43 襲い来る試練
「んもう、ユウくんったらあ! 大胆なんだからあ!」
放課後、事務所へと向かう姫野の車の中。しっかりとシートベルトを着用したまま──座ったまま、喜びに身を任せて肩で体当たりをするという芸当をユリはしてみせた。もちろん、その相手はユウである。
「み、みんなが見ている前であんなこと言うなんてぇ……! も、もしかしなくてもこれって匂わせってやつ……!?」
「待て待て、話が飛躍しすぎだぞお前……」
「順調に頭がぽんこつになってるわね、この娘」
「だって姫野さん! あのユウくんがそんなこと言うなんて信じられる!? これはもう、私に興味があるって言ってるようなものだし……きゃっ!」
きゃー、きゃーとはしゃぎながら、ユリはほっぺを真っ赤にして身をくねらせた。ここまで露骨であからさまな態度を取られると、マジなのか冗談なのかユウには全くもって判別できなくなってしまう。この時ほど、ユウは自らの経験の無さを呪ったことはない。
「お前がもっと興味を持てとか、クラスのみんなと同じように馴染めとか言ったんだろうよ……。言っとくけど、妹がくよくよしてたからってのはマジだからな。こうして毎日顔を合わせているんだ、俺自身はお前の復帰の時期に興味は無いってのは知ってるだろ?」
半ば言い訳のようなユウの言葉に、ユリはにこーっと満面の笑みを浮かべて答えた。
「うんうん、わかってるって! そういう照れ隠しだよね、ユウくん!」
「この野郎……」
どうも、今のユリはすっかり頭が出来上がってしまっているらしい。まともな会話は無理だと判断したユウは、この場にいるもう一人の関係者──姫野に話を振った。
「マジな話、どうなんです? あれからもう結構時間も経ちますし、今まで通りこのまま……ってわけにはいかないんでしょう?」
「ユウくんの言う通り、そろそろ復帰のイベントを計画しているわ。この前、ようやく例の後始末が片付いたから」
警備会社の方か、それとも警察の方か。どうやら、その辺の深い事情については語る気が無いらしい。ただ、姫野自身が片付いたと言っている以上、もはやユウが気にするようなことでもないのだろう。
「忙しくなるわよ、これから。……もちろん、ユウくんにも色々協力してほしいのだけれど」
「仕事の範囲なら、問題ないっすけど……具体的には、どんなことするんですかね?」
「んー……外でのリハーサルとか、そういうのに同席してほしいわ。というか可能な限り、この娘の傍にいてあげてほしいの」
「……」
「取材、撮影、リハーサル……そこで一緒になる人たちは、たしかにファンやお客さんじゃなくて関係者や仕事仲間と呼べる人たちだけど。それでも決して、同じ事務所の身内ってわけじゃない」
「であれば、油断はできない。念には念を入れておくに越したことは無い。そうでなくとも……ヤバい奴ってのはどこから湧いて出てくるかわかったものじゃない」
「そういうこと」
ユウは知っている。基本的に、絶対に安心で安全なことなんてこの世には存在しないのだ。仕事仲間であろうと身内でなければよからぬ考えを持つ者がいないとも言い切れないし、もし善良な人間しかいなかったとしても、外で活動する以上、偶発的にヤバいのが突撃してくる可能性も十分に考えられる。それこそ今の時代では、たまたま一瞬誰かに顔を見られただけでも、あっという間にSNSで拡散されて居場所が特定されて……なんてことは大いにあり得ることだ。
「了解っす。むしろそれこそが本来の領分ですね」
「ちょ、ちょっと待ってよユウくん……! 一緒にいてくれるのは嬉しいけど、なんかその、物騒過ぎない? 姫野さんも大袈裟過ぎっていうか……」
「残念だけどね、ユリ。これが本来の対応なのよ。人を疑わないあなたのそれは美徳だと思うけれど……だからこそ、周りが気を引き締めないといけない。……いいえ、あなたがあなたらしくいられるようにすることが、私たちの仕事と言ってもいいかしら」
「ヤバい奴ってのはこっちの常識が通じないもんだからな。例の事件の模倣犯だって出てくる可能性がある」
「え……」
「──だから俺がいる。お前は何の心配もしなくていい」
ユウであれば。咲島流師範代として、この現代日本の生まれとはとても思えないほどの精神性と身体能力を持ちあわせるユウであれば、その辺の問題は解決できる。素人が刃物を振り回したところでユウが後れを取るはずも無いし、不埒な輩が周囲に近づこうとした段階で、その気配を察知してしかるべき対応をすることができる。
そのために、姫野はユウと契約を交わしたのだ。
「……ね、ユウくん」
かーっと赤くなったユリが、妙にしおらしい感じでごにょごにょと呟いた。
「……それは、おしごとだから?」
「うん?」
「優香ちゃんは、仕事じゃないのに助けてたじゃん……」
「お前なあ……」
じとっとユウがユリを睨もうとする……も、ユリはそっぽを向いている。もしこれが夜で、そして光の反射が上手い具合になっていれば、ユリのその表情がユウにも見えたかもしれない。
「あの状況で見知った仲であるクラスメイトを見捨てるってのは、人として問題あるだろ」
「そうだけどぉ……! だってぇ……!」
「……だいたい、それを言うなら」
──初めて会ったとき。すでにユウは、仕事どころかクラスメイトでも何でもない、正真正銘赤の他人であったユリを助けている。アイドルという肩書も知らなかったばかりか、グラサンでマスクで芋ジャージというどこからどう見てもヤバい不審者にしか見えないユリを助けている。
「それを言うなら?」
「……いや、何でもない。とにかくお前は、余計なことなんて考えずにいろってことだ」
でも、それを言ったら言ったでまた変にご機嫌になるんだろうな……なんて思い当たって、ユウはその言葉を口にしなかった。もしこの狭い車の中でユリがそんな風にご機嫌になってしまったら、男子高校生的には気恥ずかしいったらありゃしない。いくら百戦錬磨の武術の腕を持つユウでも、そういう照れくささにはてんで弱いのだから。
「ま、ともかく。ユリは少しずつ仕事を元に戻していくわ。ユウくんの方も、平日の仕事は少なくなるけど、その分休日での対応が増えるって思って」
なんだかんだで、トータルで見たら今までよりも時間は増えるかもね──なんて、姫野はハンドルを握りながら呟く。バックミラー越しにちらりと二人の様子を伺って、そして何とも言えない様子でトントンと神経質そうにハンドルを指で叩いた。
「あ……そっか、復帰するってことは学校は……」
「……思った以上に入れ込んでいたのね、あなた」
「あはは、そりゃそうだよ……だいたい、学校生活もちゃんと楽しめって言ったのは姫野さんじゃん」
「ユウくんとの時間が増えるから、それで帳消しになるかなって思ったんだけど」
「それはそれで嬉しいけど、ユウくんとの学校生活が少なくなっちゃってるもん。あと、せっかくユウくんが良い感じにクラスに馴染めてきたのになあ」
「言われてるわよ、ユウくん」
「マジでもうどんな反応したらいいのかわかんねっす」
学校生活。これは間違いなく楽しかった。みんなは自分のことをアイドルとして認めてくれながら、それでいて普通の友人のように接してくれた。それはユリの中では初めての体験であり、大好きなアイドル活動と学校生活の両立という、まさに夢のような時間であったのだ。
その上で、そこにはユウがいた。普段付き合ってくれるユウはいわばプライベートのユウだが、学校でのそれはオフィシャル(?)なユウだ。そうでなくとも、学校という日常的でありかけがえのない特別な場所でのユウだ。その両方の姿を見られるうえに、二人だけの秘密すら共有しているという、マンガやドラマでもなければ体験できないような特別な関係ですらあった。これで楽しくないわけがない。
さらにさらに……学校ではどこか浮いていたユウが、本当の意味でクラスメイトになれたのだ。隠していた部分をさらけ出して、それがみんなに認められて、クラスの一員としてかけがえのない仲間になれたのだ。今までだって楽しかったのだから、これからもっと楽しい思い出が作られていくことは、もはや予想するまでもない。
だから。
だからユリは──ちょっとだけ、寂しいと思ってしまったのだ。
「気持ちはわからなくはないけどね。ユウくんはとうとう本気を出せるようになったし、学校生活はきっともっと楽しくなる。アイドル活動も適度にやれれば、もう何も言うことなんて無いもの」
「うん……でも、姫野さんが言ってることは正しいもん。クラスのみんなは友達だけど、それでもやっぱり、アイドルとしての私に期待しているから。だったら……私は、アイドルの方を取る」
それはきっと、ユリの心からの言葉。周りに宣言するとともに、自分に言い聞かせるための誓約。はっきりと口に出すことで、ユリは自分の気持ちを確かなものとしたのだ。
「……すげえな」
そういう風に、確固たる自分を持っているユリが。
大切なものを、自分の意志で選択することができるユリが。
ユウにはとても眩しく見えて──そして、言葉にできないくらい羨ましく思えてしまった。
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「しかしまぁ、地味に暇なんだよな……」
ユリの事務所。例の喫茶店的な場所のそこ。飲み物と軽食が出るからちょっとした打ち合わせをするのにそれ以上都合の良い場所は無く、いつぞやのちゃんと会議室を使うほどの重要な案件もないため、ここ最近は専らこのスペースでやり取りをすることとなってしまっていた。
今日もまた、ここに到着後にすぐにユウとユリは別れた。当然ユリはレッスンで、そしてユウは姫野との進捗確認である……のだが、何やら姫野は用事があるらしく、こうしてユウは一人で待ちぼうけとなっているというわけである。
「……」
目の前にはオレンジジュースと、いつものカツサンドがある。いや、正確にはあったの方が正しいだろう。すでにユウはカツサンドをぺろりと平らげ、オレンジジュースも飲み干してしまっている。最近はもう、ユウのお気に入りがそれだとわかっているからか、到着からほぼ間も空かずに用意されるようになっているのだ。
で、だ。
おやつを食べたら、暇になるわけで。
「…………」
一応、カバンの中にはゲーム機が入っている。ちょいと取り出しスイッチを入れれば、暇つぶしとして十分に機能してくれることだろう。
しかし。
「……」
ちら、とユウは受付の方に視線を飛ばす。
結構さりげなく見たつもりだったのに、受付のおねえさん──桜木 栞子というらしい──はすぐにユウに気付いて、にこっと屈託のない素敵な笑みを浮かべた。ついでとばかりに、こっそりと手元のところだけでひらひらと手を振ってさえいる。
おそらく、いいや、間違いなく。純情な青年が百人いたら九十人がそれだけでオチる。それだけの破壊力がそこには秘められていた。
「……さすがに、なぁ」
さすがにそんなおねえさんが遠くない場所にいる中で、子供っぽくゲームをするというのは少々憚られる。そもそもこんなアイドルの事務所で、男子高校生がそんなことをしていていいのかという疑問もある。本物じゃないとはいえ、ここが喫茶店というのも要因の一つだ。
社会人らしくノートパソコンで何かをするか、あるいはそれっぽい英語の新聞でも読むか。最もベターだと思われるそれらの選択肢は、学生であるユウには行えないものだ。
かといって、教科書を開いて勉強する気になんてなれるはずもない。これが大学生ならカフェオレ片手にレポート作成に勤しむことができたのだろうが、今の所課題は無いし、テスト期間でもないのに余計な自主学習をするほどユウは勤勉じゃない。
「むむむ……」
結果として、ユウはただぼんやりと虚空を睨みつけることしかできなかった。ゲームをしようと何をしようとそれを咎める人間なんてここにはいないのだが、そこは悲しい男のサガというものである。
「姫野さん、早く戻ってきてくれないかね……」
──そんなことを、呟いたからだろうか。
ユウのその願いは、ちょっと変わった形で叶うことになった。
「──あれ、なんか知らない人がいる……?」
「わぉ、生学ランじゃん。こんな近くで初めて見たかも」
「男子高校生? おお、これは珍しい。気分がアガるねえ」
おそらく関係者以外立ち入り禁止であろう廊下のその向こう。まさにユリが消えていったその先から、ユウと大して変わらない年頃の少女が三人ほどやってきた。それぞれタイプは違うものの、三人ともが整った容姿をしており、そういうのにはかなり疎いユウでさえも「学校全体のトップ5には余裕で入るだろうな」……なんて感想を抱く程である。
「部外者? 部外者?」
「そ、そんなことないと思うけど……お客さんって感じもしない、よね……?」
「堪らないね、この非日常感。やっぱ人生、こうじゃないと」
で、だ。
なぜかその少女たちは……より正確に言えば、そのうちの二人がにんまりと笑って距離を詰めてくる。完全にユウのことをロックオンしていて、おもしろいおもちゃを見つけたかのような表情だ。ちょっとおどおどしたタイプの娘が後に続くころには、すでにその二人はユウの座っている席のすぐ近くまで来ていて──。
「相席するぜい」
「拒否ったら大声出しちゃおっかなー?」
さも当然のように、ユウの両隣に腰を下ろした。
「……あの」
「まーまー少年、そう警戒しなさんな」
「そうそう。驚く気持ちはよぉくわかるとも。自分で言うのもアレだけど、こんな機会はそう滅多にあるものじゃないからね。……ちょっと暇つぶしに話し相手になってもらいたいだけ。あなたは私たちと夢の時間が過ごせる。ほら、ウィンウィン」
やべェな、とユウは必死に思考を巡らす。この二人、ユリとはまた違った意味で押しが強い。自分自身に相当な自信を持っているようで、ユウがこうして口ごもっているのを、自分たちと話せたことが嬉しすぎて感極まっているためだと信じて疑っていない。
「ふ、二人とも……ちょっと強引すぎない、かな?」
「なーに言ってんの。これくらいぐいぐい行かなきゃ向こうの方が緊張しちゃって動けないって経験でわかるでしょ? ……それよりミチルも座りなよ。安全保障付のナマ男子高校生なんてそうそうないよ? いろいろ面白そうじゃない?」
「……ハイ、仰る通りです。そういうの、実は結構大好物です」
ストン、と最後の一人も恥ずかしそうにユウの正面に腰を下ろしたことで、ユウは完全に包囲される運びとなった。
「さて、まずは少年の正体からかね?」
「まさかただのファンってことじゃないだろうしなあ。桜木さんも平然としているから、何かしらの関係者ではあるんだろうけど……学ランのまま来る関係者なんているっけ?」
「……あっ、せっかくなので当てさせてくださいね? ……ふふふ、たまにはこっちが尋ねる側になるのも楽しいものですね」
やべェな、とユウは改めて考える。整った顔立ちにこの口ぶり、何よりこの特有の溢れる自信を見れば、この三人がこの事務所に所属しているアイドルであることは疑いようがない。というか、もしこれでただのバイトとか近所の遊びに来た学生とかだったりしたら、日本の顔面偏差値が恐ろしいことになってしまう。
そして悲しいことに──ユウは、超有名アイドルであろうこの三人のことを、全く、これっぽっちも知らない。
「……おやあ? なんか少年、青ざめているというか、冷や汗をかいていないかね?」
「そりゃ、この超弩級美少女アイドルに囲まれたら、ぱんぴーは緊張するってもんでしょ」
「あの……ホントに、変に緊張しなくても大丈夫だからね? みんな年は大して変わらないだろうし……ほら、リラックス」
「はは、ははは……」
ユウは知っている。
アイドルという人種にとって。それも、自分が有名で羨望の的であると疑っていないアイドルにとって、「知らない」という一言があらゆる意味で禁句であることを。
そんなことを言ってしまったが最後、かつてのあの時のように豹変してブチ切れられるかもしれない。ユウの見立てでは、右隣にいる赤い娘がそういうタイプだ。でもって左隣にいる黄色い娘は、冷静さを保とうとしながらもショックを隠せないようなタイプだろう。一番厄介と思われるのが正面にいる青い娘で、おそらく……顔は笑顔でありながらも、くすんと泣いて一粒の涙を流す。ユウの野生のカンがそう告げていて、そしてユウにとっては一番心に堪える反応に他ならない。
そして、それ以上にヤバいのが。
「あー……やっぱめっちゃ喉乾いた」
「先に飲み物頼んでおくべきだったねえ」
三人ともが、結構な汗だくだ。きっと今までずっとダンスか何かのレッスンでもしていたのだろう。いつぞやのユリと同じく、額には玉のような汗が浮き出ているし、髪はうなじにぺとりと張り付いている。イメージカラー(?)の薄手のシャツも、なんかもう男である自分が見てしまってもいいのかって状態になってしまっていた。
そんな三人が──少なくとも両隣を固めているのだ。健全な男子高校生であるユウにとって、それはいろんな意味で試練であった。
「ね、ねえ二人とも……その、今更だけど、私たちって……あ、汗臭くない?」
よく言ってくれた、とユウはなるべく表情を変えないまま、真向かいにいる彼女に心の中で拍手喝采を送った。
「うん? 本番のライブの時はもっと酷い状態で、もっといろんな人に見られているだろう?」
「それにだいじょぶ、私達アイドルだから。アイドルは汗臭くなんてならない。むしろめっちゃ良い匂いする」
マジだから困るんだよ、とユウは心の中で舌打ちした。
「そっか……そうなの、かな?」
「そーそー。それに……誰の知り合いかわからないけど、その方が面白いでしょ?」
今時珍しいくらいにウブみたいだし、と赤の娘が拳一つ分ほど距離を詰めた。
「嬉し恥ずかしなんとやら。からかいがいがあるってのはいいものだ」
本人も誰かさんもおちょくれるしね、と黄の娘も拳一つ分ほど距離を詰めた。
「…………なんか余計に、顔が青くてなっているような?」
「ははは、何をバカな。そんなのミチルの見間違え……うわ、ホントだ」
「まさかあ、そんなの気のせいに……うわ、冷や汗えっぐ」
アイドル三人に囲まれているこの状況。それも、三人ともが健全だけどちょっとドキッとするような格好をしていて、文字通り肌が触れ合うほど近くにいる。男だったらまさに夢のようなシチュエーションで、しかも完全合法と来た。
だというのに……ユウの冷や汗は止まらない。ここにはいないはずの誰かさんが般若の如き形相をしているのをなぜか幻視してしまい、別に悪いことなんてしていないはずなのに、凄まじい罪悪感と恐怖が心に満ちていく。
例えるなら、心臓に氷のナイフを突き刺されたような。これほどまでの悍ましさは、ユウの人生の中でも数回しか体験したことは無い。
「これはもう、アレだな。アレしかないよ」
「アレって言うと……アレ?」
「うむ。見たところ極度の緊張かそれに近しい状態にあるらしい。であれば、適当に散策なりして心を落ち着かせるべきだろう。よく言うじゃないか、肉体と精神は密接な関係がある、だから体を動かせば気分も良くなる……って」
「それじゃあ、善は急げだね!」
赤の娘と、黄色の娘はにんまりと笑って──そして、ユウの手を取って立ち上がった。
「せっかくだ、この事務所の特別探索ツアーとしゃれこもうじゃないか」
「それもアイドル自らのエスコートつき! いよっ、世界で一番の幸運の持ち主さん!」
──ユウは、大事なものを失う覚悟を決めた。




