十章 アマルスクール 其の捌
ソドラ学園
最も風紀が乱れていながら学園内で一番の秩序を保っており、その全てを担うのが風紀委員会である。
風紀委員長兼執行官マガツ・シューヴァル。
桜子、レイズ、結衣の三人は学園の中心にある都市へと足を運んだ。
様々なビルが建ち並ぶ都市を見て桜子は目を輝かせた。
見たことないものばかりで辺りの目を気にせずにはしゃぎ回る。あちらこちらに行ってはレイズが首根っこを引っ張り、それを何度も繰り返した。
「すっっっっごいね!!!!!! これがビル! これが街! これが都市!!!! 見たことないモノばっかり!!!!!! 結衣もレイズもこんなところで生活してたの?! 」
大きな声が辺りに響くと視線が桜子に集まる。それを見て自分の知り合いであることに絶望し、おでこに手を置くレイズと既に魂が抜けた様な表情をしている結衣だけが桜子の近くにいた。
「お前は静かに出来ないのか?! 知り合いってだけで俺達が変な目で見られてるぞ! 」
レイズは怒りを露わにするも桜子の暴走は止まらず、あたり構わず走り回った。
二人が見える範囲でお店の出入りを繰り返し、レイズと結衣は彼女について行くことが出来ず、近くにあった椅子に腰を下ろすと同時にため息を吐く。
「おい、お前のルームメイトだろ。どうにかしろ」
「そ、そ、そ、そんな事、い、言われても本当に外に出た事ないなんて思わなかったし、うう、あんなに嬉しそうにしてると止めるにも止められないよ」
涙ながら結衣は語るも桜子が喜ぶ姿を見て、それはそれで悪くないかなと考えていた。
散歩ではしゃぐ犬を見ている様な気分になっていると桜子が色々なものを買ってきて彼らに飲み物と食べ物を渡した。
「えへへ! 嬉しくていっぱい買っちゃったから一緒に食べよう!」
コーヒーに紅茶、そして、大量のお菓子の山。
それをテーブルに広げて桜子は満足そうな表情を浮かべると頬張り始める。
レイズと結衣は互いに顔を見合い、ため息をつきながらもお菓子の山に手を出し、しばしの休息を楽しんだ。
しかし、そのしばしの静けさは一瞬にしてかき消された。
「でっかい! ビル! 興奮するな! アラン!」
桜子が静かになったら、彼女と同じ様にビルに目を輝かせる少女が大きな声が響き渡る。
「静かにしなよ、伊織。そんなにはしゃいでいたら田舎者だってバレるよ」
「こんなん興奮しない奴いないだろ!でっっっかい!!!!」
一人、はしゃぐ姿を遠目に見ていた桜子はついさっきまで自分が同じ様にしていたことを思い出し、少しばかり頬を赤く染めてレイズに喋り掛けた。
「ねえ、もしかして、私すっごく目立ってた?」
「そりゃ、もう、とんでもないほどに目立ってたぞ」
「恥ずかしい、もうお嫁に行けない」
「安心しろ、お前なんか欲しがる男のが少ない」
「レ、レイズくん、そ、そ、それは言い過ぎな気がするな、ってわ、私は思うな」
「そうだ! そうだ! 私を好きになってくれる人だって必ずいるはず!」
彼らが言い合う中、先ほどの二人が近づいて来ており、それに気づくと同時に急に周囲の空気がピリついた。
軍服の様な制服に身を包んだ彼らは威圧感押し出すと桜子達の目の前に立ち、片目に眼帯をした金髪の少女が口を開く。
「他の学園の生徒か! こんにちは! 俺の名前は望月伊織だ! よければ、俺もこのお茶会に混ぜてくれないか!」
唐突に現れた別の学園の生徒がお茶会に入って来ようとする異様な光景が広がるも桜子はそんなことお構いなしにと答えた。
「え! いいよ! 私は秤桜子! こちらの席でいいかしら?! 」
伊織と名乗った生徒は指示された席に座ると近くに置いてあった茶菓子に手を出し始める。
桜子は彼女と共に茶菓子を頬張り、結衣とレイズは何が起きているのかさっぱり分からず、唖然としていた。
何故か、他校の生徒同士がティーパーティを開き始め、あまりにも理解ができない状況に置いてきぼりになっていた二人の背後に伊織と共にいた生徒がいつの間にか立っており、声を上げた。
「申し訳ない、伊織はこうって決めたらやるまでとことんやるから止まらなくて」
急に背後から声をかけられ、結衣はびくりと飛び上がる。
レイズは結衣とは違い驚く素振りを見せず、そんな声を聞き、呆れながらも背後を向くと声の主の男が何者かなのかを理解した。
そして、理解したと同時にこの場で唯一、彼に対して警戒心を高めると睨みつけながら口を開く。
「他校の生徒に気安く喋りかけてくるなんて随分、余裕があるんだなアラン・カロ」
「あれ? なんで僕の名前知ってるんだい? これから自己紹介しようと思ったのに」
不思議そうな表情を浮かべるアランに対して、レイズはため息を吐きながら答えた。
「推薦組なのに入学式の試験に出て自分と数人以外全員倒して入学した。どんなイかれたヤツかと思いきや案外普通だな」
「わあお、初見でそこまで言われたのは初めてだ。でも、仲良くなれそうだよ、レイズ・ヴァリティタス」
「なんで、俺の名を?」
「情報に精通してるのは君だけじゃない、よろしくね、レイズくん」
そう言うとレイズの前に握手をしようと手を出した。
レイズは手を握らず、睨みつけると互いに見合い空気がヒリつき始めるもそれすらも二人の少女が切り裂いた。
「「ねぇ! 二人とも! なんで、そんなにピリピリしてんの!」」
「せっかくなんだし、仲良くしよう〜」
桜子がそう言うと茶菓子に手を伸ばす。
それに続いて伊織も同じ茶菓子に手を出すと二人同時に頬張った。
サクリと言う音が鳴るとバカらしくなったのかレイズはアランを睨むことをやめ、静かに自分の目の前に置かれてあるカップに手をつけた。
桜子はレイズがおとなしくなったことを見て、ニコニコしながらお茶を飲むと伊織が元気よく声を上げた。
「桜子! お前、いい奴だな! 気に入った! うちの学園来いよ」
突然の勧誘を受けた桜子は少し驚くもすぐに笑みを浮かべてそれに答える。
「それは嫌! 伊織はいい人だっての分かるけど私、アマルスクールの生徒会役員候補生にも選ばれてるし! 何より、みんないい人で、私、嬉しいんだ!」
元気よく放たれた答えを聞いた伊織は桜子同様の笑みを溢す。
「そっか〜、なら、仕方ないな、仕方ないから死んでもらう」
最後の一言を残し、細い腕を前にしてその場にいる人間全員に殺意を向けた。
「起動」
放たれた狂言と幻想換装の起動詠唱。
一瞬の隙から、桜子の胸へと伊織の手に握られた刀が放たれる。
友人と思っていた者からの言葉と攻撃に桜子の判断が鈍り、彼女に向かって放たれる凶刃に反応が追いつかない。
「起動!」
その一撃が当たる直前、レイズは水色の髪を靡かせながら、伊織に向けて両手に握られた鎌を振るった。
伊織は刀の方向を変え、レイズの鎌を防ぐとすぐに桜子達から距離を取る。
そして、自らの体に眠る神秘を顕すために再び声を上げた。
「桜子! 俺は、お前が好きだ! 大好きだ! だけどなぁ、お前が役員候補生ってなら、話は別だ! 速いうちに敵は摘んでおくに限る! 俺の名前は望月伊織! 黒き刃の因果を持つ者! 恐れ慄け! 戦神たる俺の姿を!」
神秘の開示により、肉体に廻る神秘は最高潮に達すると舌を出し、この世全てを馬鹿にするように吐き捨てた。
「神秘解放、黒煙神」
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自作の続編でもあるのでもしよろしければこちらも是非!