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29 『仕事だからな』


「咲島ァァァ──ッ!」


「──見え透いた演技だ」


 もはや何度目かもわからない、ユウとユリを引き裂くように投げられたボール。ユリの腕をがっしり掴んだユウの腕をブチ壊すかのように飛び込んできたそれ。肉体の反射として、気づいた時にはそれから逃れようと──ユウの体から離れようと動いてしまったユリ。


 そんなユリを、逃さないとばかりにユウが止めた。


「なっ──!?」


「だ、だいたん──!?」


「あああァァァ──ッ!?」


 ボールが曲がる。ヘアピンとか、バナナとか、あるいはブーメランと例えられるほどに。ぐにゃりと歪んだ進行方向を取ったそいつは、しかし何にもぶつかることなく虚空をかけていく。


「危なかったな。普通に避けていたら確実にアウトだったぞ」


「え……ボールってあんなに曲がるの……?」


「曲がる。曲げられる。男子の中では常識だ。……あいつら、猛っているように見えてその実かなり冷静だぞ」


「今お前のおかげで、そのわずかに残った冷静さも吹き飛んだぜェ……!」


「冷静さを失ったら、俺を倒すことなんて絶対にできないぞ」


「──ッッ!!」


 ブチブチブチ、と何かが切れる音を、ユリは確かに聞いた気がした。


 そして、次の瞬間。


「──きゃあっ!?」


「舌、噛むなよ!」


 回る。回る。世界が回る。あっちに引っ張られ、こっちに引っ張られ。しゃがんだり立ったり、時にはがっちり止められたり。自分がどっちを向いているのか、そもそも何をしているんかもさっぱりわからない。


「う、わー……」


「いや、たしかに……それがベターではあるんだろうけど……」


 女子がドン引きしている。男子は怒りに狂っている。


 それもそうだろう。


「きゅ、きゅう……」


「大丈夫だ。体の力を抜け。そうすれば何の問題もない」


 よく言えば、二人でダンスを踊っているかのよう。優雅なステップを踏んで、華麗にボールを避けているように見える。腕をとって時折肩を抱いているのだから、ジャージ姿であることに目をつむれば──シルエットだけを見たら余計にそう見えるだろう。


 でも、現実的に言うならば。


「振り回している……物理的に振り回している……」


「逆にすごいわ……咲島、あいつどんだけの怖いもの知らずなんだよ……」


 一人の男子高校生が、大人気アイドルを振り回している。子供がふざけているかのように、引っ張ったり押したり、ぐるぐると回したりしている。その動作すべてがボールを避ける行動になっているのが、逆に信じられないくらいであった。


「ユイ。俺はお前を信じてる。だからお前も……俺を信じてくれ」


「ゆ、ユウくん……それ、女の敵が言うセリフ……うぇぷっ」


 あ、そろそろホントにヤバいかも──だなんて、ユリがアイドルとしても、一人の女の子としても覚悟を決め始めたころ。ようやく、事態が少し動いた。


「──隙ありぃ!」


「んなっ!?」


 ユウがユリを振り回し、ボールを避けたまさにその瞬間。男子の陣のほうから、そんな声が聞こえた。


「おまえ……ッ!」


「ボールに当たったんならさっさと外野へ行ってっ!」


 ボールを投げた格好のまま、声を上げる上村。予想外すぎる一撃を無防備な背中に食らい、呆然としている一人の男子。


 普通だったら、主力女子とはいえ上村が主力男子にボールを当てられるはずがない。ましてや、主導権は確実に男子チームにあるなかで、隙だらけの背中に攻撃するというチャンスが巡ってくるはずもない。


 それを可能とさせたのは──。


「うわぁ……あそこまでやるのか」


 ユウの顔が若干引きつる。


 その目の先には、ユウが先ほど避けたものとは別の……もう一つのボールがあった。


「ボールが一つなんて決めてないですぅーっ!」


「そうそう! うちらの地元じゃこれが普通なんですぅーっ!」


 ただ外野で見ているだけではなかったのだろう。おそらくその時間を使い、女子の誰かが新しいボールを探してきたのだ。さっきまで使っていたボールと微妙にサイズが違うが、しかしドッジボールに使えそうな手ごろな大きさなら何の問題もない。そして、その程度のボールなら体育倉庫を探せばいくらでも見つかる。


「うそつけ! お前、俺と小学校同じだろうが!」


「……女子のドッジではそうだったの! つべこべ言うな!」


 ボールの一撃よりもはるかに鋭い口撃を、女子たちは総力を挙げて叩き込む。それに男子陣が気を取られている隙に、上村はちゃっかりとコート内に戻ってきていた。


「おまたせ、ユーリちゃん! ……さすがに咲島ばかりにいいカッコさせられないからね!」


「ありがとう……! これで、少しは楽になる……!」


「咲島も、私が戻ってきたんだからユーリちゃんにこれ以上手荒な扱いは──」


「隙ありィ!」


「ぎゃんっ!?」


 ゲームは終わっていない。そして、ボールは二つある。コートに戻った直後の隙。その隙を見逃す男子じゃない。


「ちょっと! 今のはずるいでしょ!」


「うるせえ! コート内にいるやつに当てただけだ!」


 ましてや、先ほどから想定外の活躍を見せているユウに、そのユウに守られているユーリに比べて、上村は実に狙いやすい獲物だ。倒せそうなやつから倒すという男子のその行動に、何ら矛盾も咎められる理由もない。


「ちっくしょお! 覚えてろぉーっ!」


 さすがの上村も、これには反論できないと思ったのだろう。恨みがましく男子全員をにらみながら、意外にも素直に外野へと帰っていく。


「……また、二人きりになっちゃったね?」


「……誤解を招きそうな表現はやめようぜ?」


 再び二人きりに戻ったユウとユリ。少しでも気を紛らわせたいのか、あるいはテンションがおかしな方向に振りきれてしまっているのか。とんちんかんなことを口走るユリに、ユウはあえて返事をする。


「……男の子って、こういうセリフにドキドキしたりするものじゃないの?」


「別の意味でドキドキしているよ。もう、そんなおふざけする余裕はマジでなさそうだ」


 ほら、とユウは彼方を指さす。


「う、あ……」


 ボールが三つ。いや、四つ。どうにも攻撃が落ち着いているなと思ったら、外野に追い出した男子が新たなる脅威を持ち出してきていた。


「てめえらが……! 始めたことだからな……!」


「うーん、言い訳できない」


 そりゃそうである。女子たち自身がボールを複数持ちだすという独自ルールを作ったのに、それを男子が利用しない理由が無い。二つが良くて三つが許されないなんて話は、それこそローカルルールにも一般的なルールにも謳われていない。


 ここで男子が女子より抜きんでていたのは、一個追加だなんてケチ臭いことはせず、ユウを確実に仕留めるために複数個のボールを持ち出してきたことだろう。しかもそのうえで、体育倉庫のボール入れを死守している。これではもう、女子による横やりも入る余地はない。


「前後左右……逃げ場はないぞ」


 男子内野。男子外野の三面。ユウの前も後ろも、右も左も逃げ場はない。ほぼ全方向に敵がいて、ユウにそのボールをブチこもうと息巻いている。どこに逃げようとも、誰かの攻撃範囲内に入ってしまう。


 絶体絶命。普通の人間だったら諦めるしかない状況。実力のあるやつに狙われるだけでもきついのに、それが四方向から同時ともなれば、もはや負けを受け入れる以外の選択肢はない。


「咲島ァ……さすがのお前でも、これで被弾しないってのは物理的に無理だろう……」


「……」


「だけど、お前だって同じ男子の仲間だ……そして、矛盾するようだがユーリちゃんを守ってくれたりもした……」


「……」


「……だから、同じ男子として最後の情けだ」


「……ほう?」


 敵側からのもったいぶる言葉に対し、ユウはあえて反応して見せる。


「取引しよう。負けてくれたら……降参してくれたら、これから一か月間、日替わりでウィンナーパンを持っていってやる」


 ユウが食べているいつものウィンナーパンなんて、百円もしない。一人が一か月分すべてを負担するというならそれなりの額になるが、それを男子全員で分担するとなれば、一人当たりの支払いはワンコインで済む。それこそ、毎日日替わりで男子の誰かがユウにパンを一つ奢るだけの話でしかない。


「ざっくりだが、二千円くらいは浮く計算になる……そこそこ良い中古のゲームが買えるんじゃないか?」


「む……」


 男子はユウの性格を知っていた。ユウが中古の古いゲームをこよなく愛していることを、ユウが昼餉に毎日ウィンナーパンを食べていることを知っていた。


 だから、取引を持ち掛けた。


 今まで想像することすらできなかった、ユウの意外過ぎる一面。さすがにこの状況なら攻撃を躱されるはずがない、自分たちが負けになることなんてありえない──と思いつつも、万が一の可能性がある。予想外の事態が立て続けに起きている今の状況で、それはあまりにも怖い。


 だから、過剰すぎる保険としてこの取引を持ち掛けたのだ。


「……たしかに、悪くない取引かも?」


「「ええっ!?」」


 慌てたのは、女子の方だ。


「そ、そんなことで勝負を投げるなぁ!」


「女子のみんなで一緒にご飯食べてやる! 手作りおかずもくれてやる! 何ならデートもつけてやる!」


「ハーレムだぞ! 男の夢だろ! 中古ゲームよりずっといいだろ!」


「気まずすぎるだろそれ……」


 女子たちが口々に叫ぶ甘い誘惑。男子の提案が載せられた天秤の皿を、無理やり持ち上げるような報酬。一般的な男子なら飛び上がって喜びそうなそれも、しかしユウにとってはあまり美味しくない。それでユウが美味しい思いをできるなら、そもそもユウはこの場にいない。


「はあ!? 女の子よりもウィンナーパンなの!? あたしたち、百円のウィンナーパンに負けるの!?」


「ふざけんな咲島ぁ! さすがにそれは取り消せよぉ!」


 さすがのユウでも、百円のウィンナーパンと女の子だったら、女の子の方を取りたいとは思っている。純粋に、男子の妬みを買ってまで女子たち全員と一緒にお昼ご飯を食べるのは労力に見合わないというだけだ。


 なにより。


「……女の子全員と、お昼ご飯食べたりデートできるチャンスだよ? 手作りのお弁当もついてくるって。……いいの?」


「いやぁ……」


 あからさまに不機嫌になるユリを見て、ほいほいと頷くわけにはいかない。ユウは確かに女の子のことはさっぱりわからないが、それでも不機嫌な奴と踏んだら明らかにヤバい地雷くらいは見抜けるのだ。


「さすがに気まずい……ある意味じゃ拷問だぞ……」


「ふーん……? そういう照れ隠しかな……?」


「いや、マジだって。お前と一緒に飯食ってるほうが何倍も楽しい」


「みゅ……っ!?」


「でもウィンナーパンはもっと嬉しい」


「バカぁ!」


 男子の一撃とほぼ変わらないほどの怨念が込められた平手を、ユウはひょひょいと避けた。素人の一撃なんて、食らってあげられるはずもないのだ。


 最初とは別の理由で真っ赤に染まったユリの顔を見て、少しばかりからかいすぎたか──と、ユウは反省する。ちなみに、ユリとの食事とウィンナーパンだったら、時と場所さえ選べればユリとの食事の方に少し傾くかも……というのがユウの本音であった。


「わっ、わたっ、わたしよりもそっちをとるの!? まさか、ウィンナーパンで私を売るの!?」


「いや、売らないけどさぁ」


「私、ウィンナーパンに負けるの!?」


「や、だからそれは冗談だって」


「さきしまァ……てめぇ……!!」


 ──さすがに、これ以上は無理か。


 なんとなく、空気を読んで止まっていた試合。ユウとて、ただ無駄に茶番をしていたわけじゃない。できるだけ……それこそ、最低限ユリがまともに動ける程度には時間を稼ぎたいという意図があった。ユリのほうがそれに気づいているかはわからないが、結果としてはうまい具合に誘導できていただろう。


 しかし、これ以上は許してくれないらしい。もう待ちきれないとばかりに、男子の目は血走っている。


「なぁにユーリちゃんと楽しそうに話してんだよオイ……?」


「舐め腐りやがってよぉ……!」


「俺たちの慈悲を無碍にしやがって……!」


 す、とユウは構えをとる。ユリの傍に寄り、ほんの少しだけ腰の位置を低くした。足は肩幅と同じくらいに開いて、体はやや前傾に。


「え……ユウくん?」


「動くなよ」


 高まりつつある闘志。言葉にできない重圧感がコートに満ち満ちていく。それはユウに攻撃を加えようとしている男子の物なのか、はたまたそれを迎え撃つユウの物なのか。西部劇の決闘さながらの緊張感がぴりぴりとその場にいたみんなの肌を刺激し、一種独特の雰囲気があたりを包み込んだ。


 遠くから霞むように聞こえる音。風の音だけがやたらとうるさい。


 誰かがごくりと、息をのむ。


 それが、合図であった。


「くたばれ咲島ァ!」


 一斉に投げられた四つのボール。ユウが思わず称賛の言葉を送りたくなるくらいに、タイミングはばっちりと合致している。そして、一切の遠慮も容赦もない至高の一撃であった。


(……)


 前。後。左。右。合図する暇も、作戦を伝える暇も無かったはずなのに、どれもが微妙に高さをずらしてある。どれかを避ければ確実に残りの三つにぶつかるし、一つをキャッチできたとしても、やはり体のどこかに残りのボールが当たる。


 加えて、ユウはユリを守らなくっちゃならない。


 ならば。


「ぃよっしゃぁッ! 確実に取ったッ!」


 ユリの肩を抱き、ユウは後ろから来たボールを避けた。いや、正確にいえばそのボールの軌道から体を避けた。このまま順当に未来が訪れれば、後ろから来たそいつに限って言えば、ユウの体に触れることなくどこか明後日の方向へ飛んで行ってしまうことだろう。


 しかし、それを意味するのは……残りの三つのボールには当たるということだ。


「──当たってやるよ」


 ばん、と奇妙な音。


「よっしゃ、アウトだ──!?」


「いや、待て!?」


 ユウの体にその三つのボールが当たった。


 いや、違う。


 ユウの方から、そのボールに当たりにいった。


「あいつ、何を──!?」


 左から来たボールには、ユリをかばった腕で突き上げるような肘突きを打ち込む。

 前から来たボールには、右腕で残像が残るほど強烈な突上打を叩き込んだ。


 ほぼ同時に放たれたそれは、物理法則の当然の帰結として、二つのボールを優しく空へと打ち上げた。


 空へ──真上へと打ち上げていた。


「まさか……! まさかまさかまさか、あの野郎……!」


 避けられない。キャッチもできない。


「──弾いて受け流しやがった、だと!?」


 なら、弾けばいい。


 弾いて受け流して、フライとなった球をキャッチすればいい。打ちあがった球を取るだけなら、それこそ女子でも──小学生でもできることだ。


「そんな、バカな……! どんな球でも無力化できる……そんなの、理論上だけのはずだ……!」


「落ち着け! あんなのまぐれに決まってる! それに、弾いたのをキャッチするったって、あいつの体は一つだ! どうやってボールを二つもキャッチするんだ──」


「──ユイっ!」


「はいっ!」


「「あ」」


 以心伝心。 ユウの意図を正確に汲み取ったユリは、両手を大きく広げた。


「──ととっ!」


「ナイスキャッチ」


 ぽすん、と胸で優しく受け止められたボール。もともとそれほどなかった衝撃が、それによって完璧に殺された。ついつい間近でしっかりそれを見てしまったユウは、ほんの少しだけ頬を赤らめ、気づかれないうちに顔を逸らす。


 ──もちろん、自身も打ち上げたボールをしっかりキャッチしていた。


「の、乗り切った……!」


「いや、まだだ! あともう一個は!?」


「どこいった、どこにも──!?」


「そもそも、あのボールはどうやって捌いた……!? 左腕も右腕も、もう使って……」


「──蹴ったんだ」


「見えたのか小野寺ぁ!?」


 部活の特性上、必然的に足さばきに注目してしまう小野寺だけが、最後の一投を……ユウがどうやって処理したのかを正確に見抜いていた。


「咲島は……! 両腕で二つのボールを打ち上げると同時に、残りの一つを思いきり蹴り上げやがったんだ……!」


「馬鹿な……あの体勢から……!? じゃあなんだ、その最後の一つは今──!」


 その場にいた全員──もちろんユリもだ──が、一斉に上を見た。


「──あった!」


 高く高く、ボールが宙を舞っている。真上に来ている太陽と重なるように、ボールが天高い位置まで蹴り上げられている。小野寺に言われるまで誰もその存在に気づけなかったのは、ユウの動きが見えなかったのはもちろん、太陽の光にそれが隠されていたからというのもあるのだろう。


「嘘だろ……! どんだけ高いんだよ……!」


「蹴り上げられて、すでに数秒は経っているはずだぞ……!?」


 ともかく、高い。いったいどれだけの高さなのか──下手したら、学校の校舎なんて飛び越えてしまうくらいに高いんじゃないかと思えるくらいに高い。背景がどこまでも広がる青と偉大なる太陽の光だから、誰もその正確な距離感を掴むことができないのだ。  


「だけど、これなら!」


「ああ! これならキャッチできない!」


 高く蹴り上げすぎたボール。キャッチできればセーフだが、キャッチできなければ当然アウトだ。そして、あまりにも高く打ち上げすぎた場合、わかっていてもキャッチは困難になる。


 風の影響。重力加速度。ついでにまぶしい太陽。運動ができるやつであっても、これほどの条件がそろってしまってはキャッチできるかどうかはかなり怪しい。さらに付け加えるなら、ボールを持っているユウは、両手を満足には使えない状態にあるのだ。


「これで……男子(俺たち)の勝ちだ!」


「──それはどうかな?」


 ユウが呟いた、まさにその瞬間。



 ──キー……ンコー……ン、カー……ンコー……ン



 校舎から響く、昼休み開始の鐘。


「鐘が鳴った瞬間に、授業は終わりだよな」


 ばすん、と大きな音を立ててボールが落ちてきた。ぽーん、ぽーんと数回ほど大きく跳ねて、やがては勢いを失ってころころと転がっていく。


「キャッチはできなかったが……そうなる前に、試合終了(タイムアップ)だ」


 どのみち、全滅は免れていたけどな──というユウのセリフは、女子たちの大歓声にかき消されることとなった。


「ユウくん……信じてたよ!」


「ま、仕事だからな……それに」


「それに?」


 言うべきかどうか少し迷って。キラキラした顔をしているユリを見て、ユウも心を決めた。


「──言われた通り、ちょっとは活躍しただろ。今はこれくらいで勘弁してくれよ」


「……しょうがないなあ!」


 ユウを讃える女子の黄色い声。地獄の底にいる亡者のような男子の呻き声。ユリの嬉しそうな表情と、どこからか漂ってくる美味しそうなランチの香り。遠くの方でぽつんとしているボールを余韻に、ユウたちの聖戦は女子チームの勝利という形で終わりを告げた。

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