十三章 アマルスクール 其の拾壱
伽藍重工附属学校
スポンサーである伽藍重工が創立した学校。
アマルスクールよりも一年ほど早く設立された学園。
生徒会長はグレイ・ツェッペリン。
「で、なんでこうなるの! 」
桜子の声が響き渡るもそれを無視して、銀髪の青年が薙刀を振るう。
アマルスクール競技場、その一室でヒビキ・ルプスと秤桜子は対峙していた。
ツクヨが言っていた特訓と言う言葉の意味。それは現二年生による一年生の指導であった。
ヒビキは短く纏めた銀髪を靡かせながら桜子に狙いを定めて、手に握る得物で容赦なく突きを放つ。
その一撃一撃は桜子の間合いに入るギリギリから放たれ、その絶妙な距離感の保ち方に彼女はむず痒くなりながらもヒビキの実力の高さを知れた。
(この人、私と剣の間合いを一瞬で掴んで自分の攻撃の間合いから私の間合いに入らないギリギリで攻撃して来る。しかも、はっや!?何あの速度! )
突きは雷を纏いながら高速で放たれ、桜子は自分の体を貫く一歩手前で自らが持つ剣と浮遊する四つの剣で防いだ。
「ん、遅い。そんなんじゃ、ツクヨ先輩と遊べないよ」
ヒビキは突きを放ちながらそう言うと更に攻撃を激しくした。五本の剣を巧みに扱い防ぐも攻撃に転じる事はできず、防戦を強いられる。
右腕、左腕、右足、左足、真ん中。
四本の浮遊した剣は桜子の意識で操作しながら防ぎ、手に握る剣で自らの体に脅かす突きを弾く。
連撃は重なり、頭が熱くなる。
浮遊する四本の剣の操作は彼女の脳内の温度を底上げし、そして、限界を迎える。
「待った! 」
桜子はそう言い、武器を捨て、手を上げた。
初めて自分に限界を感じるもそれ以上に、ヒビキ・ルプスと言う獣に対しての畏怖が勝った。
武器を投げ捨てた桜子を見て、彼女に向けていた薙刀を下ろす。そして、ヒビキは近くにあった水筒を取り、それを桜子に手渡すと喋りかけた。
「最初にしては上出来。よく、あの連撃避けれたね」
もらった飲み物を飲み、脳内が冷めていくのを感じると一息付いた桜子は少しむすっとした表情を浮かべ答えた。
「う、うーん、あれで上出来なの〜?お母さん以外と打ち合いって初めてなんだけど、こんなにボコボコにされるなんて思ってもなかったから、悔しい〜 」
「いや、すごいよ。桜子は神秘解放すら使ってないのに僕の連撃を全て受け切ってる。あのまま続けても僕も攻め切れずに終わっていた。剣は見ておってるのかい? 」
「うん!私、何となくだけど攻撃の道が見えんだよねー。そこに合わせて剣を動かすんだけど、ヒビキ先輩の連撃は速すぎて道が見えてもすぐに消えるから大変だったんだよ」
言い終わると休憩はすんだのか桜子は投げ捨てた武器を握りしめ、構えると再び口を開いた。
「それじゃあ、もう一回!お願いします! 」
「へえ、元気だね。でも、うん、そう言うのは嫌いじゃない。いいよ、次はタンマなしでやろう」
***
「あんた、口だけ達者で実力が伴って無いんじゃない? 」
レイズが地面に膝を突く手前で、乙骨イチカは冷やかな目で彼のことを見下ろした。イチカの両腕には双剣が握られており、それらは合わせると一つの円の形になるモノであった。
見下ろされるレイズは怒りを露わにし、ついていた膝をすぐに地面から離すと手に握る得物を振るう。自分に放たれた一撃をイチカは双剣を合わせ、戦輪にすると簡単に弾き、レイズの体目掛けて投げつけた。
投げつけられた殺意の籠った戦輪を携えた鎌で弾くもそれはイチカの手元に戻っていき、彼女はため息をついた。
「あんたさ、私のこと舐めてるでしょ。自分なら神秘解放なしで私に勝てるとかそんな感じで。甘ったれてんじゃないわよ。私はね、あんたより強いし、慢心もしない。逆に、あんたは私のことを舐めてるし、慢心してる。その結果が今のあんた。神秘解放すら使わず、いや、使える隙を与えてもらえず、一方的に殴られる。無駄な意地なんて捨てなさい。でなければ、私に一本も入れられないわよ」
そう言うとイチカは戦輪を空中に投げながらレイズの反応を待つと少しして彼は声を上げた。
「あんたが強いのはわかってる。だからこそ、使いたくないんだ。神秘解放を使えば勝負になる。だが、同じレベルで勝負しても意味がない。俺は、俺のやり方で強くなる。今必要なものを理解した上で神秘を使ってないだけだ」
「あっそ、なら、いいわ。死なない程度に頑張ってもらうから覚悟して」
そう言い残し、宙に投げていた戦輪をイチカは投げつけるのではなく、レイズ目掛けて蹴り付けた。
「迦楼羅・嵐墓」
その一言に呼応してか戦輪は風を纏い、嵐となるとレイズに容赦なく襲いかかった。しかし。それでも彼は自らを曲げず、今必要なモノ、それは自身の身体能力であるとし、一切神秘を使おうとせず、鎌のみでそれを受けた。
鎌にぶつかった途端、彼は生身で嵐を受け、自らの体と、意識が飛んでいくのを理解する。
少ししてレイズは意識が戻り、あたりを見渡すと横にはイチカが座っていた。彼女は目が覚めたレイズに気付くと彼の顔を見ながら喋り始めた。
「あんた、根性あるじゃない」
「何分寝てた? 」
「私の感想は無視か!はぁ、20分くらいよ」
「そうか、20分も無駄にしたか、取り戻すぞ」
レイズはふらふらしながら起き上がるも彼自身が思っていたより疲労が溜まっており、転びそうになった。転びそうになった体をイチカは右肩を持ち、彼を立ち上がらせた。
「見てられないわ、本当」
「別に、助けてほしいとは言ってないぞ」
「うっさいわね、フラフラしてるあんたが悪いのよ」
互いに悪態を突きながら、ようやく立ち上がったレイズは再び詠唱し、武器を構える。
「やるぞ、先輩」
「チッ、名前で呼びなさいよクソ後輩」
***
「すみません、すみません、すみません、すみません!!!! 」
旧巣結衣はセラに対して全力で頭を下げる。当の本人は、少しばかりボロボロになった制服を見てあははとだけど笑っており、それを見てますます結衣は頭を下げた。
「いえいえ、気にしないでください。自分の不注意と私がヒビキくん達より弱いのが悪いので」
セラはそう言うと頭を下げ続ける結衣を宥めると泣き出しそうになりながら、彼女は口を開いた。
「元々、あまりこの神秘拡張は使いたくないんです。でも、や、やっぱり、みんな本気だし、セラ先輩もいきなり神秘拡張使い出したし、テ、テ、テ、テンパっちゃって。本当にごめんなさい」
「あはは、私もいきなり神秘拡張を使ってしまったので気になさらないでください。でも、この歳で神秘拡張までつかえるなんて。私はつい最近使えるようになったので凄いですよ」
「そ、その〜、私が神秘拡張を使えるのは内密にしていただいていいですか? 」
「何か知られたら嫌なことでも? 」
「あ、いや、その、気味悪がられるんですよ、私の神秘。セラ先輩に見せたさっきのは私が私じゃなくなるので記憶もなくなっちゃうんです。なので、自分の力と言うよりももう一人の自分の戦果なのであまり使いたくないんです」
結衣が申し訳なさそうにそう言うとセラは優しく返答する。
「いえいえ、あれは確かに結衣さんの力ですよ。でも、結衣さんが嫌なら私も無理をして報告しようとは思いません。それではこれは私達二人の秘密ということでどうでしょうか? 」
その一言を聞き、結衣は泣き出しそうになりながらも嬉しそうに答えた。
「は、はい! 」
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