞬間、ツクヨは起動詠唱を口にした。
「起動」
現れたガントレットを握りしめ、警戒心を強めると自分だけの時間を邪魔されたこととその青年が彼の墓石に立っていい人間ではないことに対しての怒りを込めて声を荒げた。
「一体、どんな気持ちでそこに立ってるんだ?グレイ」
「別に、何の感情もありやしない。ただ、俺がそうすべきだと思いここにいるだけだ」
黒いスーツで身を包み、ツーブロックで赤色に染め上げた髪をしているグレイと呼ばれた青年は敵意を向けるツクヨとは逆に全く感情を見せずに応えた。それに対してツクヨは少しばかり苛立ちを見せるも思ったよりも自身が冷静に慣れていない事実に気づき、深呼吸をする。
そして、自らを諌め落ち着けると再び彼に向かい口を開いた。
「何のようだと聞いているんだグレイ。君が、慎一郎先輩に対して花束を持って来るなんて侮辱に値する行動だと私は思うんだけど」
「確かにそうだな、あの事件の主犯は俺の雇い主だ」
「それなら、何で! 」
抑えられない怒りにツクヨは大声を上げてしまった。
しかし、そんなことを気にすることなく、グレイは淡々と応える。
「死者を弔うことは誰がしてもいい。それが殺した相手だったとしてもその行為の自由は誰に縛られるものではないだろう」
「そんなのが許されるわけが」
「別に許しを乞うわけでもないだろう。俺はただ、そこに眠る実験対象を惜しんでいるだけだ」
グレイの一言で、ツクヨの中の何かが切れた。
一瞬にして、グレイのとの距離を詰めるとガントレットをつけた腕で彼の体に突きを放つ。
その突きをグレイは何を装備する訳でも、何を見せるわけでもなく、ただの肉体、ただの腕で防ぐとつけていた手袋が破れ、掌に刻まれているαの文字が見えた。
「神秘を学園外で使うのは流石にアマルスクールの生徒会長でもお咎めなしにはならいと思うぞ」
「何を! 」
「はぁ、落ち着け、君らしくないぞツクヨ。今、ここで君が騒ぎを起こせばとその火の粉を受けるのが誰かって話だ」
グレイの一言でハッとなるも、ツクヨは彼の言葉で失っていた冷静さを戻したことに腹を立て、武装を解くとすぐに彼に背を向けて歩き出した。
しかし、数歩で止まると彼の方を向くことなくツクヨは警告した。
「次、もし仮にここで会ったら、容赦しないから」
怒りと憎しみ。
それらが込められた警告に、グレイはため息を吐くも素直に応えた。
「そうだな、次ここで会うことはないだろう、斗南ツクヨ」
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